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高次脳機能障害の遂行機能障害について

           

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高次機能障害にはさまざまな症状が認められますが、遂行機能障害はそのひとつで、主に前頭葉の障害に伴うことが知られています。
特に目標を設定し、計画を立て、効果的に行動することができなくなるため、無計画で衝動的な行動が目立ち、優先順位を決めて行動できなくなるため日常生活に支障をきたします。
根気強い認知リハビリにより、ある程度の改善は期待できます。

遂行機能とは何か?

では、まず遂行機能について少し詳しく説明します。

遂行機能と目的ある行動を成し遂げるための機能

別名実行機能とも呼ばれる遂行機能とは、何らかの目的を持った行動を確実に成し遂げるために必要となる、一連の機能のことを意味します。
その機能には、対象に注意を払う、新しい情報を入力して記憶する、タスクに集中して気が散るものを無視する、感情をコントロールする、新しい情報や環境の変化に応じて自分の行動を調整するなどが含まれます。
これらの機能は2歳ごろから発達し始め、就学前の時期に急速に発達します。
思春期から成人期初期にかけても発達は続き、特に学校生活や、その後の人生や仕事において不可欠なものとなります。
そして高齢になり、認知機能が衰えてくるに伴って、遂行機能の低下もみられるようになります。

遂行機能に含まれるスキル

遂行機能に含まれるスキルは、主に2つのカテゴリーに分類されると考えられています。
行動の計画:細部に注意を払い、戦略を立て、問題を解決し、行動の計画を立てるためのスキルです。
行動の実行:感情を制御し、思考や環境からの入力を監視し、推論して決断し、時間を管理し、実際に行動するためのスキルです。
また遂行機能スキルは、以下のような場面で日常的によく使用されています。

  • 買い物にでかけてから、必要なものをすべて思い出す
  • 複雑で細かい指示に従う
  • 仕事でプロジェクトを計画し、実行する

これらの機能は、いわゆる高次脳機能の一部でもあります。
高次脳機能である知覚、記憶、判断などの機能を連携させ、自分の目的に適った行動を行うことを可能にしているのが遂行機能です。

遂行機能障害の症状

遂行機能スキルに問題がある場合、行動の計画や実行が障害されますので、基本的に無計画で衝動的な行動をする、複数の作業に優先順位をつけてすることができない、行動を開始できない、具体的な指示をされないと行動できない、などの症状がみられます。
しかし、遂行機能スキルはすべての人がまったく同じように発揮できるわけではありませんので、遂行機能障害に伴う症状にも、多少の個人差があります。
より具体的には、次のような症状を認めることがあります。

  • 仕事または学校の書類を頻繁に置き忘れる
  • 時間管理、計画、マルチタスク、スケジュールを守ることが難しい
  • 約束や仕事をよく忘れる
  • やりたいことがあっても、なかなか着手できない
  • ワークスペースや自宅の整理整頓に苦労している
  • 私物をよく失くしたり、置き忘れたりする
  • 情報を記憶するのが苦手、または複数のステップを含む指示に従うのが苦手
  • 衝動、感情、気分や行動の変化をコントロールするのが難しい
  • 複雑な考えや抽象的な概念を言葉にするのが苦手
  • 客観的に自分を評価することができない

遂行機能障害の原因

遂行機能障害は、脳のワーキングメモリと感情調節を担う部分が、何らかの原因により障害されることで起こりますが、主に脳の前頭葉と呼ばれるところの障害が影響していると考えられています。
前頭葉は、行動や学習、計画などの高次の思考プロセスに関連しています。
またノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンなどの神経伝達物質や脳内の化学伝達物質の不均衡も関与していると考えられています。
具体的な疾患名を挙げると、

  • 注意欠陥多動性障害 (ADHD)
  • うつ病
  • 統合失調症
  • 学習障害
  • 自閉症スペクトラム障害(ASD)
  • アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症等による高次脳機能障害

