この記事を読んでわかること
・くも膜下出血とは
・くも膜下出血の後遺症について
・後遺症が残ったくも膜下出血患者の生活
も膜下出血は患者の約4割は初回の出血で死亡してしまいます。
また、折角救命できても3割に後遺症が残る病気です。
しかし、近年では再生医療で脳細胞自体を再生させ、後遺症を治療することが可能となってきました。
今回は、くも膜下出血による後遺症と生活上の注意点、再生医療によるくも膜下出血の後遺症治療について解説します。
くも膜下出血は予後が悪い病気です。
患者の約4割は死亡し、3割に後遺症が残る病気で、長期間に渡って、適切な医療、リハビリや介護が必要になるケースが多いです。
一方、近年では再生医療の発展もめざましく、損傷を受けた脳細胞自体を再生させて後遺症を治療することが可能となりました。
本記事では、くも膜下出血による後遺症と生活上の注意点、再生医療によるくも膜下出血の後遺症治療について解説します。
くも膜下出血とは
脳は硬膜・くも膜・軟膜の3層によって覆われていて、1番外側の硬膜と真ん中のくも膜の間には『くも膜下腔』という空間があります。
くも膜下出血とは、この『くも膜下腔』に出血が起きた状態を指します。
くも膜下腔に出血が起こると脳や髄膜が圧迫され、突然「ハンマーで殴られたような痛み」と表現されるほどの激しい頭痛や嘔吐に襲われます。
患者の3割が良好な経過をたどる一方、3割が後遺症を発症し、3割が死亡するというデータもあります。
前触れがほとんどないため、発症後の対応が非常に重要です。
発症後しばらくすると症状が落ち着くことがありますが、それは出血がカサブタによって止まったからに過ぎません。
何かの拍子でカサブタがはがれると再び再出血が起こり、その場合の死亡率は5割~8割まで急上昇します。
発症後はただちに救急車を呼び、安静に血圧をコントロールしつつ手術に備えることが重要です。
くも膜下出血の後遺症
くも膜下出血によって脳に損傷が加わると、後遺症が残る場合があります。
脳のどの部位に損傷が加わったかによって後遺症は異なります。
種類 | 主な症状 |
---|---|
運動障害 | 左右どちらかの手足が動かなくなる |
感覚障害 | 手足がしびれたり、感覚がなくなったりする |
言語障害 | 言葉が浮かんでこない、言葉が理解できない、文字が書けない、うまく話せない |
嚥下障害 | 食べ物や飲み物をうまく呑み込めなくなる |
排尿障害 | 尿意を感じなくなりトイレに間に合わなくなる、尿が出なくなる |
視野障害 | 視野が狭くなる、物が二重に見える、片目だけ見えにくくなる |
高次脳機能障害 |
|
精神症状 |
|
記憶障害がくも膜下出血の後遺症として現れる理由
くも膜下出血後に記憶障害が現れる理由は、出血によって脳の神経細胞がダメージを受け、特に短期記憶に影響を及ぼすことが多いからです。
脳の海馬などの記憶を司る部位が損傷されると、新しい情報を記憶することが難しくなったり、過去の出来事を思い出す能力が低下することがあります。
記憶障害の程度は損傷の部位と広がりによって異なり、早期の診断と治療が重要です。
適切なリハビリを行うことで、記憶機能の回復が期待できるケースもあります。
記憶障害が回復する可能性と脳の可塑性の仕組み
脳の可塑性とは、損傷を受けた脳細胞が回復しようとする過程で、他の健全な細胞が機能を補うように働く現象を指します。
特に、くも膜下出血後の記憶障害は、発症から数ヶ月以内にリハビリや刺激を与えることで、失われた記憶機能が一部回復する可能性があります。
早期のリハビリが脳の可塑性を最大限に引き出し、他の細胞が記憶機能を代替するように促すため、記憶障害の改善が期待できます。
ただし、回復には個人差があり、長期的な治療が必要です。
後遺症が残ったくも膜下出血患者の生活
くも膜下出血の後遺症は日常生活にも影響を及ぼします。
症状によって個人差がありますので、こちらでは大きく『軽度』と『重度』に分けて生活例をご紹介します。
ご家族のサポートについても解説しますので、ぜひ参考にされてください。
軽度の場合
くも膜下出血の後遺症が軽度だった場合、手足のしびれや片側の手足の麻痺などはあっても、歩行や食事といった日常生活は大方1人でも行えます。
歩行に杖などが必要になったり、細かい作業や服の着脱などには介助を要したりすることもありますが、必要な介助は限定的です。
ただ、感覚障害や排尿障害などがあるので、感覚に頼って行動すると料理の味付けに失敗したり、トイレが間に合わなくなったりすることもあります。
「醤油大さじ2杯」「2時間おきにトイレに行く」など、行動を『数字』で決めることも有効です。
また、一見、見た目で分からなくても、高次脳機能障害といって注意力や記憶力、感情のコントロールといった能力に障害を生じ、日常生活や社会生活に支障が生じてしまいます。ただ、症状が軽い場合では、1人でできないことに関してチェックリストを導入し、周囲のサポートのもと、何度も繰り返して練習し、自分1人でできるようになっていって貰えばクリアできる場合も多いです。
