この記事を読んでわかること
・脳卒中とその後遺症
・脳梗塞や脳出血など脳卒中の再生医療
・骨髄間葉系幹細胞による脳卒中の再生医療
脳卒中という言葉の語源は、卒然(=突然)に中る(あたる)という現象にあります。
脳の血管に異常が起きることで脳の神経が、突然・急に障害される疾患を脳卒中といいます。
脳の血管の異常には血管が詰まってしまう虚血と、血管が破綻する出血があり、それぞれが原因となる脳卒中を虚血性脳卒中、出血性脳卒中といいます。
虚血性脳卒中には脳梗塞があり、出血性脳卒中には脳内出血、くも膜下出血があります。
脳卒中とその後遺症
脳の神経に異常が起こると、その障害は原則として永続的なものとなり、治癒することはありません。
つまり、後遺症として一生付き合っていかなければならない症状となります。
脳卒中には、次のようにさまざまな後遺症が発生する可能性があります。
- 運動麻痺
- 手足の細かい動きが不十分になる程度のものから、座ってもいられなくなるような重い症状まで、程度によりさまざま。
手足が固まってしまう「痙縮」という状態になるとそれに伴う痛みも含めて、非常につらい症状となります。 - 感覚麻痺
- しびれを感じたり、触られた感覚が鈍くなったりするなど。
逆に痛みを強く感じたりすることもあります。 - 高次機能障害
- 言葉がうまく出てこない、集中力が持続しない、相手の話が理解できない、記憶障害など。
興奮する、暴力を振るうなど性格が変化して社会生活に障害が出ることもあります。
見た目では分かりづらい部分であるため、周囲のとまどいが起きやすい症状です。 - 嚥下障害、排尿障害
- 飲み込みの障害により肺炎などを起こす危険性が高くなります。
排泄のコントロールが効かなくなることがあり、介護者の負担が大きくなる症状です。
脳梗塞や脳出血など脳卒中の再生医療
脳卒中の治療は、市民・救急隊への啓発により一刻も早い治療開始、発症早期に血流を再開させる方法、または出血をできるだけ抑えるといった方法により神経の障害をできるだけ少なくするということに注力されています。
これらの方法は一定の効果を挙げていますが、一方で毎年のように新たな後遺症を抱えた患者さんが多数発生しています。
残念ながら後遺症が定着してしまった患者さんには現時点で打つ手がありません。
そこで、障害された神経を治療する方法として、注目を集めるのが再生医療です。
再生医療は平成26年9月にiPS細胞を用いた移植手術が行われるなど、着実に成果を上げています。
国として再生医療の普及を推し進めるために法整備が行われ、それ以来急速な発展を遂げています。
再生医療の中で中心的な役割を担うのが、幹細胞です。
幹細胞は体内のさまざまな細胞に成長することができる細胞のことで、iPS細胞やES細胞といった細胞のことを指します。
幹細胞の中でも一般のレベルに普及し始めているのが、間葉系幹細胞という細胞です。
間葉系というのは骨や血管、筋肉や軟骨といった細胞のことを指します。
間葉系幹細胞はそれらの細胞だけなく、神経細胞や肝臓など由来が異なる細胞にも成長できることが証明されています。
間葉系幹細胞は成人の体に存在する細胞で、骨髄や脂肪、歯髄などから比較的容易に採取することができるため、実用性・安全性が高いと言えます。
骨髄間葉系幹細胞による脳卒中の再生医療
骨髄間葉系幹細胞は、骨髄の中にある間葉系幹細胞のことで、他の幹細胞と比較して複数のメリットがあります。
第一に、細胞の採取・管理が比較的容易であることです。
骨髄間葉系幹細胞は、骨髄穿刺(骨に針を刺す)をすることで採取することができます。
元々骨髄穿刺は血液の検査などのために従来から広く行われている手技であるため、安全な方法が確立されています。
加えて、間葉系幹細胞は接着する能力を持つことから、単純な培養で分離・増殖させることができます。
幹細胞治療を行うには非常に繊細な管理が必要とされるため、培養が単純に済む骨髄間葉系幹細胞は実に便利な性質を持っているといえます。
第二に、自分の細胞を用いることができるため、拒否反応の心配がないことです。
ES細胞は受精卵から採取するため、自分の遺伝子のみでは成立しません。
常に拒否反応のリスクを抱えていることになります。
第三に、倫理的問題がないことが挙げられます。
