この記事を読んでわかること
・幹細胞治療とは何か
・幹細胞治療で使われる3つの幹細胞
・幹細胞治療の方法
幹細胞治療とは「どんな病気もたちどころに治す万能の治療法です!」
現時点では現実的とは思えない謳い文句ですが、いつの日か真実になるかもしれません。
事実として従来の治療法ではどうしようもなかった疾患が、幹細胞を使用した治療によって解決の糸口がみつかるようになってきています。
幹細胞治療
幹細胞治療とは何か
実は元々、よく知られている幹細胞治療があります。
それは、白血病などの血液疾患に対して行う骨髄移植です。
骨髄には、血液細胞を作り出す能力があります。
骨髄移植を受ける患者さんは、抗がん剤や放射線照射を受けて、悪い血液細胞と正常な血液細胞をまとめてやっつけてしまいます。
その後に骨髄を移植すると、新たに正常な血液細胞を作り出してくれるので、正常な細胞だけが残るということになります。
他人から移植を受ける場合、拒否反応に注意が必要で、これは実は幹細胞治療全般にあてはまる重要な注意点となります。
話を基本的な部分に戻します。
幹細胞治療とは、幹細胞を使用して行う治療のことです。
幹細胞とは、体を構成する成熟した細胞になる前の、役割がまだきまっていない、いろいろなタイプの細胞になる能力を持っている細胞のことです。
病気やけがによって機能が低下した組織や臓器に幹細胞を移植することで、正常な細胞に成長し正常な機能を取り戻すことができる可能性があります。
骨髄には、造血幹細胞という様々な種類の血液細胞になることのできる幹細胞の一種が含まれているため、骨髄移植は幹細胞治療であるといえます。
幹細胞治療は時に「幹細胞再生医療」とも称され、未来の医療と言われるほど世界から期待されている医療分野です。
一方で倫理的な問題や、上に述べた拒否反応などの課題から、まだまだ一般的な医療として普及していないのが現状です。
ここでは、幹細胞治療で使われる3つの幹細胞、幹細胞治療の安全性、幹細胞治療の方法について解説していきます。
幹細胞治療で使われる3つの幹細胞
1.自分と同じ能力をもった細胞に分裂することができる自己複製能
2.さまざまな細胞に変化(成熟)する分化能があります。
その能力をもった幹細胞は、大きく分けてES細胞、iPS細胞、体性幹細胞に分けられます。
ES細胞
受精後5-7日程度経過した胚から取り出した細胞を培養したものがES細胞です。
体を作る全ての細胞に変化することができ、ほぼ無限に増殖することができます。
しかし自分自身のES細胞を作り出すことは不可能なので(女性の方でも受精には他人の精子が必要)、移植時の拒否反応が問題となります。
また、受精卵を破壊して取り出すことになりますので、倫理的問題を常に含んでいます。
iPS細胞
皮膚など体にある細胞に対してリプログラミング因子というものを導入する処置をすると、自己複製能、分化能をもった細胞に若返ります。
そうして人工的に作られた幹細胞を、京都大学の山中教授はiPS細胞と名付けました。
ES細胞のような倫理的問題はなく、自分の細胞であるため拒否反応の心配もありません。今後の再生医療発展のため非常に注目されています。
意図しない細胞になってしまうリスクや、がん化するリスクがあるためそれを克服する研究が日々行われています。
体性幹細胞
大人の体にも、各組織に幹細胞が存在します。それらは各組織で細胞を新たに供給する役割を担っています。
赤血球、白血球、血小板になることができる造血幹細胞は、体性幹細胞の一つです。
ただし造血幹細胞は、例えば軟骨や神経、肝臓などの細胞になることはできません。
ES細胞やiPS細胞と比較すると分化する能力が限定的であるといえます。
しかし逆にいえば、予想しないような細胞になってしまったりがん化したりするリスクが低く、また自分の細胞であることから拒否反応の心配がない、さらには体から取り出すことが比較的容易にできるため、実用性の高い細胞であるといえます。
中でも「間葉系幹細胞」は様々な細胞に分化することができる細胞で、骨髄や脂肪から取り出すことができるため急速に研究が進み、実用化が始まっています。
幹細胞治療の安全性
幹細胞治療は、新しい医療であることから、安全性を確保しつつ迅速に提供を行うために法整備が進んでいます。
再生医療を行う医療機関、細胞に関する加工を行う機関は全て事前手続きが必要であり、手続きをせずに行った場合は法律違反となり罰則が適用される厳しいものとなっています。
その目的は規制を行うことで発展の歩みを緩めるということではなく、安全性を確保することでより強力に幹細胞・再生医療を推進していくためのものとなっています。
