この記事を読んでわかること
・怒りの神経学的メカニズムがわかる
・怒りという感情の存在理由や原因がわかる
・怒りという感情の必要性がわかる
人間の原始的な怒りという情動は、脳や身体にさまざまな影響を与えることが最近の研究によって徐々に明らかにされています。
それらの研究によれば、脳内部の大脳辺縁系などを経て、怒りは身体の運動や生理機能にさまざまな影響を与えていることが判明しています。
この記事では怒りが脳に与える影響やそのメカニズムについて詳しく解説します。
怒りの神経学的メカニズムについて
人が強い怒りを自覚した時、例えば脈拍が早くなったり、呼吸が早くなります。
このような生体反応は誰しも人生の中で経験しているかと思いますが、その実、この事象を言語化して説明できる人はほとんどいないのではないでしょうか?
ここでは、現状解明されている範囲で、怒りの神経メカニズムを解説します。
まず、怒りの元になる情報が視覚から脳にインプットされると、網膜→後頭葉視覚皮質→側頭葉→大脳辺縁系という順に伝達されます。
この際、大脳辺縁系の中で怒りの情報を扱う経路は2つに分かれ、詳細は下記の通りです。
- 扁桃核系:入力された怒り情報の促進
- 海馬-外側中隔系:入力された怒り情報の抑制
怒りの情報は扁桃核系を経由すると、より促進した情報として処理されますが、逆に海馬-外側中隔系を経由すると、怒り情報は抑制されて処理されます。
上記のような過程を経て、視床下部にある腹内側核が刺激されることで、怒り反応、つまりその事象に対する防御や攻撃などの反応が出現することが分かっています。
具体的に、防御や怒りの反応が出るための神経経路としては、前頭前野→大脳基底核(線条体・黒質・淡蒼球)→視床→補足運動野→錐体路の順に刺激が伝達され、最終的に怒りに対する行動が起こるわけです。
例えば、相手を殴ってしまったり、嫌なことから逃げるような反応が起こります。
また、これとは別の神経経路として、防御や怒りの反応によって視床下部→中脳中心灰白質→腹外側延髄吻側部→脊髄→交感神経の順に刺激が伝達され、交感神経系の活性化が誘発されると考えられています。
交感神経系が活性化すれば、脈拍や血圧は上昇し、呼吸は浅くなります。
これらの反応は全て、怒りや恐怖の対象に対する逃走や闘争のために、身体の機能をシフトするための動きです。
つまり、交感神経を活性化させることで、筋肉により血液が多く行くようになり、心機能を一時的に向上させることで激しい運動に備えるわけです。
怒りの心理学的理由とその目的
次に、怒りを心理学的側面から見ていきましょう。
これまで、心理学の領域では「怒り」という感情に対して、進化論的観点・生理的観点・認知的観点・社会文化的観点など、さまざまな角度から研究がなされてきました。
例えば、進化論的観点から怒りを分析すると、生存競争の過程で作り出された脳内における神経回路と捉えられています。
また、生理的観点では、怒り情報のインプットとともに生じる身体の様々な変化、具体的には心拍数や血圧、体温の上昇などの情報が脳に伝わり、その変化から逆算して脳が怒りを情報として処理すると考えられています。
しかし、怒りという感情に対して統一された見解は無いに等しいのが現状です。
つまり、怒りという感情を一概に定義することは容易では無いわけですが、その原因や存在理由はある程度共通した認識があります。
まず、怒りの原因は「自己の価値観との相違」です。
例えば、待ち合わせ相手が5分遅れてきた場合を想定しましょう。
「5分遅れるなら連絡すべき。なぜ事前に連絡できない?」と怒る人もいれば、「あれ、待ち合わせ場所間違えたかな?」と感じる人もいます。
このように、同じ相手や出来事であっても、それに対して怒るかどうかはその人の価値観次第です。
次に、なぜ怒るのか、その目的は「自己防衛」であると考えられます。
動物であれば怒りによって闘争や逃走反応を起こし、自身の身の安全を守ろうとします。
人間の場合、プライドや自尊心などを保つための防衛反応として生じる感情であると考えられます。
怒りに関連する精神的・対人的リスク
怒りという感情は、高血圧や糖尿病などの発症リスクを増加させるのはもちろんのこと、精神的・対人的にもリスクです。
怒り感情はうつ病や不安障害などの精神疾患の発症リスクを増加させることが知られており、また怒りによって周囲とのコミニュケーションエラーが起こる可能性も高まります。
冷静な判断ができずに人間関係が壊れてしまい、無理矢理その感情を我慢すれば精神症状が悪化する可能性もあり、注意が必要です。
自身の健康のためにも、いかにアンガーマネジメントを実践できるかが非常に重要です。
まとめ
今回の記事では、怒りが脳に与える影響について詳しく解説しました。
感情の1つである怒りが脳に与える影響やそのメカニズムは、医学の発展とともに年々明らかにされています。
本記事でも紹介したように、「怒り」という情報は、大脳辺縁系や視床下部にある腹内側核を起点として、複雑な神経回路によって脳内部を駆け巡ります。
その刺激は実際に行動に現れることもあれば、抑制する回路によって押さえ込まれることもあり、人によって反応はさまざまである点も興味深いところです。
怒りによる生体反応は決してマイナスなものではなく、あくまで自分を防衛するために必要な反応です。
そのため、認知症や脳血管障害によってこれらの神経回路が損傷されると、怒りを含めた喜び・悲しみなどの情動をうまくコントロールできなくなります。
一度障害された脳細胞は基本的に再生しないと考えられており、社会生活や日常生活に大きな支障をきたすため注意が必要です。
しかし、最近では「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
ニューロテックメディカルでは、脳脊髄損傷部の治る力を高める治療『リニューロ®』を提供しており、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「再生医療×同時リハビリ™」によって、怒りという感情の正常な処理を目指せます。
よくあるご質問
怒りは脳のどこで感じますか?
怒りは脳の扁桃体や海馬にインプットされ、情報処理されたのちに視床下部にある腹内側核という部位を刺激します。
その後、その刺激は運動を司る錐体路や、交感神経系を刺激することでさまざまな生体反応を誘発します。
怒るとどんなホルモンが出ますか?
怒りによって脳内ではノルアドレナリンやドーパミンなどの神経伝達物質が放出され、交感神経が刺激されることが知られています。
それによって血圧や脈拍の上昇・筋肉への血流増加など、さまざまな身体機能の変化が促されます。
<参照元>
・J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/57/1/57_27/_pdf
・SPRINGER LINK:https://link.springer.com/article/10.1007/s12144-022-03143-6
・J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/advpub/0/advpub_86.14049/_pdf/-char/ja
あわせて読みたい記事:ストレス管理と脳梗塞の再発予防
外部サイトの関連記事:アテローム型脳梗塞が引き起こす高次脳機能障害
コメント