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ミューズ細胞の新たな可能性とは

           

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この記事を読んでわかること

ミューズ細胞とは
ミューズ細胞を用いた脳出血の治験
ミューズ細胞の問題点は?


ミューズ細胞とは、2010年に新たに発表された多能性幹細胞の1つです。
ミューズ細胞はありとあらゆる臓器、組織に分化可能であり、これまで発見された幹細胞よりも安全性や簡便性に優れた新たな細胞として、再生医療の分野で注目が増しています。
この記事では、ミューズ細胞について詳しく解説していきます。

ミューズ細胞とは

ミューズ細胞
みなさんは、ミューズ細胞をご存知でしょうか?
2010年に東北大学大学院医学系研究科の研究で発見されたミューズ細胞は、これまでの幹細胞が抱える問題点をクリアした細胞として非常に注目されています。
これまでの幹細胞であるES細胞iPS細胞は、ヒトに投与した後に目的とする細胞へと分化を誘導する必要があり、その過程で腫瘍化してしまう可能性がありました。
それに対し、ミューズ細胞はその特性から安全性や簡便性に優れた細胞です。
主に5つの特徴を有しています。

  • 取り扱いが簡便
  • ありとあらゆる組織、臓器に分化可能(多分化能)
  • 高い自己複製能
  • 腫瘍化の危険性が低い
  • 分化誘導が不要である

それぞれについて詳しく解説します。

取り扱いが簡便

ES細胞は人の受精卵から、iPS細胞は人工細胞として人工的に作られています。
それに対しミューズ細胞は、ヒトの骨髄、皮膚、脂肪などの組織や様々な臓器の結合組織に散在しており、簡単に採取できます。

多分化能

ミューズ細胞は高い多分化能を有します。
例えば、造血幹細胞は赤血球や白血球、血小板などの血球に分化し、筋肉や骨に分化することは出来ません。
神経幹細胞であれば、神経細胞やグリア細胞に分化し、胃や腸などの細胞に分化することは出来ません。
それに対して、間葉系幹細胞は骨、軟骨、脂肪などの間葉系細胞の他に、神経(外胚葉)、肝細胞(内胚葉)など胚葉を超えた分化が報告されてきました。
研究の結果、間葉系幹細胞の中に含まれるミューズ細胞がその特性を持つ細胞であると同定されました。

高い自己複製能

幹細胞においても重要なのは多分化能と、自己複製能です。
自己複製能とはその名の通り、自己を複製(コピー)する能力です。
例えば、爪や髪の毛の細胞は自己複製を行って元の長さや形に戻ります。
幹細胞がありとあらゆる組織に分化できても、自己複製能がなければ損傷した組織を補うことができません。
ミューズ細胞は高い自己複製能を有しており、幹細胞の定義を満たしています。

腫瘍化の危険性が低い

ES細胞やiPS細胞は、投与後にガン細胞に分化してしまう未分化な細胞も含まれており、腫瘍化の危険があります。
そのため、腫瘍化の危険性を持つ未分化な細胞を除去する必要があります。
それに対し、ミューズ細胞はそもそも体内に自然に存在する細胞であり、腫瘍化の危険が極めて低いという特徴があります。
実際に、これまで行われてきた多くの間葉系幹細胞移植では、現在までのところヒトに投与して腫瘍形成の報告はありません。
当然、間葉系幹細胞内にはミューズ細胞も含まれており、ミューズ細胞の安全性には実績もあります。

分化誘導が不要

ES細胞やiPS細胞を再生医療に用いる場合、未分化な幹細胞を目的とする細胞に分化させるため誘導する必要があり、分化しそこなった細胞は腫瘍化する可能性があります。
しかし、ミューズ細胞には分化誘導が不要であり、そのまま生体内に投与するだけで自分で判断して損傷した組織の細胞に分化します。

ミューズ細胞を用いた脳出血の治験

ミューズ細胞を用いた脳出血の治験は行われていませんが、患者数の多い脳梗塞の治験は行われています。
2018年から東北大学附属病院で行われている治験で、対象患者は明らかな運動障害のある脳梗塞患者で、発症後14日から28日の35人です。
そのうち、25人はミューズ細胞製剤を、残り10人には偽薬を投与するという治験でした。
治験結果では、ミューズ投与群のなんと31.8%の方が職場復帰可能な状態に改善しました。
その一方で、偽薬投与群における職場復帰可能な方は0%であり、長期的に見てもミューズ投与群で明らかな改善を認めました。

まとめ

今回の記事ではミューズ細胞の特徴について解説させて頂きました。
東北大学の研究によって、これまで再生医療に用いられてきた間葉系幹細胞の中から、多分化能を有するミューズ細胞の同定に成功しました。
ミューズ細胞はES細胞やiPS細胞と違い、投与後の腫瘍化のリスクが非常に低く、分化誘導も不要なため、非常に優れた幹細胞である可能性が高いです。
実際に、現在行われている治験でも素晴らしい結果を出しており、今後再生医療の中心になる可能性もあります。
もし実臨床での使用が可能となれば、再生医療はさらに発達し、多くの脳梗塞・脳出血患者の麻痺やしびれを回復できる可能性があります。
とはいえ、保険適応やコストなどの問題はクリアできておらず、実臨床への適応にはまだまだ課題も残っているのが現状です。

Q&A

Muse細胞の由来は?
ミューズ細胞とは、Multilineage-differentiating Stress Enduring (Muse)細胞のことで、直訳すると多系統に分化する、ストレス耐性の強い細胞という意味です。
関連記事▶︎ ミューズ細胞とはどのような細胞か?

ミューズ細胞の問題点は?
ミューズ細胞の問題点として、糖尿病などを持つ患者では体内のミューズ細胞の活性が低下しており、そういった患者が脳梗塞や急性心筋梗塞などの重篤な疾患に罹患した場合、体内のミューズ細胞だけでは修復が困難な点が挙げられます。

<参照元>
・東北大学大学院医学系研究科細胞組織学分野:http://www.stemcells.med.tohoku.ac.jp/outline/
・東北大学:https://www.nsg.med.tohoku.ac.jp/news/detail/id=966



貴宝院 永稔【この記事の監修】貴宝院 永稔 医師 (大阪医科薬科大学卒業)
脳梗塞・脊髄損傷クリニック銀座院 院長
日本リハビリテーション医学会認定専門医
日本リハビリテーション医学会認定指導医
日本脳卒中学会認定脳卒中専門医
ニューロテックメディカル株式会社 代表取締役

私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。


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