重度の場合
くも膜下出血の後遺症が重度だった場合、車椅子もしくは寝たきりの生活になり、1人ではほぼ動くことができなくなります。
立ったり歩いたりすることはもちろん、寝返りをうつこともできないなど、日常生活の大半に介助を要します。
ものを飲み込むことが難しくなるので、食事が『とろみ食』になったり、飲み込めない場合は点滴もしくは胃に直接栄養を送る『胃ろう』を造設したりすることもあります。
高次脳機能障害を併発していることも多く、今朝の記憶が思い出せなかったり、会話が成り立たなかったり、自立歩行ができない場合も多いです。
精神症状も現れやすいので、周囲の精神的なサポートが非常に重要になります。
リハビリ
くも膜下出血を発症した患者さんにとって、リハビリの継続は重要です。
基本的に一度損傷を受けた脳は回復しないとされていますが、早い段階でリハビリを開始するとその後の状態が格段に良くなることが分かっています。
また、後遺症があるからといって体を動かさずにいると、血液が固まってしまう『深部静脈血栓症』が起きたり、身体機能が低下して感染症が起きやすくなったりします。
後遺症が軽度の場合は、主治医やリハビリ担当者とよく相談しながら、その方の能力に合わせて、日常生活、趣味活動、復職といった活動をステップバイステップで進めていくことになります。
そのために、、社会生活に必要なことにターゲットを絞りリハビリを行ったり、病院に通院し診断書類、障害者手帳を取得するなど社会生活を行うための準備を進めていきます。
後遺症が重度の場合は、より多くのリハビリテーションが必要になります。
つまり、関節可動域訓練、筋力増強訓練、基本動作訓練、日常生活動作訓練、構音訓練、嚥下訓練、高次脳機能訓練が長期にわたって必要になります。
しかし、現状、医療保険や介護保険で受けられるリハビリテーションには限りがあります。
そのため、主治医やリハビリ担当渡よく相談しながら、介護保険や医療保険、自費リハビリなどを組み合わせて無理のない範囲でリハビリテーションを行っていきましょう。
家族にできること
後遺症を負ったくも膜下出血の患者さんには、身体的・精神的なサポートが必要になります。
身体的には、歩行、食事、排泄、寝返りなどを介助する必要があり、症状が重くなるにつれて必要な介助も増えていきます。
介護保険を申請すれば保険内で様々なサービスが受けられるので、介護器具を購入したり介護サービスを利用したりして、無理なく患者さんをサポートしていきましょう。
精神的には患者さんの不安や落ち込みなどへのサポートが必要です。
脳が損傷されると感情のコントロールが難しくなるので、突然怒り出したり、落ち込んだりすることが増えます。
性格が変わったように感じるかもしれませんが、患者さん自身も「コントロールができていない」と自覚していることが多いので、決して責めずに寄り添う姿勢が大切です。
くも膜下出血の後遺症は再生医療で改善可能
基本的に一度損傷を受けた脳は回復しないと言われていますが、近年では再生医療によってその定説が覆りつつあります。
再生医療で脳細胞を再生できれば、後遺症の改善も可能なのです。
こちらでは、再生医療によるくも膜下出血の後遺症治療について解説します。
再生医療とは
再生医療とは、一度機能を失った組織や臓器を再生し、失われた機能を回復する医療のことです。
再生医療には様々な方法がありますが、現在医療への応用が最も進んでいるのは『幹細胞』による再生医療です。
幹細胞とは『これから様々な臓器になれる細胞』のことで、幹細胞が細胞分裂を繰り返していくと組織や臓器になります。
有名なのは『ES細胞』や『iPS細胞』といったどんな細胞にもなれる万能細胞ですが、受精卵という命を使うことへの倫理性や、ガン化リスクといった安全性の問題があります。
一方、患者さん本人から採取する『体性幹細胞』は、倫理性と安全性に問題がないので、広く医療に用いられています。
当院でも体性幹細胞を用いたくも膜下出血の後遺症治療を行っており、多くの患者さんに効果を実感していただいています。
くも膜下出血の後遺症にも有効
再生医療はくも膜下出血の後遺症治療にも有効です。
再生医療に特化した当院では、『体性幹細胞』の中でも、骨髄から採取する『間葉系幹細胞』による後遺症治療を行っています。
間葉系幹細胞はES細胞やiPS細胞のような万能性はありませんが、神経、血管、骨、筋肉といった組織や臓器になることが可能です。
損傷を受けた組織や臓器を治癒するにはその分多くの幹細胞が必要になるので、採取した幹細胞は一度培養して増殖させる必要があります。
当院のくも膜下出血の後遺症治療では、患者さんご自身の骨髄から採取した間葉系幹細胞を培養し、増殖した幹細胞を点滴で投与する『骨髄由来幹細胞点滴』を行っています。
くも膜下出血の患者さんからは「手の握力が戻ってきた」「感覚が戻ってきた」といった声が寄せられている治療法です。
再生医療によるくも膜下出血後遺症治療の流れ
では、実際再生医療によるくも膜下出血の後遺症治療はどのような流れで進んで行くのでしょうか?
