水頭症、歩行障害、膀胱直腸障害など多くの合併症が問題になり、様々な科が連携して治療が行われます。
この記事では脊髄髄膜瘤の概要について解説します。
脊髄髄膜瘤とは
脊髄髄膜瘤は妊娠の初期に何らかの原因で、脊椎(背骨)の形成がうまく行かず、脊髄を覆う膜の一部が外に飛び出してしまった状態です。
脊髄は頚髄、胸髄、腰髄、仙髄からなりますが、脊髄髄膜瘤は腰髄、仙髄レベルで好発します。
原因が全て解明されているわけではありませんが、妊娠初期の葉酸の不足が二分脊椎・脊髄髄膜瘤の原因となることが分かっています。
二分脊椎との違い
二分脊椎と脊髄髄膜瘤は混合されることが多いです。
脊髄髄膜瘤は開放性二分脊椎とも言われるように、二分脊椎の方が概念が広いです。
二分脊椎の中に脊髄髄膜瘤(開放性二分脊椎)と閉鎖性二分脊椎(潜在性二分脊椎)があり、脊髄の異常が外面に出ているかどうかで分かります。
脊髄髄膜瘤の症状・合併症
水頭症
髄液は脈絡叢というところで産生され、脳や脊髄の周囲に存在します。
脊髄髄膜瘤(開放性二分脊椎)があると髄液の流れが悪くなってしまい、髄液が脳室(脳の中にある髄液の通り道)に過剰に貯留してしまう、水頭症という状態になります。
キアリ奇形
通常、脳は頭蓋骨の中にきちんと治まっていますが、一部が脊髄の方(尾側、下方)に飛び出てしまっている状態をキアリ奇形と呼びます。
脊髄髄膜瘤に合併するものは、キアリ奇形の中でも小脳の一部、延髄、橋、脳室の一部が飛び出ているもので、キアリⅡ奇形と呼ばれます。
歩行障害
脊髄髄膜瘤の患者では、障害された脊髄の高さに応じて下肢の障害が出ます。
障害は筋力低下だけでなく、痙性(突っ張り)や感覚障害(触っている感覚が分からない、足がどこにあるのか分からない)も伴うことが多いです。
膀胱直腸障害
脊髄髄膜瘤の患者では、下部尿路機能障害はほぼ必発と言われ、正常な排尿筋や尿道括約筋の活動は7%にしか見られなかったと報告されています。
神経因性膀胱や尿失禁、繰り返す尿路感染症があります。
不動や腸蠕動の低下により便秘になりやすい一方で、括約筋の活動も低下しているので便失禁もしてしまいます。
脊髄髄膜瘤の治療
妊娠中の葉酸摂取
妊娠前~妊娠中の葉酸の十分な摂取は二分脊椎・脊髄髄膜瘤の頻度を減らします。
葉酸の必要量は通常240μg/日と言われており、妊婦の場合は480μg/日が推奨されています。
野菜や柑橘類、大豆などで葉酸を摂取することができます。
しかし、調理によって失われる葉酸も多いので、十分な摂取を目指すために妊娠時にはサプリメントを追加で摂取することが推奨されています。
脊髄内病変の閉鎖術
脊髄髄膜瘤(開放性二分脊椎症)は、脊髄を直接覆う膜が体表に飛び出している状態です。
ひとたび細菌感染してしまえば髄膜炎や脳炎となり、生命の危機となってしまいます。
それを防止するために生後48時間以内に飛び出している神経を速やかに体内に戻す修復術が行われます。
合併症の治療
水頭症を合併している場合は脊髄液を外に逃がすシャント手術が行われます。
キアリⅡ奇形がある場合は減圧術を行います。
膀胱直腸障害については薬剤調整により自身での排尿ができることをまず目指します。
どうしても自尿が出ない場合は、導尿や尿道カテーテルの留置を行います。
リハビリテーション・再生医療
運動麻痺や歩行障害は永続的になるために、リハビリテーションが重要になります。
動作の目標は、筋力や体力、変形や耐久性、知的機能など、多くの因子を考慮して決められます。
いずれの場合にも患者さんと家族の生活の質(Quality of Life:QOL)が最大限高くなることを目標として行います。
神経は一度障害を受けると回復するのは容易ではありません。
しかし、近年では再生医療による後遺症の軽減が研究されてきています。
脊髄髄膜瘤への再生医療の効果はまだ研究が進んでいませんが、同じ脊髄の障害である脊髄損傷では多くの研究がなされています。
当院では、脊髄損傷の患者様を対象に、ニューロテック®という再生医療を実施しています。
さらに並行してリハビリテーションを行う、神経再生医療×同時リハビリ™により、患者さんがより自分らしく生活するためのサポートを行っています。
今後は脊髄髄膜瘤への再生医療の発展も期待されます。
まとめ
この記事では脊髄髄膜瘤について解説しました。出生してすぐの手術療法が必要で、その後も合併症で様々な治療が行われます。
まずは葉酸摂取で発生の確率を減らすことが重要です。
歩行障害や感覚障害、膀胱直腸障害は後遺症として長い期間継続するので、今後は再生医療にも注目したいです。
Q&A
- 脊髄髄膜瘤の合併症は?
- 脊髄髄膜瘤の合併症には、水頭症、キアリⅡ奇形、歩行障害、感覚障害、膀胱直腸障害などがあります。感覚障害があれば褥瘡(床ずれ)、膀胱直腸障害があれば尿路感染症にもなりやすくなります。
- 脊髄髄膜瘤の予後は?
- 積極的に治療がなされていない時代には10代までの生存率は10%程度と言われていましたが、医学の進歩により学童期以降の長期生存率は70%を超えると言われています。ただし、発達の問題に加え、運動麻痺や膀胱直腸障害などの障害が残ることが多数です。
二分脊椎児に対するリハビリテーションの現況:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/46/11/46_11_711/_pdf
e-ヘルスネット「葉酸とサプリメント ‐神経管閉鎖障害のリスク低減に対する効果」:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-002.html
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