この記事を読んでわかること
・脳梗塞後の血圧管理の重要性がわかる
・急性期と慢性期の血圧目標がわかる
・血圧と脳梗塞再発の関係がわかる
高血圧は、脳梗塞の危険因子のひとつですが、脳梗塞を起こした後から48時間以内の急性期は、高めの血圧を許容して、むしろ血圧を下げすぎないことで、脳内への血流を維持し、梗塞の悪化を防ぐことがあります。
なお回復期から慢性期は、脳梗塞の再発を予防することを目的に、140/90mmHg未満を目標血圧として、積極的に降圧薬が使用されます。
今にちの研究では、最大血圧が140mmHgを超えると脳梗塞となる確率が高くなり、最大血圧が160mmHg以上あると、脳卒中の発作を起こす最も大きな原因になると報告されています。
高血圧と脳梗塞のリスクを高めるメカニズム
高血圧は脳梗塞や他の脳卒中(脳出血、クモ膜下出血)のリスクを大幅に高める要因です。
高血圧が続くと、血管の内壁がダメージを受け、動脈硬化が進行します。
この過程で血管が硬くなり、血流がスムーズに流れにくくなります。
結果として、血管が詰まりやすくなり、脳の一部に酸素や栄養が届かなくなる脳梗塞を引き起こすリスクが高まります。
また、高血圧が原因で脳血管が破れやすくなり、脳出血やクモ膜下出血を招くこともあります。
したがって、血圧管理は脳卒中予防において極めて重要です。
脳梗塞後の血圧管理:急性期と回復期・慢性期の違いと注意点
脳梗塞を起こした後の血圧管理について、急性期と慢性期に分けてご説明します。
急性期では高血圧を容認する理由と注意点
脳梗塞を発症した後、高めの血圧を容認することがあります。
脳梗塞では、血栓によって脳の特定部位への血流が妨げられます。
このような状況では、あえて血圧を高くすることで、脳を保護する効果が期待できます。
脳梗塞急性期に高い血圧を容認する理由
脳梗塞発症直後から最大48時間、血圧を下げる薬の量を抑えることがあります。
その結果、患者の血圧は一般的に認められている範囲よりも高くなります。
脳梗塞発症後、高い血圧を許容する理由は、血圧を高くすることで、脳梗塞時に血液が行き渡らなかった脳の血管への血流が促進される可能性があるためです。
また脳梗塞を起こした場合、脳組織が損傷してしまうことがあります。
脳は頭蓋骨のなかに収まっていますが、そのために脳組織が損傷を受けた結果脳が膨らむと、膨らんだ脳組織の影響を受け、血管も圧迫されます。
この場合も、血圧が一定の範囲にあれば、圧迫されたとしても脳には十分な血流が維持されます。
逆に血圧が低すぎると、脳に十分な血液が行き渡らないことがあります。
発症前の血圧では、十分に脳内に血流が維持されないことや、脳が脳内の血流をうまく調節できなくなるために、脳に必要な血液が行き渡るように、高い血圧が必要になる可能性があります。
この考え方に基づき、脳梗塞後の急性期、特に発症後48時間は、血圧を高めに維持することがあります。
急性期の高血圧が引き起こすデメリットとリスク
血圧が極端に高くなると、脳出血やくも膜下出血が生じるリスクが高まります。
脳出血とは、脳の動脈が破裂して、脳内に大量の出血が起こることです。
また心不全を抱えた人は、血圧が高いことで心不全が悪化しますので、注意が必要です。
一般的には、収縮期血圧が220mgHgを超える場合、または拡張期血圧が120mgHgを超える場合、さらに大動脈解離や急性心筋梗塞、心不全、腎不全などを合併している場合に限って、慎重に血圧を下げることが推奨されていますが、それ以外は高い血圧が容認されています。
急性期の血圧管理法と薬剤療法について
脳梗塞後急性期は、通常病院内で全身の管理が行われます。
重症度に応じて集中治療室で管理されることも多く、この場合血圧は常時モニターされていて、急激な変化にも迅速に対応することができるよう、準備されています。
