この記事を読んでわかること
・ワレンベルグ症候群とは
・特徴的な症状
・ワレンベルグ症候群のリハビリテーション
ワレンベルグ症候群(ウォレンバーグ症候群[Wallenberg Syndrome])は延髄の外側に起こる脳梗塞で、椎骨動脈の病変が主な原因となります。
動脈解離は比較的若い年代でも発症しやすいため注意が必要です。
感覚障害や嚥下障害が後遺症として残りやすく、リハビリテーションや再生医療が治療方法の選択肢となります。
ワレンベルグ症候群とは
ワレンベルグ症候群とは、脳梗塞の一種です。
脳の一部である延髄の外側部分に脳梗塞が起きることで、特徴的な症状を起こします。
1895年にドイツ生まれの医師であるAdolf Wallenbergが初めて患者さんを報告したために、その名前をとって名付けられました。
病変部位から延髄外側症候群と呼ばれることもあります。
特徴的な症状。球麻痺と解離性感覚障害
ワレンベルグ症候群は、球麻痺(きゅうまひ)と解離性(かいりせい)感覚障害の組み合わせによって特徴づけられます。
球麻痺とは、延髄にある運動の中枢が障害されることで起きる麻痺症状のことで、口の中や喉にある筋肉がうまく動かずに飲み込みや言葉の発声が障害(嚥下障害、構音障害)されることをいいます。
解離性感覚障害とは、体の中でバラバラに感覚が障害される状態をいいます。
Wallenbergが初めて報告した38歳の男性患者さんには、次のような感覚の障害が見られていたそうです。
- 左顔面の疼痛と知覚過敏
- 右顔面の知覚鈍麻
- 右上下肢と体幹の痛覚・冷覚脱失
大脳に起こる脳梗塞では半身麻痺、つまり顔の右半分+右上下肢・体幹、のように規則的な障害が起こることが典型的です。
延髄付近は神経が複雑に走行する部分であるため、延髄に脳梗塞が起きると上記のように複雑な感覚障害が発生するのです。
ワレンベルグ症候群が発症する原因
若者にも発症する可能性があるワレンベルグ症候群は、延髄に起こる脳梗塞ですから、延髄を栄養する血管の異常により発症します。
Wallenbergは当初後下小脳動脈(PICA)という血管の病変がワレンベルグ症候群の原因であると考えていましたが、その後の研究によりPICAよりも椎骨動脈という血管が原因となりやすいことが分かりました。
椎骨動脈という血管は脊髄の脇を通って上行し、脳に入ったあと脳底動脈となり脳を栄養します。
部分的に血管の壁が損傷されやすい部位があり、それによる動脈解離が脳梗塞の原因となります。
高血圧や高脂血症、糖尿病や喫煙などが動脈解離の原因となりますが、50歳未満の比較的若年者に起きやすい特徴があります。
ワレンベルグ症候群の診断と治療
ワレンベルグ症候群は、画像的な診断が難しい疾患の一つです。
発症8時間未満に行われたMRI検査では10%程度しか検出できなかったという報告があります。
そのため、特徴的な症状の組み合わせからこの疾患を想定するのが診断の重要なステップになります。
嚥下障害や構音障害に、顔面と上下肢・体幹で左右逆の方に感覚障害がでているなど解離性感覚障害があることが大きな特徴です。
それに加えてワレンベルグ症候群の症状として頻度が高い、小脳失調(めまいや細かい動きがしづらいなど)、Horner徴候(上まぶたが垂れ下がるなど)といった症状が加わると、よりこの疾患の可能性が高くなります。
ワレンベルグ症候群では、発症前や発症早期に頭痛を感じることが多いとされ、重要な診断のヒントとなります。
脳梗塞の一種であるワレンベルグ症候群では、その他の脳梗塞と同じようにできるだけ血流を早く再開させるための治療が行われます。
早期発見が治療のカギとなります。
ワレンベルグ症候群のリハビリによる感覚機能の改善
ワレンベルグ症候群となり神経の障害が確定すると、その後完全に回復するのは難しく、後遺症が残ることになります。
頻度が高いのは感覚障害と嚥下障害で、リハビリテーションによる治療が試みられます。
特に、感覚を取り戻すための運動療法や感覚再教育は、脳や脊髄の可塑性を利用して機能回復を促進します。
感覚障害に対しては、実際に温水や冷水を使用した感覚の訓練や、感覚を視覚化することにより改善を図る方法などがあります。
嚥下障害に対しては、食物を用いず飲み込みに関連する筋肉の運動訓練や口腔ケアを行う基礎訓練、また食物を実際に摂取する摂食訓練があります。
いずれも急速に改善が見られるものではないため、根気強く長期間リハビリに臨む必要があります。
ワレンベルグ症候群に対する再生医療
ワレンベルグ症候群は中枢神経の障害です。
中枢神経の障害は、一度確定すると元通りに回復することはありません。
発症早期であれば一定の回復を見せますが、ある時期に頭打ちとなり一生残る後遺症が確定してしまいます。
神経の障害は、依然として最も治療が難しい分野の一つなのです。
そのような現状を打破してくれるかもしれないのが、再生医療です。
再生医療は発症早期に行うと神経の障害を最小限にとどめ、回復力を最大限に引き出す効果が期待できます。
長期的には、神経の機能を再生してくれる可能性があります。
種々ある再生医療の手法の中でも、安全性と実用性の高さから普及が進むのが、幹細胞の点滴投与と、サイトカインカクテル療法です。
幹細胞は自らが神経としての機能を果たすようになるとともに、分泌するサイトカインが神経に対して保護的に働くことで神経の機能再生を達成します。
ワレンベルグ症候群の後遺症に悩む方にとって、有力な治療の選択肢となる可能性があります。
ワレンベルグ症候群についてのまとめ
脳梗塞の一種であるワレンベルグ症候群について、解説しました。
感覚障害、嚥下障害ともに日常生活に影響が大きい、つらい症状です。
再生医療が少しでも患者さんの助けとなることを願っています。
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