この記事を読んでわかること
・脳梗塞と関係する背部痛
・大動脈解離の症状
・大動脈解離と脳梗塞
背部痛を主な症状のひとつとする大動脈解離は、適切な治療をしなければ死にいたる重篤な病気ですが、大動脈から頭部に向かう血管が枝分かれしていることもあり、脳梗塞を発症することもあります。
脳梗塞の治療として一般的に行う血栓溶解療法は、大動脈解離を悪化させることがあるため、慎重な対応が求められます。
脳梗塞の初期症状を見逃さないために
背中の痛みと頭痛は、一般的に緊張や筋肉の問題と結びつけられることが多いですが、脳梗塞の初期症状として現れることもあります。
特に脳幹に関連した脳梗塞では、背部や首の痛みが報告されています。
突然の痛みが現れた場合には、他の神経症状(片側の麻痺や言語障害など)と合わせて注意を払い、専門医の診断を受けることが重要です。
脳梗塞による背中の痛みのメカニズム
一般的に、背中の痛みと脳梗塞は関係するものではないと思う方が多いのではないでしょうか?
確かに背中は頭部と離れていますので、ひとつの原因で説明することは難しいかもしれません。
しかし比較的まれではありますが、背部痛を主な症状としながら、脳梗塞を起こす病気があります。
それが大動脈解離です。
背中の痛みが危険信号になるケースである大動脈解離について
大動脈解離は、体の主要な動脈である大動脈の内側に裂け目ができる、重篤な状態です。
大動脈は心臓の左心室につながっており、そこから頭に向かって少し伸びた後、身体の下の方向に向けてカーブしています。
その後、大動脈は背骨である脊椎の脇に位置して、胸腔と腹腔を通り、骨盤で終わります。
背骨の脇を通るために、背部に痛みを感じることがあります。
血管内の裂けた部分から血液が流れ込むと、大動脈の裂け目がさらに広がります。
裂け目がさらに広がり、血液が大動脈の外に飛び出してしまうと、体内で大出血が起こり、しばしば致命的となります。
なお大動脈解離は、大動脈のどの部分が解離するかにより、Stanford A型とB型の2タイプにわかれます。
Stanford A型は、大動脈が心臓から出てくる部分で解離します。
このタイプの大動脈解離は、大動脈の上部である上行大動脈に生じ、腹部まで伸展することもあります。
Stanford B型は、主に下行大動脈のみに解離が生じ、腹部まで達する可能性があります。
大動脈解離の症状
大動脈解離の症状は、狭心症や心筋梗塞などの症状と類似している場合があります。
典型的な症状には、以下のようなものがあります。
- 突然発症する、上背部から首や背中全体、胸部に広がる激痛。(この痛みは、しばしば引き裂かれるような感覚と表現されることがあります)
- 突然の激しい上腹部痛
- 意識喪失
- 突然の麻痺など、脳卒中と同様の症状
- 歩行困難
大動脈解離の危険因子
大動脈解離のリスクを高める可能性のあるものには、以下のようなものがあります。
- 適切に管理されていない高血圧
- アテローム性動脈硬化症
- 大動脈瘤
- 大動脈弁の異常(大動脈弁二尖弁)
- 先天性の大動脈の狭窄(大動脈縮窄症)
なお、大動脈解離を起こすリスクを高める遺伝性疾患もあります。
例えば体内のさまざまな部位を支える結合組織が弱くなる疾患であるマルファン症候群では、しばしば大動脈の動脈瘤や大動脈解離を起こします。
この他にも血管が脆くなるエーラス・ダンロス症候群などがあります。
その他にも、潜在的な危険因子として、男性であること、60歳以上であること、妊娠していること、重量挙げ選手のようにいきむことが多い、などがあります。
大動脈解離が引き起こす背中の痛みと脳梗塞の関連性
大動脈解離を発症すると、ときに脳虚血による神経症状が主症状となることがあります。
特にA型にみられる症状ですが、これは大動脈が左心室から始まり、頭部に向けて伸びたのちにカーブする領域で、頭部に向かう血管が枝分かれしていることに起因しています。
大動脈解離の影響で、頭部に向かう血管に血液が流入できなくなり、脳へ向かう血流が著しく減少するからです。
通常脳梗塞を発症すると、原因となっている血栓を溶かすことを目的とした血栓溶解療法を行います。
しかし大動脈解離を発症している方に血栓溶解療法をしてはいけません。
なぜならこの治療法を行うと、血液が止まりにくくなってしまうために出血が悪化してしまうからです。
したがって、背部痛を訴える脳梗塞の方の評価は慎重に行う必要があります。
そこで、脳梗塞を伴う大動脈解離の特徴を明らかにし、血栓溶解療法前に大動脈解離を早期に発見するためのマーカーの同定を目的とした研究が行われています。
日本の国立循環器病研究センターで行われたこの研究によると、大動脈解離を発症した226例中23例(10%)が大動脈解離に続いて脳梗塞を発症していました。
このうち胸痛・背部痛を訴えた方は11名(48%)でした。
また大動脈解離に続けて脳梗塞を発症した方に特徴的な所見としては、頸動脈超音波検査で総頸動脈の閉塞または内膜剥離を認める、血清Dダイマー値が上昇する、神経症状として左半身麻痺が生じる、収縮期血圧の腕間差が20mmHgを超える、胸部X線写真で縦隔拡大を認める、などがありました。
したがって、これらの症状や所見に注意しながら診療することが重要となります。
背中の痛みと脳梗塞についてのまとめ
背部痛を症状とする大動脈解離と脳梗塞の関係について説明しました。
特に両者を合併する場合は治療法の選択に大きく影響しますので、慎重な対応が必要となります。
背部の痛みに続く脳梗塞には、十分注意したいものです。
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