この記事を読んでわかること
・横断性脊髄炎とは
・横断性脊髄炎の症状
・横断性脊髄炎の後遺症と再生医療
脳からの指令を体に伝える脊髄は、私達が生活する上で必要な機能の多くを担っています。
脊髄に発生する障害は生活への影響が大きいため重要です。
脊髄に障害を起こす疾患は数多くありますが、珍しい物の一つに横断性脊髄炎があります。
10歳代の子供にも起こることがあり、時に重い症状を残す怖い疾患です。
この記事では横断性脊髄炎の症状と治療、予後について解説します。
横断性脊髄炎とは
横断性脊髄炎とは、脊髄に炎症が起きることで神経の機能が障害される疾患です。
炎症が起きる原因は様々ですが、自己免疫が関与していると考えられています。
自己免疫とは、本来異物や外敵に対してのみ働くはずの免疫の攻撃対象が自分に向いてしまう状態のことで、横断性脊髄炎では脊髄にある髄鞘がその対象になってしまいます。
髄鞘というのは神経の信号を効率良く伝えるために必須である組織で、障害されると信号の伝達が遅くなったり、誤った信号が伝えられたりしてしまいます。
マイコプラズマやエンテロウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス感染後などに自己免疫が形成されてしまい、障害が起こると考えられています。
その他にも、膠原病やサルコイドーシスという病気に伴って起きるケースや、視神経脊髄炎・多発性硬化症という疾患の初期症状であることもあります。
10歳代と30歳代に発症のピークがあり、100万人あたり1.3-8人程度の発症率とされています。
脊髄炎の具体的な症状
脊髄炎の症状は、炎症が起こった部位や程度によって異なりますが、一般的に以下の症状がみられます。
背中や首の痛み、胸部や腹部の圧迫感、手足にしびれや筋力低下、排尿・排便の障害(尿閉や便失禁)などが代表的です。
また、感覚異常(しびれ、灼熱感、冷感など)、麻痺、有痛性の強直性けいれん、自律神経症状(頻脈、発汗異常、血圧変動など)が見られることもあります。
症状は、急性期には急速に悪化し、その後徐々に改善する場合や、慢性的に続く場合もあります。
急性横断性脊髄炎の症状
急性横断性脊髄炎では、背中の痛みや胸腹部の締めつけ感、感覚の鈍化、下肢の筋力低下などが初期症状として現れます。
症状は急速に進行し、麻痺や感覚消失、排尿排便の困難といった深刻な症状に至ることもあります。
これらの症状は急性期に集中し、早期の対応が求められます。
視神経脊髄炎(NMOSD)の症状
視神経脊髄炎(NMOSD)は、視力の低下や視野狭窄、眼の痛みといった視神経症状が特徴です。
また、脊髄炎に伴う四肢のしびれや筋力低下、排尿排便障害などの神経症状も現れます。
これらの症状は再発しやすく、進行するごとに悪化する傾向があります。
脊髄障害の回復期に見られる症状
脊髄障害の回復期には、筋力の回復に伴って、手足のジーンとした感覚や突っ張るような痛みが現れることがあります。
また、感覚が徐々に戻る過程で、不快な感覚が一時的に増すこともあります。
これらの症状は、リハビリテーションを通じて改善されることが期待されますが、個々の回復速度には差が生じます。
脊髄炎の種類と症状の違い
脊髄炎には、原因や症状によって様々な種類があります。
代表的なものとして、急性横断性脊髄炎と視神経脊髄炎(NMOSD)が挙げられます。
急性横断性脊髄炎は、ウイルス感染や自己免疫疾患などが原因で起こり、背中の痛み、筋力低下、麻痺が特徴です。
一方、NMOSDは、視神経と脊髄に特異的に炎症が起こる病気で、視力低下、手足の麻痺、そして脊髄症状を伴うことが特徴です。
これらの疾患の診断は、MRI検査や髄液検査などの検査を行い、他の神経疾患との鑑別が必要です。
横断性脊髄炎の症状の現れ方と持続性
脊髄は脳から体に伸びる神経の束であるため、横断面を見ると細い神経が数多く集まる様子が分かります。
それぞれの神経は途中で枝分かれして、それぞれの担当部位へ分布します。
横断性脊髄炎はその名の通り、ある高さで横断性に脊髄を障害するため、障害高位より先の機能が全体的に失われていきます。
胸のところで発生することが多いためその先、つまり下半身は両側とも障害され、排尿や排泄のコントロールが難しくなります。
発症すると数時間~数日の間に症状は進行し、5-6日でピークを迎えます。
初期は頚部痛、背部痛から始まり徐々に下肢の麻痺や運動障害、感覚障害、進行すると膀胱直腸障害(排尿や排泄がコントロールできなくなる障害)が発生します。
