この記事を読んでわかること
・間葉系幹細胞とは
・間葉系幹細胞とips細胞の違い
・間葉系幹細胞の問題点
再生医療で利用されている間葉系幹細胞。
自己複製能と多分化能を持ち、さまざまな部位から採取できる利用しやすい幹細胞です。
その間葉系幹細胞(MSC)は成体内に存在する幹細胞の1つで、中胚葉由来の組織である骨や軟骨、血管、心筋細胞に分化できる能力をもつ細胞です。
ここでは、間葉系幹細胞や再生医療や他分野における利用などをわかりやすくご紹介します。
間葉系幹細胞とは
間葉系幹細胞は、骨髄や脂肪組織、胎盤、臍帯などに含まれている幹細胞です。
幹細胞は、自己と同じ細胞に分裂する能力(自己複製能)とさまざまな細胞になれる能力(多分化能)をもっています。
造血幹細胞は、細胞分裂を行い赤血球・白血球・血小板などに分化する幹細胞です。
造血幹細胞は最も研究が進んでいる幹細胞で、血液が作れなくなる再生不良性貧血や白血病などの治療で行う骨髄移植に使われています。
間葉系幹細胞は、免疫抑制機能や抗炎症効果、腫瘍に集積する性質などがあることが知られています。
また、さまざまな場所から採取できるうえ、安全性も高さことから再生医療での利用が増加しています。
間葉系幹細胞とips細胞の違い
iPS細胞は、ひとつの細胞から全ての細胞や組織を作れることに対し、間葉系幹細胞は分化できる細胞が限られています。
他人由来のiPS細胞を移植すると拒絶反応が起こりやすいため免疫抑制剤が必要ですが、間葉系幹細胞には免疫抑制機能があるため、他人由来の間葉系幹細胞を移植しても拒絶反応が起こりにくいです。
また、間葉系幹細胞は人の体の中にある細胞ですが、iPS細胞は体細胞に遺伝子を注入して人工的に作り出す幹細胞のため、培養に多くの時間と費用がかかります。
間葉系幹細胞は腫瘍化するのか?
iPS細胞は、どのような細胞にも分化することができますが、予期せぬ細胞に分化して腫瘍化するリスクがあるといわれています。
一方、間葉系幹細胞は、現在まで30年間の臨床研究、臨床治療現場にて腫瘍化したという報告は無く、安全性が高いと考えられている細胞になります。
しかし、間葉系幹細胞について明らかになっていないことも多く、今後の更なる研究が必要とされています。
間葉系幹細胞の問題点
安全面や倫理面から再生医療に利用されることが増えている間葉系幹細胞ですが、いくつか問題点があります。
立体的な器官を形成することが難しい
間葉系幹細胞は再生医療に利用されることが増えているが、現在では臓器や立体的な器官を間葉系幹細胞だけから作り出すことは難しいです。
再生医療に利用しても効果には個人差がある
間葉系幹細胞にはまだ明らかになっていないことが多く、再生医療に利用しても効果には個人差があります。
また研究が進むにことで、現在まだわかっていない新たなリスクが発見される可能性も否定できません。
培養し増殖を行うと徐々に増殖能もしくは多分化能が低下する
間葉系幹細胞を培養し増殖させると、間葉系幹細胞の老化により徐々に増殖能もしくは多分化能が低下してしまいます。
脂肪由来間葉系幹細胞は骨髄由来間葉系幹細胞よりも増殖能が強く、増殖に伴う増殖能低下の影響が小さいことが知られています。
費用が高い
医療保険が使えないため、間葉系幹細胞を利用した治療を受けるには数百万円の費用がかかることがあります。
そのため、普通の人が間葉系幹細胞を利用した再生医療を受けるのは簡単ではないでしょう。
出来るだけ早く再生医療の保険適用やコスト削減が実現されることが望まれています。
間葉系幹細胞培養上清
間葉系幹細胞培養上清とは、間葉系幹細胞を体外で培養したときに得られる分泌液から、不純物や細胞を取り除いた上澄みの部分です。
この分泌液中には、タンパク質や成長因子、サイトカイン、エクソソームなどが豊富に含まれています。
培養上清液と培養液との違い
培養液は、幹細胞を培養するときに利用する液体で、培養上清液は幹細胞を培養したあとの培養液から細胞と不純物を取り除いて滅菌処理などをした液体です。
培養上清液に期待できる効果は、幹細胞を採取した部位により異なっており、目的に応じて使用されています。
幹細胞培養上清に含まれているサイトカインと効果
サイトカインは細胞から分泌されるタンパク質で、細胞同士の情報伝達や細胞の増殖、分化、自然免疫、炎症正反応、創傷治癒などに関係しています。
サイトカインが豊富に含まれている幹細胞培養上清は、炎症調整機能や免疫力の強化、損傷を受けた組織や機能低下した細胞の回復などの効果が期待できるため、医療や美容分野などで利用される機会が増えています。
間葉系幹細胞は新型コロナに効くのか?