などに伴って、遂行機能障害が認められます。
また外傷による脳損傷では、特に前頭葉を損傷した場合、遂行機能障害につながる可能性があります。

遂行機能障害の診断

遂行機能障害は、正式な疾患名ではありませんので、具体的な診断基準があるわけではありません。
しかし、比較的簡便にその可能性を評価するチェックリスト(質問表)がいくつかあります。
中には子どもを対象にしたものもありますが、特に、加齢に伴って認知機能が低下している可能性のある高齢者において、遂行機能の障害を評価するために役立つテストの例としては、以下のようなものがあります。

モントリオール認知評価
遂行機能、記憶、注意力、抽象概念、見当識などを評価しています。軽度認知症をスクリーニングする評価法でもあります。
ミニ・メンタル・ステート・テスト
時間や場所の見当識、3単語を即時及び時間が経過してから思い出してもらう、計算など、計11項目からなる簡便なテストを行う認知機能検査です。
遂行機能障害症候群の行動評価
Behavioral Assessment of the Dysexecutive Syndrome (BADS)と呼ばれるもので、目標設定、計画立案、計画実行、効果的行動の4つの遂行機能をそれぞれ評価するものです。カードや道具が必要となります。
ウィスコンシン・カード分類検査
丸や三角形、星形などの図形を4種類の色で表現した48枚の図形カードを提示し、分類わけをすることで被験者の反応を評価します。前頭葉機能の検査にも用いられています。

遂行機能障害の治療

遂行機能障害の治療

高次脳機能障害のリハビリと社会復帰

遂行機能障害の治療は、原因によって異なりますが、認知症に伴う遂行機能障害の場合、症状が進行することもありますので、根気強く丁寧な対応が求められます。
また多職種の専門家と協力することも必要で、例えば特定の課題に応じて、言語療法士や作業療法士が連携して対応することもあります。
身体機能が衰えることに対する身体へのリハビリテーションではなく、認知機能の維持、改善を目的とする場合は、認知リハビリテーションと呼ばれます。
遂行機能障害に対しては、意図した行動ができるようになることを目指し、行動の目標を設定し、行動を計画して構造化する訓練を、認知リハとして行うこともあります。
いわゆる「Goal Management Training」と呼ばれる手法は、行動の目標を設定できない遂行能障害の方に対し、まず現状に注意を向け、何がゴールなのか、「自分は何をするのか?」ということを定めます。
ゴールを設定すれば、ゴールに到達するために、ゴールまでのステップを細分化して書き留めます。
最後は、その細分化したゴールを定期的に現状と比べ、必要に応じてステップの修正を図ります。
作業の過程がルーチン化できれば、あとはそのルーチンを繰り返し行い、必要に応じて修正を加えていくことで、ある程度の計画性を持った行動ができるようになります。
このような認知リハビリは、容易にできるものではありませんので、どうしても多職種での協働が必要となるわけです。
なお、実際に行われる認知リハビリには、次のようなものが含まれます。
  • 机上でワークブックやカードを利用して課題の解決に取り組む
  • パズルや積み木を使った作業課題に取り組む
  • 日常生活の予定管理や職場での書類作成をシミュレーションする

このほかにも、課題を先延ばしにすることに問題がある場合、スケジュールを守ってタスクを継続して実践することを支援するために、タスク管理のアプリやタイマー、付箋、ホワイトボードなどを利用することも検討します。

まとめ

遂行機能について、また遂行機能障害の症状、原因、また対応方法についてご説明しました。
実際は高次機能障害の一部として認められ、随伴するそのほかの障害を認めることが一般的です。
失った機能を回復させることは、なかなか難しいことかもしれません。
しかし認知リハがうまくいかなくても、うまくいかなかった原因を探り、次回はうまくできるように修正を重ねること、その繰り返しがリハビリでもあります。希望を持って、根気強く取り組んでいきましょう。


貴宝院 永稔【この記事の監修】貴宝院 永稔 医師 (大阪医科薬科大学卒業)
脳梗塞・脊髄損傷クリニック銀座院 院長
日本リハビリテーション医学会認定専門医
日本リハビリテーション医学会認定指導医
日本脳卒中学会認定脳卒中専門医
ニューロテックメディカル株式会社 代表取締役

私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。


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