この記事を読んでわかること
・潜在性二分脊椎とは
・潜在性二分脊椎の症状とは
・脊髄脂肪腫の一例
二分脊椎とは胎生初期の神経管形成不全に由来し、脊椎の癒合不全を認める状態を指します。
そのうち、脊椎の奇形に伴って脊髄が体表にそのまま露出しているものを開放性、表面が皮膚に覆われ脊髄が露出していないものを潜在性と分類します。
この記事では、潜在性二分脊椎の病態や症状について解説していきます。
潜在性二分脊椎とは
胎生初期に神経管の形成不全が生じ、脊椎の癒合不全を認める状態を二分脊椎と言います。
脊椎内部には脳から続く神経の束である脊髄が走行しているため、二分脊椎を発症すると脊髄奇形も合併し、さまざまな神経症状をきたします。
二分脊椎は臨床所見に応じて下記の2つに分類されます。
- 開放性二分脊椎:脊椎の奇形に伴って脊髄が体表にそのまま露出しているもの
- 潜在性二分脊椎:表面が皮膚に覆われ脊髄が露出していないもの
このうち、潜在性二分脊椎には下記のような疾患が含まれます。
- 脊髄脂肪腫:脊柱管内に脂肪腫が発生し脊髄を圧迫する病気
- 先天性皮膚洞:お尻部分の皮膚が陥凹し、脊柱管と交通する病気
- 割髄症:脊髄の一部が変形した脊椎によって左右に離開する病気
潜在性二分脊椎の症状とは
ここでは潜在性二分脊椎における症状について解説します。
前述したように、脊髄が皮膚に覆われて表面には露出していないものの、表面の皮膚には異常所見を認めることも多く、70〜80%の方で皮膚症状を認めます。
具体的には、背部の皮膚陥凹や血管腫、多毛、脂肪腫による皮膚の隆起等が観察されることが多く、これらの皮膚症状をきっかけに潜在性二分脊椎が疑われることも少なくありません。
このうち、脂肪腫によって神経症状が出現するものを脊髄脂肪腫と言います。
皮膚症状とともに多い症状が神経症状です。
脊椎の奇形に伴って脊髄の発達が邪魔され、成長とともに奇形が生じ、様々な神経症状をきたし、これを脊髄係留症候群と呼びます。
脊髄係留症候群の症状としては、下肢運動障害、腱反射消失、歩行障害、感覚障害、排尿障害、排便障害、足の左右差などが挙げられます。
これらの神経症状は、脊髄の成長過程で変形した脊椎に引っかかってしまう(係留する)ことで生じるため、何歳頃から出現するのか正確に予測することは困難ですが、一般的に5〜10歳頃に症状が顕在化してくることが多いと言われています。
また排尿障害は一旦発症すると不可逆的であり、手術でも機能の回復は困難であるため、症状が進行していない早期から治療することが重要となります。
潜在性二分脊椎の診断方法とは
潜在性二分脊椎の診断方法は、主にMRI検査やCT検査などの画像検査です。
乳幼児では最初に皮膚の異常がきっかけとなり、CT検査やMRI検査で精査されて脊髄奇形を発見されることが多いです。
特に、MRI検査は脂肪腫などの発見に有用です。
潜在性二分脊椎の治療方針とは
結論から言えば、潜在性二分脊椎に対する治療方針は早期手術派と待機手術派で意見が分かれています。
- 早期手術派:症状が出る前に手術を行うべきという主張
- 待機手術派:症状が確認されたら手術を行うべきという主張
早期手術派
早期手術派の意見としては、神経症状が出てから手術しても、神経症状に思った以上の改善は得られないことが知られているため、症状が出る前に手術を行った方がいいという考え方です。
また、子供は成人と比較して骨が薄く周辺組織の癒着も少ないため、手術が行いやすく手術時間も短くなるなどのメリットも早期手術を推す背景となっています。
待機手術派
一方で、待機手術派の意見としては、小児期における手術や全身麻酔のリスクを勘案すると、神経症状が出現してから早期に手術を行うべきだと考えています。
また、症状が出る前に予防的に手術を行ったとしても、その後の成長に伴う奇形によって神経症状が出現する可能性があり、「早期手術=一生大丈夫」ということにならないという考えが背景にあります。
脊髄脂肪腫の一例
潜在性二分脊椎の中で最も発症頻度の高い脊髄脂肪腫を例に治療経過を紹介します。
脊髄脂肪腫は脂肪腫によって脊柱管内の脊髄の成長が妨げられ、脊髄係留を引き起こし神経症状をきたす病気です。
一旦神経症状が出現すると改善は困難であり、早期に脂肪腫による脊髄係留を解除する予防的手術が有効とされています。
手術では脂肪腫全てを取り除く必要はなく、脊髄を損傷しないように安全な範囲で摘出することが重要です。
また、脊髄脂肪腫は術後20〜30%で脊髄の再係留を認めるため、術後であるにもかかわらず神経症状が出現することもあり、その場合は再手術が必要となります。
まとめ
今回の記事では、潜在性二分脊椎について解説しました。
潜在性二分脊椎とは胎生期からの先天的な奇形であり、脊椎の奇形に伴って皮膚や脊髄にも異常所見が出現する病気です。
脊髄が体表に露わになってしまう開放性二分脊椎と異なり、潜在性二分脊椎の場合は、脊髄が皮膚に覆われているため、一見すると正常な子供のように見えることもあります。
また、多くの子供は表面の皮膚症状を精査する過程で、MRI検査などを行い神経所見が明らかとなります。
発見が遅れ神経症状が出現してしまうと、たとえ手術を行ってもなかなか神経機能の改善は困難であるとされ、早期発見が非常に重要となる疾患です。
一方で、近年では再生医療が台頭しており、潜在性二分脊椎の治療方針も変わる可能性があります。
潜在性二分脊椎によって損傷を受けた脊髄が再生医療によって回復すれば、症状が出るまで不用意な手術を行う必要がなくなる可能性があります。
さらに、発見が遅れて神経症状が残ってしまった子供も症状が改善する可能性があり、現在その知見が待たれるところです。
よくあるご質問
潜在性二分脊椎症の症状は?
潜在性二分脊椎症では主に皮膚症状と神経症状が出現します。
胎生初期の神経管形成不全による脊椎の変形に伴い、脊髄にも支障をきたしさまざまな神経症状をきたします。
主に、下肢の麻痺や腱反射消失、歩行障害、感覚障害、排尿障害、排便障害、足の左右差などが挙げられます。
潜在性二分脊椎 何人に1人?
潜在性二分脊椎の発症頻度は不明ですが、最も高頻度である脊髄脂肪腫は海外の報告では、4000人に1人と言われています。
一方で、総患者数も少なく、国内における全国規模の統計調査も存在しないため、脊髄脂肪腫の発症頻度を出生1万人あたり0.3-0.6とする研究もあり、 正確な発生頻度は不明です。
さらに詳しく▶︎ 二分脊椎症とは
<参照元>
・松戸市HP:https://www.city.matsudo.chiba.jp/hospital/kakkyokusinryouka/shonika/syoninoshinkei/kikeisikkann.files/1398683017543.pdf
・日本脊髄外科学会:http://www.neurospine.jp/original35.html
・東京慈恵医科大学付属病院 脳神経外科:https://www.neurosurgery.jp/disease/pediatric/disease-413/#:~:text=脊髄背側や尾,に1人くらいです%E3%80%82
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