脊髄損傷による自律神経過反射の危険性と予防法

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交通事故などで比較的上部の脊髄が損傷してしまった場合、警戒すべきは麻痺だけではありません。
上部の脊髄損傷で併発する自律神経過反射は、命に関わる非常に危険な合併症です。
脊髄を損傷すると、様々な弊害をもたらします。
どれも重篤なことに変わりはないのですが、命に関わる合併症は数少なく自律神経過反射もその1つです。
投薬や治療など医学的フォローも大切です。
しかし患者に対して周囲の人ができる対処・予防も重要です。
今回は、自律神経過反射の病態や対処・予防法について解説します。

自律神経過反射とは何なのか

そもそも自律神経は生きるうえで普段無意識に生命活動をコントロールしている神経系です。
心拍や呼吸、消化活動、泌尿器系などを担っています。
自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があります。
基本的に交感神経は危険を回避する信号を伝達し、副交感神経は休息するための信号を伝達します。
両者は相互関係にあり、例えば交感神経の興奮(優位)状態が続くと脳の指令によって副交感神経に働きかけます。
このようにして自律神経は、状況に合わせ交感神経・副交感神経が興奮し生体機能を調節しています。

しかし脊髄損傷により脳との連絡が遮断されると、外部から刺激を受け反応(反射)した自律神経は脳からの指令(抑制)が伝達しません。
そのため周囲が対処しない限り永遠と自律神経の反応(反射)状態が続いてしまうのです。
また、脳は必死に抑制指令を出し続け、この現象によって命が危険にさらされてしまうことがあります。

メカニズムを知ってはじめて対処できる

自律神経過反応のメカニズム
対処法だけ知ったところで意味がありません。逆に患者を苦しめてしまうかもしれません。
患者の状況や環境によっては、柔軟に対応しなければならずメカニズムを知らなければ間違った対応することもあります。
医療従事者でなくともメカニズムを理解した上で対応することが大切です。

自律神経過反射のメカニズム

自律神経過反射は、6番目の胸髄節(T6)以上の損傷で起こります。
T7以下の脊髄損傷では、残存している胸髄節により脳からの抑制信号が、ある程度伝達しますで、自律神経過反射(特に異常高血圧)が起こりにくいといわれています。
自律神経過反射は、泌尿器や生殖器からの刺激、下半身の感覚刺激、消化管潰瘍などがきっかけで起こります。

自律神経反射とは

体は外部からの刺激(危険)へ即座に対応しなければなりません。
通常は脳を介して反応しますが、脊髄でUターンすることで短時間で反応する神経経路が存在するため、いち早く危険を回避できます。
これを自律神経反射といいます。
代表的なものに、血管収縮や筋収縮があります。

泌尿器などからの刺激により自律神経反射が起こります。
基本的に外部からの刺激に対しては交感神経が働きますので、各所で血管の収縮が起きます。
血管収縮による血圧上昇を感知し脳は血管拡張や心拍数を下げる指令を送ります。
しかし脊髄損傷によりT6以下には指令が届かずに血管は拡張せず、高い血圧が続いてしまいます。
また心拍数を下げる指令は脊髄より上位の延髄から正常に送られます。
高血圧が改善しない限り心拍数は低いままで血液を全身に送ることができなくなってしまいます(徐派の継続)。
この持続する高血圧と徐脈が継続することで、脳出血などの発症が誘発され、最悪の場合は命の危機にさらされることもあります。

自律神経過反射の原因

自律神経過反射は、脊髄損傷前から抱えている疾患が引き金になるケースもあります。
自立神経過反射を避けるため、日頃から意識して予防することが大切です。

排尿や排便・生殖器系が原因

  • 膀胱の充満や拡張
  • 便秘や下痢
  • 感染症による刺激
  • 泌尿器・生殖器系の検査や処置(膀胱鏡検査、婦人科診察など)
  • 睾丸や陰茎の圧迫
  • 月経痛や陣痛
  • 射精

自律神経過反射の原因として最も多いのが膀胱の充満です。
脊髄損傷患者はカテーテルを使用した排尿を行います。
カテーテルのつまりや集尿バッグが満杯になっておれば正常に排尿できません。
これが膀胱の充満・過度な拡張を起こし自律神経過反射を誘発します。
また日頃から便秘や感染症(尿道炎など)が慢性化しないようにも注意しましょう。

下半身への刺激

  • 床ずれ(褥瘡)
  • 外傷による苦痛(切り傷、骨折、やけどなど)
  • 熱さや冷たさによる温刺激
  • 衣服などのつよい圧迫感
  • 感染症
  • 爪が剥がれる