ES細胞は受精卵から採取するという点、iPS細胞は理論的にはクローンを作成することができてしまうという点から常に倫理的問題をはらんでいます。
間葉系幹細胞にはそのような心配はありません。
なぜなら分化する能力に限りがあるため、全ての細胞を作り出すことはできないからです。
分化・増殖する能力に限りがあるということは、がん化するリスクが少ないという点にもつながります。
ただし分化する能力が限られることがメリットになる一方で、治療効果に疑問が残るという指摘があります。
そこで、脳梗塞に対する間葉系幹細胞を用いた治療のメカニズムについて、多くの動物実験が行われました。
研究の結果、下記が示されました。
- 投与された間葉系幹細胞は脳に生着し、脳内で増殖すること
- 間葉系幹細胞は脳の損傷部位に移動(遊走)すること
- 脳に生着した間葉系幹細胞は神経細胞特有の性質を示すようになり、脳内で神経細胞のネットワークを再構築すること
二度と再生することがないと考えられていた神経の細胞が、間葉系幹細胞の移植により元の機能を取り戻す可能性があることを示した点で、画期的な研究成果といえます。
サイトカインによる神経保護効果
間葉系幹細胞を移植することによる治療効果には、細胞自体による効果の他に、二つ目のメカニズムが推定されています。
それは、間葉系幹細胞から分泌される種々の神経保護因子や神経栄養因子が、ダメージを受けた神経に対して保護的に作用するという効果です。
分泌される物質のことを、サイトカインと呼びます。
もともと骨髄間葉系幹細胞は骨髄の中でさまざまなサイトカインを分泌し、血液のもととなる造血幹細胞の栄養、分化をサポートしています。
採取された間葉系幹細胞は培養される過程で多くのサイトカインを分泌し、一緒に移植されます。
また、体内で間葉系幹細胞が増殖する際には、豊富にサイトカインが分泌されます。
実際に分泌されている栄養因子としては下記などが挙げられ、神経を保護する作用を示します。
- nerve growth factor (NGF)
- hepatocyte growth factor (HGF)
- brain-derived neurotrophic factor (BDNF)
これらの栄養因子は、細胞の保護効果だけではなく、脳梗塞に伴う炎症反応の軽減にも作用すると考えられています。
移植された幹細胞自体が体内で機能することに加えて、サイトカインが効果を発揮することで、脳卒中の再生医療が達成されるのです。
脳卒中の再生医療で期待できる治療効果
- 神経機能の再生により、神経障害の後遺症に次のような治療効果が期待できます
- 運動麻痺:麻痺の軽減、ふらつきの軽減など
- 感覚麻痺: しびれや痛みの軽減、触覚・冷感・温感の改善
- 高次機能障害:言葉や文字を理解する能力、発声や読み書き・意思の疎通の改善
- 嚥下障害、排尿障害:排尿、排便のコントロール
再生医療は「自分自身を治そうとする力(自己治癒力)」を最大限に引き出す方法です。
専門的な機能訓練(リハビリテーション)を同時に行うことで、相乗効果を期待することができます。
また、脳卒中の再生医療は、傷ついた血管を修復し、血管を新生させ血流を維持する効果があります。
脳卒中の再発を予防する方法としても期待できると考えられます。
ニューロテック®で受診可能な再生医療
ニューロテック®では、研究成果による裏付けがある「骨髄間葉系幹細胞の点滴投与」を受けることができます。
法律により「二種」に分類される再生医療であるため、申請をして認可を受ける必要がある治療です。
当院では、2018年9月に特定認定再生医療等委員会の審査を受け承認、2019年1月に厚生労働省に受理されています。
自家由来の幹細胞点滴治療
自家由来(ご自身の骨髄から採取して培養した幹細胞)幹細胞点滴治療にはその投与時に行う「再生医療リハビリ」をセットで行うことで効果が高まるとされています。
- 1.問診、カウンセリング
- 現在の障害が発生した元の疾患やその経緯をお聞きし、検査所見を確認、障害の程度を診察します。
当院で行う治療の具体的な内容や期待される効果、リスクや治療への向き合い方などをカウンセリングします。
目安時間:約2時間 - 2.採血、感染症検査
- 幹細胞治療を希望された方は、まず採血により感染症検査を行います。
