この記事を読んでわかること
・脳出血の入院期間について
・入院期間を長期化させるリスク
・脳出血と認知機能
脳出血を発症する多くの患者は50〜60代と言われており、未だ現役で働いている方や家族を養う必要のある方も多いです。
そこで気になるのは、発症後の入院期間です。
入院期間が長引けば入院費用がかさむだけでなく、家族や職場にもさまざまな影響が出てしまいます。
そこでこの記事では、脳出血後の入院期間について解説していきます。
脳卒中入院の一般的な期間と影響を与える要因
脳出血は以前まで日本人の死因第1位に君臨するほど危険な病気でした。
しかし、医療の発達・食生活の是正・予防医学の普及などの背景から年々罹患率・死亡率は低下しています。
とはいえ、脳出血が危険な病気ではなくなったかといえばそうではありません。
脳出血は、脳を栄養する血管が動脈硬化などによって脆くなり、血圧変動などによって破綻して出血を引き起こす病気です。
硬い頭蓋骨の中で出血が引き起こされるため、徐々に増大する血腫によって脳実質が圧迫され、脳細胞への血流が途絶してしまい、壊死します。
さらに進行すると脳が完全に圧迫され、意識障害や呼吸停止、循環不全を引き起こして死に至る病気です。
脳出血に罹患するとたとえ治療がうまくいったとしても、ある程度長期間の入院を余儀なくされます。
さらに、重篤な後遺症が残ればリハビリなども行う必要があり、入院期間はさらに伸びてしまいます。
生命保険文化センターの報告によれば、日本における2020年の脳卒中(脳出血含む)患者の平均入院日数は77. 4日間でした。
また、年齢別に見ると35歳〜64歳までの入院日数は51.9日であったのに対し、65歳以上では83.6日、70歳以上では86.9日であり、高齢者の方が入院期間が長引く傾向にあることがわかります。
さらに、厚生労働省の行う患者調査(令和2年度)によれば、脳出血の平均在院日数は全体で105. 7日間でした。
内訳をみると、30代男性の平均在院日数はわずか67. 0日であったのに対し、65歳以上では102. 1日、75歳以上では112. 1日という結果でした。
働く世代の方であっても2ヶ月近く医療機関に入院するとなれば、医療費はかさみ、仕事や家庭にも大きな影響を与えてしまいます。
また、日常生活に復帰しても社会生活にすぐ復帰できる訳ではなく、その影響は計り知れません。
2016年に報告された久保らの研究によれば、入院を長期化させるリスク因子は年齢だけでなく、入院時の重症度、離床開始日などが挙げられます。
それぞれについて詳しく解説します。
年齢
入院期間を長期化させるリスクとして発症時の年齢が挙げられます。
前述したように、高齢になるほど入院期間は延長する傾向にあります。
80歳以上では脳出血急性期における死亡率が高いこと、生存したとしても重度な機能障害を有することが報告されています。
また、65歳以上の患者では退院後の身体機能も有意に悪化することが報告されています。
入院時の重症度
入院期間を長期化させるリスクとして入院時の重症度が挙げられます。
入院時に意識レベルが低い、麻痺などの身体所見が多いなどの重症な所見がある場合は入院期間が延長することが報告されています。
離床開始日
入院期間を長期化させるリスクとして離床開始の遅れが挙げられます。
久保らの研究によれば、発症からリハビリ開始(離床)までの期間が短い方ほど退院時の機能予後が良好であったと報告しています。
具体的には、入院後2日以内に離床できた方は機能予後が良好でした。
脳出血と認知機能
ここまで脳出血による入院期間について解説しましたが、晴れて退院できたからといって終わりではありません。
麻痺やしびれなどの後遺症があれば、日常生活における基本的な動作にも支障をきたす可能性があります。
さらに、脳出血は身体的な後遺症のみならず、認知機能にも支障をきたす可能性があり、これを脳血管性認知症と言います。
脳血管性認知症とは
脳血管性認知症とは、脳梗塞や脳出血・くも膜下出血によって脳細胞が壊死していく過程で生じる認知機能障害です。
一般的な認知症と異なり損傷部位が限定されるため、維持される認知機能と障害される認知機能がまだらになり、「まだら認知症」と言います。
この状態では、初期には自身の認知機能の低下を自覚できてしまうため、周囲の心無い言葉に傷つくことも少なくありません。
また、一般的な認知症が徐々に進行して行くのに対して、脳血管性認知症では認知症の症状が急激に出現し、改善と悪化を繰り返しながら進行していきます。
脳血管性認知症の併発は介護者にとっても辛い経験になる可能性があるため、脳出血に罹患しないように普段から健康的な食生活や適度な運動を行うようにしましょう。
脳出血のリハビリと退院後の生活
脳出血後のリハビリは、運動機能の回復だけでなく、日常生活への適応を目指します。
入院期間が長引くほどリハビリの重要性が増し、特に発症後早期の介入が重要です。
理学療法士や作業療法士による筋力トレーニング、言語訓練、認知機能回復のサポートが行われ、患者の残存機能を最大限に活かします。
退院後も自宅でのリハビリ継続、適切な介護支援、栄養管理、定期的な医療機関への通院が推奨されます。
脳出血における入院期間についてのまとめ
今回の記事では、脳出血における入院期間について解説しました。
脳出血の場合、急性期における死亡率がとても高く、仮に峠を乗り越えたとしても長い入院生活が待っています。
急性期の治療を終えたあとは離床のためのリハビリテーションや、在宅復帰・社会復帰のためのリハビリテーションが待ち受けています。
より高齢で神経症状の強い方ほど入院期間が長引く傾向にあるため注意が必要です。
しかし、近年では機能回復の治療法として再生医療の分野が非常に発達しています。
特に、再生医療とリハビリテーションの相性は良く、併用することでより効果的なリハビリテーションを行えることが知られています。
再生医療によって損傷した脳細胞の機能が回復すれば、重篤な後遺症からの回復も見込まれるため、現在のその知見が待たれるところです。
よくあるご質問
脳内出血の降圧薬は?
脳出血における降圧薬は主にニカルジピンが使用されます。
ニカルジピンとはCa拮抗薬と呼ばれる薬で、カルシウムのチャネルに作用することで動脈の血管平滑筋を弛緩させる作用があります。
それによって血圧を低下させ、脳出血の出血を抑え込む作用が期待されます。
脳出血ではどのぐらい入院しますか?
令和2年度に実施された厚生労働省の患者調査によれば、脳出血の平均在院日数は全体で105. 7日間でした。
とはいえ、脳出血患者の入院期間は発症時の年齢や神経症状の重症度などによっても異なります。
<参照元>
・生命保険文化センター:https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1212.html
・脳内出血患者における急性期病院退院時の機能予後とその要因:https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/43/3/43_11130/_pdf/-char/ja
・認知症ねっと:https://info.ninchisho.net/type/t30
・厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/20/index.html
コメント