下半身への過度な感覚刺激が自律神経過反射のきっかけとなります。
周囲の人がしっかりフォローしてあげましょう。

消化管

  • 胃潰瘍
  • 大腸炎
  • 腹膜炎

これら疾患は癌などとは違い、生活習慣の改善で予防することができます。
既に罹患しているのであれば、医療機関で治療してもらうしかありません。

こんな症状が出現します

高血圧・血圧計
自律神経過反射は、主に高い血圧が下がらず徐脈が続きます。
この2つの病態が、様々な症状を引き起こします。

高血圧の持続

  • 200/100以上の高血圧
  • 殴られたような頭痛
  • 脳出血
  • 顔面紅潮
  • 吐き気
  • 鼻づまり

徐脈

  • めまい
  • 動悸
  • 種々の不整脈

交感神経過反射

  • 鳥肌
  • 発汗

激しい頭痛や吐き気、めまいなどにより患者はとてもつらい時間を過ごさなければなりません。
持続した高血圧は脳出血を引き起こす原因にもなります。
また、徐脈が引き金となり他の不整脈を誘発することで命の危険があります。
いずれにしても早急に対処しなければなりません。

【対処法】患者を苦しみから解放せよ!

病床

(1)体を起こし血圧を下げる
寝た状態の場合、体を起こしてあげることで血圧を下げることができます。
反対に体が起きている場合(座位など)に寝かせてはなりません。
(2)原因を取り除く
先ほど解説した通り、多くは排尿や排便、下半身への皮膚刺激です。
(排尿の改善)
留置カテーテルの場合、カテーテルの排出口を持ち上げゆっくりと膀胱を空にしましょう。
急激に膀胱が空になると痙攣を起こし再び血圧が上昇する可能性があります。
また留置カテーテルでない場合は、定期的な自己導尿を行うよう指導しましょう。
(排便の改善)
便通をチェックし、直腸に便があれば手でかきだしてあげます。
またかきだす前に、肛門に刺激を与えないよう麻酔薬を入れ5分ほど待ちましょう。
(下半身の皮膚刺激の改善)
切り傷や打撲、潰瘍や床ずれ、爪の状態を確認しましょう。
また、ゆったりとした服に着せ替え刺激を与えないようにしましょう。
(3)解決しなければ、すぐ助けを呼ぶ
以上のことを実践しても改善しない場合、医療従事者・医師の診察や治療が必須です。
救急車を呼ぶか、かかりつけの病院に相談しましょう。
また、自律神経過反射はやや特殊な病態ですので、医療スタッフが専門的対処法を熟知していない場合もあります。
全員が対処できるようにアラートカードを携帯しましょう。
※自律神経過反射のアラートカード
日本せきずい基金ホームページから「自律神経過反射についての医学的警告カード」を参考し作成、携帯してください。

自律神経過反射の予防法

自律神経過反射を誘発する原因を取り除くことが予防になります。
排尿や排便、皮膚刺激の除去を行いましょう。

排尿管理

  • 排尿時間を習慣化する
  • カテーテルにつまり等がないか定期的に確認する
  • 留置カテーテルの場合、交換スケジュールを守る

排便管理

  • 規則正しい排便を習慣化する
  • 排便が困難な時は、かきだしてあげる(摘便)、座薬を使用する
  • お腹を押して腸内ガスを抜く
  • 食事管理で便やガスが溜まらないようにする
  • 痔出血が起きた場合、素早く処置し軟膏を使用する
  • 下痢が続く場合、肛門周囲を清潔に保ち食事に配慮する

下半身の皮膚刺激の除去

  • 服は圧迫感のないものを選ぶ
  • 服は清潔を保つ
  • 最低1日1回は傷などがないか確認する
  • 時々体位を変える(褥瘡対策)
  • 体圧分散寝具を使用する

まとめ

今回は、自律神経過反射について解説しました。
脊髄を損傷すると、麻痺するというイメージが一般的です。
自律神経過反射はあまり聞くことがないかもしれません。
しかし脊髄損傷レベルによっては、麻痺と同じかそれ以上に重要視しなければならない病態です。
この記事で自律神経過反射の全体像をお分かりいただけたかと思います。
ぜひブックマークして、いつでも確認できるようにしていただければ良いと思います。

参考

●神奈川リハビリテーション病院泌尿器科:横溝由美子、郷原絢子、田中克幸
神奈川リハビリテーション病院リハビリテーション科:横山修
「自律神経過反射により小脳出血を起こした頸髄損傷者の1例」
泌尿紀要 56巻11号(2010年)、659-661

●名古屋大学医学部泌尿器科学教室主(主任:三矢英輔教授):小谷俊一、近藤厚生
中部労災病院泌尿器科:小林峰生
「自律神経過反射の臨床的検討」
泌尿器科紀要 31巻7号(1985年)、1143-1149

●NPO法人 日本せきずい基金
第11章 自律神経過反射
http://jscf.org/SIRYOU/ssk02/yyc11.htm


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