キネシンと神経再生の可能性:損傷神経の修復における分子モーターの役割 | 再生医療|幹細胞治療|ニューロテックメディカル

キネシンと神経再生の可能性:損傷神経の修復における分子モーターの役割

           

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この記事を読んでわかること

キネシンやダイニンといった分子モーターが、神経細胞内で物質輸送や恒常性維持に重要な役割を果たしていることがわかる。
キネシン5を阻害することで、損傷した神経の再生が促進される可能性があることがわかる。
キネシンを標的とした再生医療の研究が進んでおり、将来的な臨床応用が期待されていることがわかる。


キネシンやダイニンといった分子モーターは、神経細胞内で物質を輸送し、神経の働きを支える重要な役割を担います。
中でもキネシン5の活性調節により、損傷した神経軸索の再生が促進される可能性があり、再生医療への応用が期待されています。
この記事では、神経修復メカニズムやキネシンを標的とした治療の展望を解説します。

障神経損傷後のキネシンの挙動と再生への影響

障神経損傷後のキネシンの挙動と再生への影響
キネシンスーパーファミリータンパク質(KIFs:キネシンのこと)は、細胞内に張り巡らされた細胞骨格である微小管(びしょうかん)の上を動く分子モーターのことです。

つまり、キネシンは、レールである微小管の上を走り、ミトコンドリアや小胞という膜でできた袋などの荷物を運ぶ宅配便の役割を果たしています。

生命活動に欠かせない核酸・タンパク質・細胞内小器官などの荷物を適切な場所へと送り届けたり、染色体の分裂を牽引したりといった機能があります。
キネシンはKinesin-1からKinesin-14まで、14のサブファミリーに分類されており、それぞれ異なる特徴があります。
その中でも、キネシン1と、キネシンと同様なモータータンパクであるダイニンが末梢神経の修復に重要であることがわかってきました。

キネシン1とダイニンは、微小管の構築と、軸索輸送両方の重要な調節因子であり、いずれも末梢神経の再生に関与しています。
キネシン1は、オルガネラという細胞内にあって、特定の役割を持つ細胞内小器官(ミトコンドリア等)や、mRNAを含む貨物を細胞体からシナプスの末端に輸送することで、神経の恒常性を維持しています。
また、ダイニンも同様に貨物を輸送することで恒常性を保つ役割を果たしていますが、キネシン1とは逆の方向に移動します。
キネシン1のニューロン特異的な遺伝子を欠損しているゼブラフィッシュを観察した研究では、運動ニューロンの軸索の再生が減少するという結果が得られました。

キネシン活性の調節による神経再生の促進

一方で、キネシンの働きを調節することで、神経再生が促進される可能性があるという研究もあります。
キネシン5は、有糸分裂においては特に大切な役割で最もよく知られている分子運動タンパク質です。
そして、軸索内の他の運動タンパク質による微小管運動のブレーキとしても働きます。
キネシン5の活性を阻害することで、軸索の再生を助けるのではないかという仮説が立てられ、研究が行われています。

成人においては、損傷した神経の軸索の再生は可能ですが、特に中枢神経系(CNS)では、再生能力が限られています。
成人の中枢神経系の損傷した軸索は、再成長せず、むしろ収縮して退化してしまうこともあります。
しかし、キネシン5を阻害することで、損傷した成人の軸索がよりよく再生されることが示されました。
この微小管関連タンパクの長期阻害は、神経再生への良い影響があるかもしれません。
しかし、脳などの他の神経組織に到達した場合、悪影響を及ぼす可能性もあります。
例えば、アルツハイマー病では脳にβアミロイドという異常タンパクが沈着します。
これによって、キネシン5が阻害され、脳内のニューロンの変性に関わっているのではないかと示されています。
限られた期間、損傷した部位にのみ薬物を投与することで、悪影響をもたらすことなく、キネシン5阻害が神経再生に及ぼす良い効果を活用できるかもしません。
今後、こうした治療の最適化が望まれています。

再生医療におけるキネシンの応用可能性

再生医療におけるキネシンの応用可能性
ラットでの研究では、自己免疫性神経障害に対してキネシン5阻害剤を用いた場合の効果について調べられています。
その結果、運動神経突起の進展並びに組織学的回復を促進するというメカニズムが働き、自己免疫神経炎の改善に役立つ可能性が示唆されています。

