この記事を読んでわかること
・脳卒中後の神経変化とレストレスレッグス症候群
・脳卒中患者におけるレストレスレッグス症候群の発症率
・脳卒中の回復プロセスとレストレスレッグス症候群の症状
脳卒中は脳を栄養する血管が破綻し、脳細胞が壊死する病気の総称です。
一方で、レストレスレッグス症候群(RLS)とは、足を動かしたいという強い欲求が不快な下肢の異常感覚とともに生じる神経疾患であり、近年脳卒中との関連性が注目されています。
この記事では、 脳卒中とレストレスレッグス症候群の関連性について解説していきます。
脳卒中後の神経変化とレストレスレッグス症候群
脳卒中とレストレスレッグス症候群の関連性を理解するためには両者の病態を把握しておく必要があります。
脳卒中とは、脳梗塞や脳出血・くも膜下出血の総称で、脳を栄養する血管が破綻し、脳に栄養を送れなくなることで脳細胞が壊死する病気です。
出血や梗塞が起こる部位に応じて、麻痺やしびれ・構音障害・嚥下障害・認知機能障害などさまざまな症状が出現します。
一方で、レストレスレッグス症候群(Restless Legs Syndrome:RLS)とは、下腿部や足背・足底部・大腿部を中心としたむずむず感・不快感と、「脚を動かしたい」という強い衝動を主症状とする疾患群です。
原因によって、大きく2つに大別されます。
- 特発性:原因が特定されていないもの
- 2次性:他の疾患、あるいはなんらかの薬剤が原因として特定されているもの
特発性の場合、主に中枢性ドーパミン作動神経の機能障害・鉄代謝異常・遺伝的要因などが原因として推定されており、中でも中枢性ドーパミン作動神経の機能障害が最有力と考えられていますが、はっきりとは分かっていません。
一方、2次性の場合、主に慢性腎不全・鉄欠乏・妊娠・ 神経疾患・脊髄疾患・膠原病・薬剤など、さまざまな疾患や薬剤が原因となります。
しかし、それぞれの病態がどのように作用してレストレスレッグス症候群を発症するかまでは解明されていません。
実は脳卒中とレストレスレッグス症候群は、互いに互いの発症に関与している可能性が高く、近年両者の関連性に注目が増しています。
まず、レストレスレッグス症候群では脚のむずむず感・不快感が強く、症状が夕方から夜間にかけて出現しやすいことからも、睡眠障害の原因となります。
精神的ストレスが増すことで交感神経が持続的に活性化してしまうことが知られており、血圧や心拍数の上昇によって心疾患や脳血管障害(脳卒中)のリスクが高まることが知られています。
一方で、脳卒中によって脳細胞への血流が途絶すると、脳細胞の活動を維持するための酸素や糖質の供給が不足し、すぐに壊死してしまいます。
そのため、ドーパミン作動性神経に関わる部位が障害を受けることで、レストレスレッグス症候群の症状が出現すると考えられます。
このように、両疾患ともに互いの症状の原因となりうるため、早期発見・早期治療が好ましいと考えられています。
脳卒中患者におけるレストレスレッグス症候群の発症率
レストレスレッグス症候群自体は日本人の2〜5%で発症すると考えられており、約200万人が症状により日常生活に支障をきたし、治療を必要としていると報告されています。
有病率は40歳以降で上昇し、男性よりも女性に多いことが知られています。
では、脳卒中患者ではどれくらいの頻度でレストレスレッグス症候群を発症するのでしょうか?
2019年に国内で報告された研究結果では、急性期脳梗塞患者104例中8例(約7.7% )でレストレスレッグス症候群の発症を認めたそうです。
特に、延髄や橋などの脳梗塞で発症率が高く、入眠困難症状が強く出現しました。
他にも、海外での報告では急性期脳梗塞患者137例中17例(約12.4% )でレストレスレッグス症候群の発症を認めており、研究結果によって差が大きいことがわかります。
とはいえ、日本の有病率が2〜5%と推定されていることを鑑みると、脳梗塞を含む脳卒中の発症はレストレスレッグス症候群の発症率を増加させる可能性が高いことがわかります。
脳卒中の回復プロセスとレストレスレッグス症候群の症状
そもそも、脳卒中に陥った場合、脳梗塞と脳出血では治療法が異なります。
脳梗塞では閉塞の原因となる血栓を溶かす治療や、脳の浮腫を抑える治療が行われます。
一方で、脳出血の場合は血圧が上がりすぎないようにコントロールし、場合によっては手術で直接止血する必要があります。
どちらにせよ、脳の壊死が進行する前に早期から治療を行うことが、神経学的予後には非常に重要であり、治療が遅れればレストレスレッグス症候群の症状も改善しにくくなります。
また、脳卒中契機のレストレスレッグス症候群の場合、まずは原因となる脳卒中の治療を優先して行い、それでもレストレスレッグス症候群の症状を認める場合にはドーパミン作動薬などの薬物療法を並行して行います。
ドーパミン作動薬は非常に即効性に優れ、場合によっては投薬当日に症状が改善する可能性もありますが、長期的には症状が増悪することもあり注意が必要です。
まとめ
今回の記事では、脳卒中とレストレスレッグス症候群の関連性について解説しました。
脳卒中によって脳内のドーパミン作動神経の回路が損傷すると、下肢の深部知覚が異常に活性化してしまい、むずむず感や不快感を自覚します。
また一方で、レストレスレッグス症候群を特発性に発症した方は、交感神経の持続的活性化に伴う血圧の上昇・脈拍の上昇をきたし、急性心筋梗塞などの心疾患や、脳梗塞・脳出血などの脳卒中を併発しやすくなることが知られています。
一度損傷した脳細胞や神経細胞は再生しないと考えられているため、脳卒中によって不可逆的なダメージが加わると、併発したレストレスレッグス症候群の治療も難渋する可能性があります。
しかし、近年では再生医療の分野が成長しており、レストレスレッグス症候群の原因となるドーパミン作動神経の回路も修復できる可能性があります。
そうなれば、下肢の不快感やむずむず感も改善する可能性もあり、日常生活のQOLも改善できるため、現在その知見が待たれるところです。
よくあるご質問
脳卒中とレストレスレッグス症候群の関連性とは?
脳卒中によって脳内のドーパミン作動神経が障害されることで、レストレスレッグス症候群を発症するリスクが高まると考えられています。
ドーパミン作動神経は下肢の深部知覚に関わっているからです。
レストレスレッグス症候群の患者が脳卒中を発症するリスクは高いですか?
レストレスレッグス症候群の患者が脳卒中を発症するリスクは高いです。
レストレスレッグス症候群の患者では、持続的な交感神経の活性化を引き起こすため、長期的な血圧上昇を招き、脳卒中発症リスクが増加することが知られています。
<参照元>
・第46回獨協医学会学術集会:急性期脳梗塞におけるレストレスレッグス症候群とその亜型の検討(PDF):https://dmu.repo.nii.ac.jp/
・J STAGE(PDF):https://www.jstage.jst.go.jp/article/clinicalneurol/57/11/57_cn-001048/_pdf/-char/ja
あわせて読みたい記事:パーキンソン病の末期症状と余命
外部サイトの関連記事:脳血管障害性パーキンソン症候群とは
コメント