この記事を読んでわかること
くすぶり型自己免疫性脳炎の病態がわかる
くすぶり型自己免疫性脳炎に対する免疫療法のメリット・デメリットがわかる
くすぶり型自己免疫性脳炎に対する再生医療の効果がわかる
くすぶり型自己免疫性脳炎とは、自己免疫性に生じる脳炎が通常よりも緩徐に進行する病気です。
記憶障害や精神症状、意識障害など、さまざまな症状をきたし、治療が遅れれば後遺症を残す可能性もあるため、注意が必要です。
この記事では、くすぶり型自己免疫性脳炎に対する再生医療の有効性について詳しく解説します。
免疫抑制療法(ステロイド・IVIG・血漿交換)の現状と課題
皆さんはくすぶり型自己免疫性脳炎という病気をご存じでしょうか?
この病気は、本来外から侵入した異物から自身の身体を守るための抗体が、誤って自身の細胞を異物と誤認し、攻撃してしまうことで生じる脳炎です。
主に他部位における腫瘍に対して産生された抗体が自己抗体となって、脳細胞や髄膜、脊髄などの神経組織を破壊することが多いため、自己免疫性脳炎自体の治療はもちろん、全身における腫瘍検索も必要です。
通常、自己免疫性脳炎は脳細胞が破壊されることで、作業記憶障害(短期記憶障害)、もしくは精神・意識状態の変化(意識レベ ルの変化、嗜眠、人格変化)、もしくは何らかの精神症状が、発症から3ヶ月未満の亜急性の経過で進行します。
しかし、稀に非常に緩徐に症状が進行するケースも認められ、これをくすぶり型自己免疫性脳炎といいます。
次に、くすぶり型自己免疫性脳炎に対する治療は主に下記の2つです。
- 原因となる腫瘍に対する治療
- 免疫療法
特に、脳炎に対する直接的な治療は免疫療法であり、主に下記のような治療法が挙げられます。
- メチルプレドニゾロンパルス(intravenous methylprednisolone:IVMP)療法
- 免疫グロブリン大量静注(intravenous immunoglobulin:IVIg)療法
- 血液浄化療法
- リツキシマブあるいはシクロホスファミド
どれも免疫能力を抑えて、自己抗体の産生を抑制したり、産生された自己抗体を血液から除去するような治療法です。
IVMP療法・ IVIg療法・血液浄化療法を単独もしくは併用して行い、それでも改善しない場合は、リツキシマブあるいはシクロホスファミドを導入します。
中奥らの報告によれば、これらの免疫療法は大変効果的で、約90%の患者に有効であったそうです。
一方で、免疫療法にはそれぞれ下記のようなデメリットがあります。
- ステロイド:長期使用で感染症、骨粗鬆症、糖尿病、消化性潰瘍、高血圧、精神症状などのリスク増大
- IVIg療法:血栓塞栓症や体液量過剰のリスク増大
- 血液浄化療法:感染や血圧低下・カテーテル挿入時の出血リスクなど
一見すると、IVIg療法は副作用が少なく見えますが、その分他の治療法と比較して、効果発現が遅い場合や、効果が不十分な場合があるため、注意が必要です。
神経再生を促す幹細胞点滴・上清液治療の理論と研究報告
近年、これまで難治であった神経疾患に対して、幹細胞点滴・上清液治療が注目されています。
自身の骨髄や脂肪組織から採取した間葉系幹細胞には、他の系統の細胞に分化する能力や自己複製能があるため、損傷した神経組織の再生を促進する効果があります。
そこで、採取した間葉系幹細胞を体外で培養し、大量に増殖させた後に身体に点滴から戻す治療が幹細胞点滴です。
さらに、この培養で使用した培養液には、幹細胞から分泌された大量のサイトカインが含まれており、このサイトカインは組織の成長や血管新生を促進するため、組織修復に大変役立ちます。
このサイトカインを含む培養液を精製し、点滴によって体内に取り入れる治療が上清液治療です。
残念ながら、くすぶり型自己免疫性脳炎に対して幹細胞点滴・上清液治療を実施した報告は現状認められません。
しかし、脳炎によって脳細胞が破壊されると後遺症が残ってしまうため、これらの後遺症改善のためにも、幹細胞点滴・上清液治療による治療法の確立が期待されます。
リハビリと再生医療を併用したQOL改善の症例紹介
上記で示したように、再生医療は神経疾患の後遺症の新たな選択肢として大変注目されていますが、実際には再生医療単独で麻痺やしびれが綺麗さっぱりなくなる、というような夢のような治療法ではありません。
近年では再生医療とともにリハビリを併用することが、神経機能回復のために重要であると認識され始めています。
実際に、国立障害者リハビリテーションセンターの研究を例に挙げましょう。
主に大阪大学で実施されている再生医療の1つに、嗅粘膜細胞を損傷した脊髄に直接移植する手法がありますが、この成果についてはエビデンスに乏しい状態でした。
そこで、国立障害者リハビリテーションセンターの研究では、嗅粘膜細胞の脊髄移植と併用してリハビリを行なった結果、より身体機能が改善されることを証明しました。
以上のように、リハビリと再生医療には相乗効果が期待できるため、今後くすぶり型自己免疫性脳炎をはじめとする、さまざまな疾患に適用されることが期待されます。
まとめ
今回の記事では、くすぶり型自己免疫性脳炎と再生医療の関係について詳しく解説しました。
くすぶり型自己免疫性脳炎とは、自己抗体によって脳細胞が破壊される病気であり、記憶障害や意識障害、精神症状など、さまざまな症状をきたします。
免疫療法の有効性は高いものの、再発率も高く、治療が遅れたり再発した場合は後遺症が残ってしまう可能性もあります。
そこで近年では、くすぶり型自己免疫性脳炎の後遺症に対する新たな治療法として、再生医療も大変注目されています。
幹細胞によって損傷した脳細胞の機能・構造が回復すれば、後遺症の改善が見込まれるためです。
また、ニューロテックメディカルでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、これまで改善困難であったくすぶり型自己免疫性脳炎の後遺症の改善が期待できます。
よくあるご質問
- 自己免疫性脳炎の治療法は?
- 自己免疫性脳炎の治療法は、原因となる腫瘍そのものに対する治療と、免疫療法の2つです。
免疫療法では、ステロイド治療・免疫グロブリン大量静注療法・血液浄化療法などを併用して治療を行います。 - 自己免疫疾患は再燃することがありますか?
- 自己免疫疾患は再燃する可能性が十分あります。
例えば、自己免疫性脳炎の場合は、発症2年以内に12%で再発することが報告されており、再発予防のためにも継続的な治療が必要となります。
<参照元>
(1)自己免疫性脳炎の診断と治療|J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/8/110_1601/_pdf
(2)抗体陽性辺縁系脳炎の1例|日本神経学会:https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/053090706.pdf
(3)再生医療・リハビリテーションによる身体機能改善の可能性 |国立障害者リハビリテーションセンター:https://www.rehab.go.jp/rehanews/japanese/No366/1_2_story.html
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