キネシンの機能を応用した神経再生の促進は、再生医療の分野でも期待されていますが、実用化に向けてはまだ多くの課題があります。
まず、キネシンの種類によって作用や標的が異なるため、どのキネシンを、どの疾患に対して、どの程度抑制または活性化すべきかといった詳細な検討が必要です。
さらに、薬剤が標的以外の神経組織に及ぼす副作用や、長期使用時の安全性などについても慎重な評価が求められます。
例えば、キネシンの阻害は細胞分裂にも影響するため、がん治療薬として使われるケースもある一方で、正常細胞への影響を考慮する必要があります。
今後は、局所投与の技術や、特定の神経細胞にだけ作用する分子標的薬の開発などが進めば、キネシンを応用した再生医療の可能性がさらに広がると考えられます。
再生医療の未来を切り拓く鍵として、キネシンの基礎研究と、臨床応用の橋渡しが今後ますます重要になってくるでしょう。

まとめ

今回の記事では、キネシンというモータータンパクが神経修復に関わっている点や、今後の再生医療への応用について解説しました。
神経再生の新たな鍵として注目されるキネシンの研究は、今後の臨床応用に向けてさらなる発展が期待されます。
さて、神経の再生には、構造の回復とともに、リハビリテーションが重要になることも多いです。
当院ニューロテックメディカルでも、リニューロ®という、同時刺激×神経再生医療®によって『狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療』を提供しています。
また、その治療効果を高めるために骨髄由来間葉系幹細胞、神経再生リハビリ®の併用もおすすめしています。
詳しくは、当院のHPをご覧ください。

よくあるご質問

神経細胞とダイニンの関係は?
ダイニンは、神経細胞内で軸索を通じて細胞末端から細胞体方向へ物質を輸送するモータータンパク質です。
老廃物の回収や栄養因子の逆行輸送を担い、神経の機能維持や損傷時の回復に重要な役割を果たしています。
キネシンとは逆向きに働き、細胞内のバランスを保っています。

神経細胞で構成されるものは何ですか?
神経細胞(ニューロン)は、脳・脊髄といった中枢神経系、そして末梢神経系の主要な構成要素です。
情報を受け取る樹状突起、伝える軸索、他の細胞と接するシナプスなどから成り、思考、感覚、運動の制御に関わる複雑なネットワークを形成しています。

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    1:キネシン型分子モーターの多彩な機能を支える分子構造基盤.顕微鏡.2018;53(2):85-91.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenbikyo/53/2/53_85/_pdf/-char/ja
    2:細胞内輸送の解明にかける思い | 東京大学:https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/f_00043.html
    3:Dynein promotes sustained axonal growth and Schwann cell remodeling early during peripheral nerve regeneration | PLOS Genetics:https://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1007982
    4:Baas PW, Matamoros AJ. Inhibition of kinesin-5 improves regeneration of injured axons by a novel microtubule-based mechanism. Neural Regen Res. 2015 Jun;10(6):845-9. doi: 10.4103/1673-5374.158351. PMID: 26199587; PMCID: PMC4498332.:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4498332/
    5:Kohle F, Ackfeld R, Hommen F, Klein I, Svačina MKR, Schneider C, Fink GR, Barham M, Vilchez D, Lehmann HC. Kinesin-5 inhibition improves neural regeneration in experimental autoimmune neuritis. J Neuroinflammation. 2023 Jun 9;20(1):139. doi: 10.1186/s12974-023-02822-w. PMID: 37296476; PMCID: PMC10257330.:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10257330/

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    PROFILEこの記事の監修
    貴宝院 永稔
    貴宝院 永稔 医師
    (大阪医科薬科大学卒業)
    • 脳梗塞・脊髄損傷クリニック 総院長
    • 日本リハビリテーション医学会認定専門医
    • 日本リハビリテーション医学会認定指導医
    • 日本脳卒中学会認定脳卒中専門医
    • ニューロテックメディカル株式会社 代表取締役

    私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
    リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
    このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。


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