肝炎などのウイルスをお持ちの方は細胞の培養を行うことができないため、幹細胞治療を受けることはできません。
検査結果が分かるまでの目安:約1週間 - 3.骨髄穿刺(骨髄液採取)
- 局所麻酔を行い、腸骨(下腹部で左右に出っ張っている腰骨)に針を刺し、骨髄液を採取します。
専用服に着替え、清潔に操作を行います。
採取にかかる時間は約30分、採取後は止血と経過観察のため、約60分休んでから帰宅となります。
目安時間:約90分 - 4.幹細胞の培養
- 採取した骨髄液は当日中に細胞培養加工施設に輸送し、幹細胞の培養を行います。
厳重に清潔、温度管理を維持しながら細胞数1億個を1回に移植することを目標に培養していきます。
目安期間:約4週間
※細胞数、培養期間には個人差があります。 - 5.幹細胞投与1回目
- 培養した幹細胞を移植します。
静脈から通常の点滴と同じように投与します。
体の反応を見ながら、慎重に時間をかけて行います。
目安時間:約30分 - 6.幹細胞投与2回目、3回目
- 4週間の感覚をあけて2回目、3回目の投与を行います。
初回と同様に点滴からゆっくりと行います。
目安時間:約30分 - 7.検診
- 投与後6ヶ月、もしくは1年後に検診を行います。
サイトカインカクテル療法
「間葉系幹細胞から分泌される種々の神経保護因子や神経栄養因子が、ダメージを受けた神経に対して保護的に作用する」という点に注目し、細胞を使用せずに分泌されたサイトカインのみを投与する方法です。
幹細胞は培養液の中で分裂、増殖するのですが、使用された培養液中にはサイトカインが豊富に含まれています。
この培養液の上澄み液がサイトカインカクテルです。
細胞を使用しないためより安全性、実用性が高く他人のものでも使用できるためご自身の細胞を採取する必要がありません。
骨髄穿刺の痛みや手間がないのがメリットです。
サイトカインカクテルは点鼻で使用することができるため、点滴投与以上に手軽な方法といえます。
幹細胞点滴とサイトカインカクテル点鼻時に行う再生医療リハビリ
当院では再生医療の効果を最大限に引き出すため、リハビリテーションを重視しています。
幹細胞を点滴投与した時、サイトカインカクテルを点鼻投与した時は体内の治癒力が高まっている状態と考えられるため、そのタイミングでリハビリテーションを実施します。リハビリテーションをおこなうことで損傷部周囲の血流が約30%上昇することが分かっています。
そして、損傷部周辺に少しでも多く幹細胞やサイトカインをとどけることが再生医療の効果を高めるために必要と考えられるからです。
神経障害に特化した専門性の高いリハビリテーションを、電気刺激やロボティクスを併用した最先端の方法で行います。
自宅でも継続して訓練ができるよう、担当の理学療法士からご本人に合ったオーダーメイドのホームエクササイズ指導を行います。
脳卒中の再生医療に関わるリスクと副作用
当院で行う骨髄穿刺、幹細胞の点滴投与は安全性が高い方法ですが、次のようなリスクや副作用の可能性があります。
当院ではリスク低減のため最大限の努力をしており、現在のところ重篤な副作用が発生した事例はありません。
ただし診察や検査の結果、治療に伴うリスクが高いと判断される場合には、治療を受けることができないことがありますので、あらかじめご了承ください。
- 骨髄穿刺(骨髄液採取)時
- 局所麻酔に対するアレルギー
- 穿刺部の出血、皮下血腫
- 穿刺部の不快感
- 穿刺部からの感染症
- 幹細胞点滴投与時
- アレルギー
- 肺血栓塞栓症
- 点滴刺入部からの感染症
- 点滴刺入部の発赤
脳卒中の再生医療にかかる費用
現時点では脳卒中の再生医療は健康保険が適応されないため、自費負担となります。
幹細胞の培養は厳格に管理されたクリーンルームで行うなど、高い安全性と品質を保つためコストがかかります。
そのため、治療費はやや高額となります。(治療費についてのページを参照)
一生残る後遺症のケアには多額の費用がかかり、また何より健康な体は費用に代えられない価値があるものです。
当院では入念なカウンセリング、そして最先端の再生医療を通じて、患者様が元気になるお手伝いをしたいと考えています。
関連記事
気になる記事:再生医療に関する治療費について
外部サイトの関連記事:幹細胞治療の投与量などから安全性を考える
コメント