この記事を読んでわかること
・中心性脊髄損傷に対する治療とは
・中心性脊髄損傷の発症早期の管理
・中心性脊髄損傷の再生治療
中心性脊髄損傷には、頚椎を保護する初期の管理、急性期の薬物療法、またリハビリなどによる保存的治療が主に行われます。
さらに頚椎の骨折などを伴う場合は、急性期に行う外科治療があります。
まだ薬剤の選択や外科手術のタイミングに確立された医学的根拠が十分ではないところもありますが、再生医療の出現など将来に期待が持てます。
中心性脊髄損傷の急性期治療
まず中心性脊髄損傷の急性期治療についてご説明します。
発症早期の管理
中心性脊髄損傷の管理は、病院の救急室に搬入されたとき、さらにもっと言えば外傷が発生した現場に最初に救急隊員たちが到着したときから始まっています。
救急隊員や救急医たちは、まず気道、呼吸、循環、脳機能(ABCD)の評価を行います。
脳機能の評価は、意識レベルの評価、瞳孔の対光反射の確認が含まれます。
次に、患者さんの状態に合わせた重点的な評価を行います。
その中には、脊椎に痛みが生じていないか、上肢と下肢の運動機能や感覚の評価、失禁の有無などが含まれます。
その他にも、可能な限り外傷の発生状況の確認、患者さんのこれまでの病気の有無について情報収集し、首の痛みの訴えがあれば、より慎重に対応します。
なお中心性脊髄損傷が疑われる患者さんでは、しっかりと評価が終了するまでは、頚椎カラーを用いて首の動きを制限することが重要です。
不用意に首を動かしてしまうと、神経損傷が悪化することがあるからです。
なお、頚椎カラーを外すためには、X線やCTスキャン、場合によってはMRIを使った画像検査による評価を必要とします。
また外傷は頚部だけなく、頭部や胸腹部にもおよぶことが一般的ですので、救命と生命維持を優先して全身の管理と治療がすすめられます。
発症早期の内科的治療
中心性脊髄損傷直後には、二次的な損傷を減らすために、脊髄の神経繊維への血流を最適化することを意識する必要があります。
そのためには、まず適切な血圧管理が大切です。
一般的には受傷後1週間程度は、平均血圧が85~90mmHgになることを目指し、損傷を受けた神経への血流が低下することを防ぎます。
また受傷後早期からステロイドを使用することがあります。
受傷によって生じる炎症や浮腫、またそれらによる組織への永続的な損傷を防ぐことが目的です。
ただし同じステロイドでも、どのタイプのステロイド薬をどの程度投与するのが適切か、長年議論されています。
現在のところ、受傷してから8時間以内にメチルプレドニゾロンの静脈内投与を開始することで、神経学的改善効果が得られると考えられています
ただし同時に有害事象のリスクも増加する可能性もあるので、慎重な対応が望まれます。
発症早期の外科的治療
現時点では、中心性脊髄損傷への手術アプローチに関する決まったガイドラインはなく、転帰を最適化し、合併症を減少させる最も適切な介入方針の決定は、外科医に委ねられています。
一般的に、脊椎の骨折または脱臼を認める患者さんは、外傷の程度を最小化し、さらに脊椎の安定化を図る必要があります。
しかし、脊椎の不安定性のない場合、中心性脊髄損傷の保存的管理と外科的管理の判断は、まだまだ議論されているところです。
なお、2019年には中心性脊髄損傷の管理に関して行われたあらゆる研究を網羅的に調べた調査がなされています。
この結果を受けて、脊髄損傷に関する研究を行う世界中の研究者グループが提言を発表しています。
彼らの提言によると、頚部を過伸展したことによる急性外傷性中心性脊髄損傷のうち、頚椎の骨折、脱臼、椎間板ヘルニア、また脊椎の不安定性を伴う場合、受傷後24時間以内の早期に脊髄減圧術を行うことで予後が改善することが明示されています。
また頚部の脊柱管狭窄症を認める場合は、頚椎の骨折や脱臼を認めなくても、発症早期から外科的加入をすることや保存的管理をまず行った後に外科的介入をすることで、予後がどのように変化するか、手術時期に対する明確な答えが出るまでは、外科的介入時期の判断は外科医に任せるべきだとしています。
中心性脊髄損傷のリハビリ
保存的管理には、中心性脊髄症候群の後遺症に対する標準的な医学的ケアに加えて、理学療法および作業療法が含まれます。
若い人に発生した中心性脊髄損傷では、比較的予後がよいこともあり、積極的にリハビリに取り組むことが有効です。
特に上肢の症状の方が強く、また長期に残りますので、日常生活を送ることができるようになることを目的に、作業療法に取り組むとよいでしょう。
中心性脊髄損傷の再生治療
中心性脊髄損傷も再生医療の対象となることがあります。
iPS細胞から作成した神経系の幹細胞を利用した研究が進められていますし、自己骨髄由来の間葉系幹細胞を用いた再生医療は、すでに厚生労働省から認可を受けて治療として実施されているものもあります。
治療にあたっては、適応される基準があるため全ての中心性脊髄損傷の患者さんに使用できるものではありませんが、今後の発展に期待が持てます。
まとめ
中心性脊髄損傷の治療について、ご説明をしました。
まだ有効性が確立されていない治療もありますが、徐々に進歩している分野です。
将来全ての中心性脊髄損傷の患者さんの予後が大きく改善されるようになることを期待したいです。
よくあるご質問
中心性脊髄損傷の年齢は?
中心性脊髄障害の好発年齢は、50歳代と言われています。
交通事故やスポーツ外傷が原因となることが多く、元々脊椎に変性や脊柱管狭窄がある人で発症しやすいため、若年者よりも中高年に多い病気と言われています。
中心性脊髄損傷の症状は?
脊髄の中心部から障害されるため、損傷部位に応じた症状が出現します。
主な特徴として「下肢よりも上肢に強い麻痺」「急激な症状の進行」「多彩な感覚障害」「膀胱直腸障害」「麻痺の回復は下肢から上肢へ」などが挙げられます。
また、中心性脊髄損傷は比較的予後良好な疾患と言われています。
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