この記事を読んでわかること
・自律神経の働きと体温調節の仕組み
・脊髄損傷による体温調節障害
・脊髄損傷の体温調節障害に対する再生医療
脊髄損傷の症状としてすぐに思いつくのは体の麻痺ですね。
足が思い通りに動かず車いす生活になる、というイメージがあると思います。
ところが、脊髄損傷の症状は体の麻痺だけではなく、さまざまなものがあります。
そのうちの一つが、自律神経を障害されることによる症状です。
自律神経は私たちが意識することなく、周囲の環境に応じて体調を維持するために、勝手に働いてくれている神経です。
自律神経の働きには血圧の調節や排泄・排尿などがあり、体温調節も含まれます。
ここでは、脊髄損傷と体温調節について解説します。
自律神経の働きと体温調節の仕組み
私たち人間は体温調節の機能が非常に発達しています。
例えば寒い時には体が震え、暑い時は汗をかきます。
これは、寒い時には震えることで熱を発生させて体温が下がりすぎないようにしている反応であり、暑い時に汗をかくのは汗が蒸発する時に熱が奪われ体温が上がりすぎないようにしている反応なのです。
そのようにして周囲の気温が変わっても、人の体内の温度は37.0℃前後で一定に保たれています。
体温を一定に保つのに大きな働きをしているのが自律神経です。
周囲が寒い時、自律神経は皮膚にある血管を収縮させて、熱が逃げないように調節します。
逆に暑い時には、皮膚にある血管を拡張させて熱が逃げやすいようにするとともに、汗をかいて体温を下げようとします。
血管の収縮、拡張は自分の意志でコントロールすることはできず、無意識のうちに自律神経が調節してくれています。
また体温が上がった時、全身の血流を維持するため心臓が送り出す血液の量が多くなるように、心臓を強く収縮させる必要があります。
これも自律神経の働きによるものです。
脊髄損傷による体温調節障害
脊髄損傷の患者さんは、自律神経の障害が起こることがあります。
特に頚髄損傷ではその頻度が高く、全身に症状が発生します。
胸髄、腰髄の損傷では損傷レベルよりも先で自律神経障害の症状が起こりやすくなります。
自律神経の障害があると、周囲の環境に応じた血管の収縮・拡張の調節や、心臓が送り出す血液量の調節がうまくいかなくなるため、体温が変動しやすくなります。
健常な方では、20℃や35℃の部屋に2時間滞在しても(深部)体温は一定に保たれていますが、頚髄損傷の患者さんでは、周囲の温度に応じて1℃程度体温が変動してしまいます。
体温が1℃上がると体が非常にだるく重くなるのを皆さん経験したことがあると思います。
人の体は体温が一定に保たれていることで維持されている重要な機能がいくつもあります。
体温調節障害は、日常生活に関わる重要な問題なのです。
運動のとき体温調節の点から気をつけたい事
脊髄損傷の患者さんは日頃の活動量がどうしても減少することからカロリー消費が少なく、生活習慣病のリスクが高いと言われています。
そのため、運動習慣を身に付けることが重要です。
ところが、自律神経障害のある脊髄損傷の方は運動に対する体の反応が、健常な方とは異なります。
そのため血圧の変動が大きいことや、体温の調節が間に合わないことによる思わぬ症状が起こることがあります。
特に暑い時には体温が上がりすぎる可能性があることに注意が必要です。
ある研究では室温32℃で車いすエルゴメーターによる60分間の運動を行った時、頚髄損傷の方は深部体温が2.1℃も上昇したそうです。
体温が上がりすぎれば、熱中症と同じで、危険な状態となります。
汗をかくことができないため、霧吹きで顔や腕などに霧をふきかける、ぬれタオルで手足を拭くなどの対策が必要です。
こまめに水分や休憩をとるなど、十分に注意して運動をするようにしましょう。
脊髄損傷の体温調節障害に対する再生医療
自律神経の障害は脊髄損傷による、神経の損傷が原因です。
神経は一度損傷されると元通りに回復することはなく、生涯残る後遺症となってしまいます。
その未来を変えてくれるかもしれない新たな医療、それが再生医療です。
再生医療では、神経や血管の元になる細胞(幹細胞)を使用し、神経の回復を促すような成分(成長因子)が作用します。
また移植した細胞が実際に神経になり、機能を再生するという作用も期待しています。
ニューロテックメディカル株式会社では、「ニューロテック®」として脳卒中・脊髄損傷・神経障害などに対する幹細胞治療の基盤特許を取得しており、再生医療の効果を高める取り組みを行っています。
脊髄損傷による体温調節障害に対しては、幹細胞治療とリハビリテーションを組み合わせることで最大限の機能回復を達成できると考えています。
患者さんやご家族の方は、ぜひご相談ください。
まとめ
脊髄損傷と体温調節について、解説しました。
パラアスリートをはじめ、脊髄損傷になっても活動的な生活を送っているかたは数多くいらっしゃいます。
体温調節や血圧調節の障害など、自分の体の特徴を把握して、安全に活動できるよう気をつけながら、ぜひアクティブな生活を続けていただければと思います。
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