再生医療に特化した本院の『骨髄由来幹細胞点滴』の流れをご紹介します。当院サイト[6]
(1)問診・カウンセリング
まずは電話もしくはオンラインで診療予約をしていただき、医師による問診・カウンセリングを行います。
くも膜下出血発症の経緯や後遺症の状態、治療の目的をお聞きした上で、再生医療の効果やリスク、治療との向き合い方をしっかりお話しします。
(2)採血・感染症検査
カウンセリングの上で治療を希望される方には、採血による感染症検査を行います。
感染症がある方は細胞培養ができないためです。
(3)骨髄穿刺
感染症がないことが明らかになった後、通院による骨髄穿刺を行います。
腰上部に局部麻酔をし、腸骨という骨盤の骨から骨髄液を採取します。
(4)幹細胞の培養
採取した骨髄液は厳重な管理のもと国内の細胞培養加工施設に送られ、培養されます。
(5)幹細胞投与(点滴)1回目~3回目
培養した幹細胞を点滴で投与します。
4週間ずつ間隔を空けて、計3回の投与を行います。
(6)健診
治療終了後から6か月後もしくは1年後に健診を行います。
本院ではオンラインでのご相談も24時間受け付けています。
再生医療によるくも膜下出血の後遺症治療に関心がある方や、ご不明点がある方は、是非お気軽にお問い合わせください。
くも膜下出血と後遺症のまとめ
くも膜下出血は脳を保護する硬膜とくも膜の間に出血が起こる病気で、患者の3割に後遺症が残ります。
後遺症が軽度の場合は日常生活への支障もさほど大きくありませんが、重度の場合は車椅子や寝たきり生活になることもあります。
ご家族のサポートだけではなく、リハビリや介護サービスなども利用して、より良い生活を実現していきましょう。
近年では再生医療による後遺症治療も発展しており、当院では「骨髄由来幹細胞点滴」によるくも膜下出血の後遺症治療を行っています。
オンラインからのお問い合わせも24時間受け付けていますので、くも膜下出血の後遺症でお悩みの方はぜひお気軽にお問い合わせください。
よくあるご質問
くも膜下出血は何年生きられる?
一般的には、くも膜下出血を発症すると1ヶ月以内に死亡する確率が30%、障害は残りますが元気に退院する確率が60%とされており、残りの10%前後の方は高度な障害が残ります。
発症前の仕事に復帰できるケースは、30%程度であるとも言われている重篤な疾患です。
くも膜下出血ステージ4の生存率は?
くも膜下出血のグレード分類によると、グレードⅣは、GCS score(意識レベルを表すスコア)12~7で、局所神経症状(失語あるいは片麻痺)の有無は不問とされています。
グレードIV以上の重症患者では、手術をしないと死亡の転帰をたどってしまう可能性が高まります。一方で、手術をおこなうと8割以上の患者が救命され、5割以上の患者が社会復帰~自力歩行ができる状態に回復するという報告もあります。
<参照元>
・[1] 白十字病院 脳神経外科
・[2] 回復期リハビリテーション.net
・[3] 「忘れる」~クモ膜下出血による後遺症で要介護5に~
・[4] 健康長寿ネット
・[5] 高次脳機能障害と向き合う – 過去のカキコミ板
・[6] 福永記念診療所
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