もし頚部に炎症が発生した場合は上肢にも症状が及ぶことになります。
炎症レベルと症状の関係
脊髄の炎症が発生する部位によって、症状は異なります。
例えば、上部脊髄での炎症は上肢に影響を与え、下部脊髄の炎症は下肢に症状が集中します。
炎症の広がり具合により、麻痺や感覚障害の程度も変わり、早期診断と対応が重要です。
症状の一時的な発現と長期的な影響
脊髄炎の症状は、急性期に一時的に強く現れ、その後、徐々に改善することがありますが、再発のリスクも伴います。
一時的に改善した後も、再発によって症状が悪化する可能性があり、継続的な医療管理とリハビリが必要です。
脊髄炎の症状の進行と予後
脊髄炎の進行は、原因、治療のタイミング、患者の状態などによって大きく異なります。
早期に適切な治療を行うことで、症状の悪化を抑制し、回復を早めることができます。
しかし、後遺症として、運動機能障害、感覚障害、排尿・排便障害、性機能障害、疼痛、うつ症状などが残る場合もあります。
特に、再発を繰り返すタイプの脊髄炎では、後遺症が蓄積し、生活の質が大きく低下する可能性があります。
そのため、リハビリテーションなど、長期的なケアが必要となる場合もあります。
横断性脊髄炎の治療
横断性脊髄炎の治療として確立した方法はありませんが、発症には自己免疫が関わっていると考えられることから、免疫を抑えるステロイドを投与されることが一般的です。
治療を行っても症状が悪化する兆候がある場合には、血漿交換療法(自身の血液を取り出し健康な方の血漿を入れて置き換える治療)を行うことがあります。
治療がうまくいけば発症後2週間頃から徐々に症状の改善が見られます。
ただし改善の程度は個人差が大きく、全体の3分の1はほぼ完治する一方で3分の1はなんらかの麻痺や膀胱直腸障害が残存、残りの3分の1は介護が必要になるほどの重い症状を残すとされています。
横断性脊髄炎の後遺症と再生医療
横断性脊髄炎により強く障害された神経の機能は、残念ながら元に戻ることはなく生涯続く後遺症となってしまいます。
比較的若い年代で発症するだけに、後遺症に悩まされる期間は長くつらい症状となります。
神経そのものを治療するのは基本的に難しいのですが、新たな可能性をもたらしているのが再生医療です。
神経を回復するのが難しいのであれば、神経を再生することで機能を回復させようという治療です。
治療に主に使うのは、様々な細胞の元になる幹細胞です。
自身から取り出した幹細胞を培養して増やし、体内に移植して戻します。
移植された幹細胞は成長する過程で神経を保護する成分を分泌するとともに、神経そのものに成長して機能するようになることが期待されています。
ニューロテックメディカル株式会社では、「ニューロテック®」として脳卒中・脊髄損傷・神経障害などに対する幹細胞治療の基盤特許を取得しており、再生医療の効果を高める取り組みを行っています。
横断性脊髄炎に対しては、再生医療と最先端のリハビリテーションを組み合わせることで最大限の機能回復を達成できると考えています。
横断性脊髄炎の症状にお悩みの患者さんやご家族の方は、ぜひご相談ください。
横断性脊髄炎についてのまとめ
横断性脊髄炎はかぜ症状や下痢など日常的に起こる症状の後に発症する疾患です。
ウイルス感染の後に発症する神経疾患はいくつかあり、それらの疾患は早期発見と早期対応が決め手になります。
普段の症状経過と異なる様子があれば、早めに医療機関へ相談するようにしましょう。
よくあるご質問
- 急性横断性脊髄炎とは何ですか?
- 脊髄の炎症による障害が出現し、急速に進行する疾患です。
横断性の障害となるため左右対称に症状が出現します。
数日で症状がピークになるため、早期に対応して神経の障害をできるだけ軽度に抑えることが重要です。 - 横断性脊髄炎症状の余命は?
- 横断性脊髄炎は10歳代、30歳代という比較的若い年齢で発症します。
神経の障害が起きるものの臓器を直接的に障害することはないため余命は長いと言えます。
ただし麻痺症状や膀胱直腸障害が原因で起こる感染症などの合併症が致命的になる可能性があります。
<参照元>
・「急性横断性脊髄炎」岡山大学病院ホームページ
http://www.onitaiji.com/spine/disease/dis27.html
・「急性横断性脊髄炎」小児内科54増刊号, 2022
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