急性期の血圧は、モニターをしながら一定の範囲を超えないように調整されます。
もし血圧が高くなりすぎる場合は、カルシウム拮抗薬と呼ばれるタイプの降圧薬を使用し、血圧を下げることもあります。
なお脳梗塞急性期は、さまざまなストレスや痛みなどにより、血圧が上昇することがあります。
したがって、鎮静や鎮痛をはかることで、血圧が上昇する要因を取り除く工夫も必要になります。
高血圧が脳血管に与える影響
高血圧は脳血管に大きな負担をかけます。
長期にわたる高血圧状態では、血管内壁に圧力がかかり続け、血管が徐々に硬くなり、動脈硬化が進行します。
動脈硬化が進むと、血管が狭くなり、血流が阻害されるだけでなく、血管がもろくなります。
これにより、脳血管が破れやすくなるだけでなく、血栓ができやすくなり、脳梗塞のリスクが高まります。
このような脳血管へのダメージが蓄積されることで、脳卒中発症のリスクが飛躍的に増加します。
降圧薬の役割と管理
脳梗塞後の患者において、降圧薬は再発予防に不可欠な役割を果たします。
適切な血圧を維持することで、脳血管にかかる負担を軽減し、さらなる血管のダメージを防ぐことができます。
降圧薬の使用は、急激な血圧変動を避け、安定した血圧管理を可能にすることで、再発リスクを大幅に減少させます。
薬の種類や用量は、患者の状態や病歴に基づいて医師が慎重に選択しますが、患者自身も適切な服用を継続することが求められます。
薬の効果を最大限に引き出すためには、日々の血圧測定と医師の指示に基づいた管理が重要です。
回復期・慢性期では正常血圧を維持することが重要
それでは続けて、脳梗塞後の回復期から慢性期の血圧管理についてご説明します。
回復期・慢性期の血圧管理の目標と方法
脳梗塞後の慢性期は、脳梗塞の再発を予防することを目的に、積極的に降圧します。
これは、高血圧が脳梗塞の発症に大きく関与しているからです。
通常目標となる血圧は、140/90mmHg未満とされています。
降圧薬にはさまざまな種類がありますが、脳梗塞後の回復期から慢性期にかけては、アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンギオテンシンタイプⅡ受容体阻害薬、また利尿薬が用いられることが一般的です。
なお血圧管理は再発を予防するためにとても大切な方法ですが、合わせて血栓の予防を目的とした抗凝固薬や抗血小板薬、またそのほかコレステロールや血糖のコントロール、禁煙なども重要な再発予防対策になります。
生活習慣と食事改善による血圧管理
血圧を管理するためには、日々の生活習慣が重要です。
低ナトリウム食や適度な運動、禁煙を推奨します。
特に野菜や果物を積極的に摂取し、塩分摂取を1日6g以下に抑えることで、血圧コントロールが向上します。
また、飲酒も適量にし、定期的な健康診断で血圧の変動をチェックしましょう。
血圧管理の注意点についてのまとめ
脳梗塞後の血圧管理について、急性期、回復期から慢性期に分けてご説明しました。
高血圧が発症のリスクである脳梗塞ですが、特に急性期に高い血圧を許容することは、脳梗塞後の珍しいアプローチのように思えるかもしれません。
しかし、脳梗塞の後に血圧を高めに維持することは、ときに脳の血流を回復させ、脳梗塞の悪化を防ぐ方法となり得ます。
このように、脳梗塞の影響を最小限にするため、さまざまな工夫がなされています。
わたしたちが取り組んでいる再生医療もそのひとつです。
脳梗塞後の後遺症を最小限にするため、日々医学は進歩しているのです。
あわせて読みたい記事:脳梗塞の治療薬プラビックスについて
外部サイトの関連記事:脳梗塞発症の年代別ピークと予防策
コメント