ここではその中心となる3つの法律に関して解説します。
再生医療推進法
その名の通り、再生医療を推進するための法律です。
国家の基本理念として、倫理的な問題を考慮しつつ、安全な研究開発や治療の普及実現を目指すということが述べられています。
そのため研究開発や治療普及のための環境整備を行うことを国、医師、研究者、事業者の責務として定めています。
また再生医療の産業化を視野に入れて、再生医療に用いる細胞・組織の培養や加工を医療機関ではない、民間の事業者に委託できることを認めています。
医薬品医療機器等法
再生医療で使用する道具について規定する法律です。
再生医療に使用する道具は従来の規定では対応しきれない部分があるため、その特性を踏まえた新たな承認・特許制度を新設することで、より迅速・安全に実用化を目指すことを目的として作られました。
再生医療に使用する道具の製造販売には、厚生労働大臣の承認が必要で、治験データに基づく有効性、安全性に関する審査を受ける必要があります。
再生医療安全確保法
再生医療は実施したいと思ったどの施設でもできる訳ではありません。
この法律では再生医療の安全性を確保するため、実施できる機関や施設についての基準を定めています。
使用する細胞等の種類によって、その基準は異なります。
人の生命や健康に与える影響が大きい物から順に
第1種:iPS細胞、ES細胞、他人の間葉系幹細胞
第2種:自分の間葉系幹細胞
第3種:体細胞加工物
となっています。
実用化が広まりつつある、自分の間葉系幹細胞を使用する第2種でも、医療機関での提出計画の作成→特定認定再生医療等委員会での審査→厚生労働大臣へ計画を提出→提供開始、というステップを経る必要があります。
第1種ではより規定が厳しくなります。
また民間業者を含めて細胞の培養や加工を行うことのできる施設についても、整備されたクリーンルームが必要であるなど、構造設備に関する基準が定められています。
幹細胞治療は国家として推進に取り組むべき医療分野であるからこそ、このように法律によって厳重に管理されています。
正式に認可を受けている施設であれば、安心して治療を受けることができますね。
幹細胞治療の方法
間葉系幹細胞の採取部位は骨髄、もしくは脂肪とする方法が一般的です。
骨髄の場合、腸骨(骨盤を形作る大きな骨)に専用の針を刺し骨髄液を採取します。
局所麻酔、もしくは全身麻酔により痛みがないように行います。厳重に清潔管理を行って採取します。
脂肪の場合、主に腹部の皮下脂肪から採取します。
局所麻酔を行い吸引や小切開により脂肪を5〜10g程度採取します。
採取した骨髄液や脂肪は、施設内や施設外の細胞加工施設に送られ細胞の培養が行われます。
4〜6週間程度の培養を行い、得られた細胞に幹細胞がしっかり含まれていることを確認します。
このようにして採取、培養して増えた幹細胞をいよいよ体に戻します。戻す方法には点滴、直接投与があります。
幹細胞点滴
点滴は、腕などの静脈から血管を通じて治療する部位に幹細胞を届ける方法です。
安全性・実用性の高い方法です。
脊髄損傷後の麻痺、脳梗塞後の麻痺、アトピー性皮膚炎、動脈硬化、間質性肺炎などこれまで治療が難しいと考えられてきた疾患に対して行われるようになってきています。
アンチエイジング目的に行う場合もあります。
点滴は施設により単回、または複数回行われます。
点滴自体は特に体に負担がかかるものではありませんが、実施中は注意して体調をチェックします。
点滴を行ったあとは、治療効果について検診を行い確認していきます。
直接投与
直接投与とは、治療する部位に直接移植する方法で、注射や手術で行います。
治療したい部位に直接移植するので、確実性では勝りますが、それに伴う患者さんの負担が問題となります。
注射では、痛めた膝・肩・股関節などの関節内に針を刺して注入する、腱の内部や周囲に注入する、といった方法が行われています。
また美容目的でシワやたるみが気になる部分、乳房などに注入されることもあります。
手術による方法では、脳外科や整形外科領域で痛めた神経に直接注入するなどの方法が研究されています。
以上、幹細胞治療について解説しました。
幹細胞治療は新しい治療であり、今後大きな発展が望める医療分野です。
治療を受ける際には正しい理解が重要となります。
しっかりしたカウンセリングを受けて、治療に臨むようにしましょう。
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