この記事を読んでわかること
・そもそも放線冠とは
・放線冠における脳梗塞
・放線冠における脳梗塞の症状
放線冠とは、大脳皮質から内包に至るまで脳の内部に放射状に広がる神経繊維です。
周囲には脳を栄養する血管が走行していますが、細い血管であるため脳梗塞を引き起こしやすいです。
特にラクナ梗塞が生じやすく、放線冠が障害されるとさまざまな神経症状をきたします。
そこでこの記事では、放線冠における脳梗塞の症状について解説していきます。
放線冠とは?その役割と障害が引き起こす症状
放線冠とは、前頭葉や頭頂葉の表層に存在する大脳皮質から脳の深部に存在する内包に至るまでの、脳内部に放射状に広がる神経線維です。
大脳皮質とは、人体における運動の司令を最も最初に発令する部位であり、それと同時に身体が感じる痛みや温度などの感覚を最終的に完治する部位でもあります。
内包とは脳深部に存在する部位で、運動や感覚などの刺激伝導が非常に高濃度に通過する重要な部位です。
つまり、人の運動の司令は大脳皮質から生じ、放線冠とともに内包を通過して脳幹・脊髄を経由し、末梢神経から四肢や体幹の筋肉へ入力されます。
逆に、身体の感覚は末梢神経から逆行するように脊髄・脳幹を経由し、内包や放線冠周囲を通過して大脳皮質に入力されます。
そのため、放線冠や内包における脳梗塞は運動や感覚などの刺激伝導に支障をきたし、さまざまな神経症状をきたす可能性があるわけです。
放線冠における脳梗塞
上記の内容からも放線冠が非常に重要な機能を有していることがわかると思いますが、長岡らの研究によれば放線冠における脳梗塞は脳梗塞全体の9.4%であり、残念ながら脳梗塞を起こしやすい部位でもあります。
脳梗塞は大きく下記の3つに分類されます。
- ラクナ梗塞
- アテローム性血栓性脳梗塞
- 心原性脳梗塞
このうち、放線冠ではラクナ梗塞、もしくはアテローム性血栓性脳梗塞が生じやすいと言われていますが、一方で内包はラクナ梗塞が生じやすいと言われています。
これは、それぞれの脳梗塞における発症機序で説明がつきます。
例えば、長期間の高血圧や喫煙によって脳の血管が硬く細くなっていく(これを動脈硬化と言います)と、脳内部のより細い動脈(穿通枝と言います)が閉塞し始め、これをラクナ梗塞と言います。
ラクナ梗塞では、あくまで細い血管である穿通枝が閉塞するため、基本的に梗塞範囲は小さいという特徴がありますが、脳深部で生じるため、脳深部にある内包や放線冠など非常に重要な部位をクリティカルに障害する可能性もあります。
一方で、動脈硬化は脳を栄養する太い動脈にも影響を及ぼします。
動脈硬化が長期的に生じると動脈に粥状変化をきたし、血管内にアテロームと呼ばれるコブが形成されます。
このコブが一部破綻すると血栓が形成され、太い血管といえど一気に閉塞してしまいアテローム性血栓性脳梗塞を発症します。
アテローム性血栓性脳梗塞は梗塞範囲が広範囲に及ぶという特徴があり、脳に広く存在する放線冠が障害されやすいと言われています。
脳梗塞全体のうちラクナ梗塞は31%、アテローム血栓性脳梗塞は33%であり、その両者で生じうる放線冠の脳梗塞には注意が必要となります。
では、具体的にどのような症状が出現するのでしょうか?
放線冠における脳梗塞の症状
前述したように、放線冠が障害されると部位に応じて運動や感覚の刺激伝導に支障をきたし、麻痺やしびれなどさまざまな神経症状をきたします。
また、舌などの筋肉にも麻痺が生じることでうまく言葉を話せなくなる構音障害などの後遺症をきたす方も少なくありません。
特に、放線冠における脳梗塞は運動の刺激伝導路である錐体路を障害しやすく、四肢の麻痺が出現する方が多い特徴があります。
さらに、内包や放線冠における脳梗塞は錐体路を障害しやすく、たとえ小さい範囲の脳梗塞であっても予後不良であることが多いとされています。
長岡らの研究によれば、特に上肢の麻痺が強い患者では後遺症として麻痺が残りやすく、下肢麻痺や構音障害の方と比較して介護が必要になる方が多いそうです。
とは言え、放線冠は脳内部に幅広く存在しており、脳梗塞の範囲のわずかな違いでも生じる神経症状や後遺症は異なるため、必ずしも麻痺が生じる訳ではありません。
放線冠における脳梗塞のリハビリの重要性
脳梗塞によって麻痺が生じた場合、神経機能の回復には理学療法や作業療法などのリハビリテーションが必須になります。
急性期から早期にリハビリテーションを導入することで、より良好な機能回復が期待できます。
具体的なリハビリ方法としては、歩行訓練、体力強化練習(自転車運動など)、基本動作練習(さまざまな姿勢をとる訓練)、日常生活動作練習(排泄・入浴などの訓練)が挙げられます。
放線冠における脳梗塞の症状についてのまとめ
今回の記事では、放線冠における脳梗塞の症状について解説しました。
放線冠は大脳皮質から内包にかけて脳内部に広範に存在する神経線維であり、放線冠が障害される脳梗塞では運動の伝導路である錐体路を障害されることが多いです。
その場合、四肢の麻痺や構音障害など、日常生活に大きな支障をきたすような後遺症を残す可能性が高いです。
また、放線冠における脳梗塞はラクナ梗塞やアテローム性血栓性脳梗塞が多く、どちらも長期的な高血圧、糖尿病、高脂血症や喫煙などによる動脈硬化が原因となります。
放線冠における脳梗塞は麻痺症状が強く、予後不良になることも多く、一度発症すると麻痺症状の改善は容易ではないため、生活習慣には十分注意しましょう。
現状、後遺症に対する治療はリハビリテーションが一般的ですが、近年では機能回復の治療法として再生医療の分野が非常に発達しています。
再生医療によって損傷した放線冠の機能が回復すれば、麻痺などの重篤な後遺症からの回復も見込まれるため、現在のその知見が待たれるところです。
よくあるご質問
右放線冠梗塞の症状は?
右放線冠梗塞の場合、顔面を含む左半身の麻痺や痺れが主な症状となります。
運動の神経伝導路である錐体路は延髄の錐体交叉と呼ばれる部位で左右交叉するため、梗塞とは左右逆側の四肢や体幹に症状が出現します。
Bad脳梗塞とは何ですか?
Bad脳梗塞とはBranch atheromatous diseaseの略です。
細い血管が閉塞するラクナ梗塞と太い血管が閉塞するアテローム性血管性脳梗塞の中間のような病型であり、ラクナ梗塞よりも梗塞巣が広範囲となり予後不良となる傾向にあります。
<参照元>
・ Smajlovic D, et al. Five-year Survival after first-ever stroke. Bosn J Basic Med Sci. 2006; 6(3): 17-22
・レバウェル看護:https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/7131/
・放線冠梗塞による純粋運動麻痺の臨床・放射線学的検討:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/31/4/31_4_227/_pdf/-char/ja
・放線冠梗塞例における病巣の局在と運動機能の検討:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2011/0/2011_Be0008/_pdf/-char/ja
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