脊髄小脳変性症の治療に挑む再生医療について

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小脳や脳幹の細胞が変性し、その機能が徐々に失われる脊髄小脳変性症は、遺伝疾患であり根本的治療はないと考えられてきました。
しかし、日本ではiPS細胞を用いた病態解明が進められており、国内外では健常ドナーから作成された体性体細胞を用いた臨床試験も実施されています。
まだ有効性は確立していませんが、確実な治療法として期待されています。

脊髄小脳変性症とは

小脳
まず脊髄小脳変性症とはどのような病気なのか、その全体像をご説明します。

脊髄小脳変性症とはどのような病気か?

脊髄小脳変性症とは、ふらつきなどの歩行障害、嚥下障害、言語障害などを主な症状とする、まれな遺伝病です。
フリードライヒ失調症」とも呼ばれています。
小脳や脳幹、脊髄に存在する神経細胞が変性してしまい、その機能を徐々に失ってしまうことが原因です。

なお家族に脊髄小脳変性症の人がいると、この疾患を発病するリスクが高くなります。
いわゆる「常染色体劣性遺伝」と呼ばれる様式で遺伝します。

脊髄小脳変性症の症状

脊髄小脳変性症は、2歳から50代前半までに発症しますが、10歳から15歳の間に発症することが最も多いといわれています。
初期症状としては、歩行困難が最も一般的です。
その他にも視力や聴力の低下、足の反射の欠如、手足を協調させた運動ができない、言語障害などもよくみられる症状です。

また脊髄小脳変性症の方の多くは、何らかの心臓疾患を有しています。
最も一般的なのは、心筋が厚くなる肥大型心筋症です。
動悸、胸痛、めまい、息切れなどが、心臓疾患の症状として考えられます。

脊髄小脳変性症の診断

脊髄小脳変性症はどのようにして診断されるのでしょうか?
まず、神経や筋力に関する詳細な診察を行います。
さらにCTやMRI検査を行うこともあります。
これらの検査では、脳や脊髄の画像を得ることができ、他の神経疾患の除外に役立ちます。
遺伝子検査では、脊髄小脳変性症の原因となる遺伝子の欠損を確認します。

また、筋細胞の電気的活動を測定する筋電図検査が行われることもあります。
神経伝導検査では、神経の伝達速度を調べることができます。

脊髄小脳変性症の治療方法

脊髄小脳変性症の根本的な治療法は確立されていませんが、症状に対処するための治療法はいくつかあります。
理学療法や言語療法は身体機能の維持・向上に役立ちます。
また、歩行補助具が必要な場合もあります。
背骨が曲がってしまったり、足に問題が生じたりした場合は、装具や手術が必要になることもあります。
また、心臓病の治療のために薬が使われることもあります。

脊髄小脳変性症と再生医療

再生医療
それでは、続けて脊髄小脳変性症と再生医療について、解説いたします。
先ほどのご説明したように、脊髄小脳変性症には、現在のところ根本的な治療方法はなく、その進行を遅らせる有効な治療法もありません。
しかし、間葉系幹細胞を用いた再生医療は、神経変性疾患の革新的な治療法として期待されています。

日本における脊髄小脳変性症と再生医療

日本の理化学研究所では、2016年に脊髄小脳変性症の患者から取り出した細胞からiPS細胞を確立させ、小脳の細胞を分化誘導し、脊髄小脳変性症の病態を再現することができたと発表しました。
これまでわからなかった発症メカニズムが明らかになり、根本的治療に大きな一歩となりました。

(出典:日本医療研究開発機構. プレスリリース 患者由来iPS細胞による脊髄小脳変性症の病態再現-小脳プルキンエ細胞変性から病態を理解し、創薬への道を開く- https://www.amed.go.jp/news/release_20161102.html)

このほかにも健常な人から作成された体性幹細胞を用いた、脊髄小脳変性症を対象とした臨床試験も開始されています。
2019年11月から開始された国内での第Ⅱ相臨床試験では、ランダム化比較対照試験が行われており、2021年2月に全ての被験者登録が終えられています。
現在、データ収集が継続して行われており、データの解析が待たれるところです。

なおステムカイマル®と呼ばれるこの薬は厚生労働大臣からの承認を得て、現在助成金や税制措置も受けることができる希少疾病用再生医療等製品に指定され、国からの支援も受けることができるようになっています。

海外における脊髄小脳変性症と再生医療

日本で使用されているステムカイマル®は、元々は台湾で開発されたものです。
台湾では2012年から2014年に初めの臨床試験である第I/IIa相臨床試験が行われており、その安全性と有効性が確認されています。

台湾では、脊髄小脳失調症の患者6名と小脳型多系統萎縮症の患者1名を対象に、体重kgあたり106個の体性幹細胞を静脈内投与する非盲検試験を実施しています。
被験者は1年間、安全性および有効性の可能性について注意深く観察されました。
その結果、1年間の追跡調査において、体性幹細胞の注入に関連する有害事象は認められませんでした。
試験終了時には、すべての患者が体性幹細胞による治療の継続を希望しており、脊髄小脳失調症の治療を目的とした体性幹細胞による第II相臨床試験に進めることができると結論付けられています。

この結果が、日本での臨床試験を推進しました。また台湾や米国、韓国でも同様に継続して臨床試験が実施されており、データ解析が待たれています。

(出典:リプロセルの再生医療https://reprocell.co.jp/regenerative_medicine)
(出典:Tsai YA, et al. Treatment of Spinocerebellar Ataxia with Mesenchymal Stem Cells: A Phase I/IIa Clinical Study. Cell Transplant. 2017;26(3):503-512)


まとめ

脊髄小脳変性症と再生医療についてご説明しました。
実験室レベルでの研究から実際の患者さんへの治療に使用するまで、進歩的な治療が行われていることがわかります。
不可能を可能とする再生医療のさらなる進歩に期待するところです。


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貴宝院 永稔【この記事の監修】
福永記念診療所 再生医療部長 再生医療担当医師

ニューロテックメディカル代表【 Dr.貴宝院 永稔 】
大阪医科大学卒業
私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。

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