間葉系幹細胞を利用して、新型コロナウイルスの治療薬を開発しようとする研究が行われています。
まずは、新型コロナウイルスについて簡単にご紹介します。
新型コロナウイルスの症状とは?
新型コロナウイルスに感染すると、数日~2週間の潜伏期間ののち発症します。
初期症状は風邪やインフルエンザと似ており、発熱・咳・倦怠感・息切れ・筋肉痛・味覚障害・嗅覚障害などがみられます。
約80%の人は1週間前後で回復しますが、約20%の人は症状が悪化して重症化します。
重症化するリスクが高いのは、高齢者や糖尿病や呼吸器疾患などの基礎疾患を持っている人であることがわかっています。
新型コロナウイルスに感染したことが原因で亡くなった人の死因で多いのは、肺炎やサイトカインストームによる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)や多臓器不全という報告があります。
サイトカインストームとは?
体内にウイルスや細菌が侵入し炎症を引き起こすと、防御反応を調整する働きがあるサイトカインが分泌されます。
感染によって炎症が広がると、さらにサイトカインが分泌され、そのサイトカインによってマクロファージなどの免疫細胞が刺激され、その免疫細胞からさらにサイトカインが分泌されるようになります。
この過剰にサイトカインが放出されている状態がサイトカインストームです。
過剰に分泌されたサイトカインは暴走を始め、様々な臓器を攻撃してしまうことがあります。
また、サイトカインストームにより血液の凝固異常が引き起こされることが、血栓を形成する原因になるといわれています。
間葉系幹細胞で免疫暴走を抑えられる?
間葉系幹細胞には、免疫抑制機能や抗炎症機能、組織修復機能があることが知られています。
サイトカインストームによって引き起こされている免疫暴走を抑え血栓形成を予防し、炎症を抑えることで肺炎やARDSに効果があるのではないかという期待から、間葉系幹細胞を新型コロナウイルスの治療に利用しようと試みている企業があります。
間葉系幹細胞化粧品
肌に弾力やハリ、ツヤを与えているのはコラーゲンやヒアルロン酸、エラスチンです。
これらは年齢とともに減少してしまうため、年をとるに従い肌のハリやツヤがなくなってしまいます。
ヒアルロン酸やコラーゲン、エラスチンを作り出しもととなっているのは線維芽細胞で、線維芽細胞の働きは加齢やストレス、生活習慣の乱れなどで低下します。
低下した線維芽細胞を活性化させるために注目されているのが、間葉系幹細胞です。
間葉系幹細胞の研究が進み、間葉系幹細胞培養上清液には機能低下した細胞の回復効果が期待できるとわかってきたため、培養上清液を配合した美容液やクリームなどが開発され販売されています。
まとめ
間葉系幹細胞やそれを利用した再生医療・化粧品などをご紹介しました。
間葉系幹細胞は、すでにさまざまな分野で利用されていますが、まだ明らかになっていないことが多いため、研究が進めばさらに多くの分野で利用されていく大きな可能性をもっている細胞です。
<参照元>
朝日新聞:国内初、幹細胞で新型コロナ治療 ロート製薬が治験へ
ロート製薬:幹細胞のエクソソーム分泌量を増やす成分の発見
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