この記事を読んでわかること
・脊髄損傷の種類とその重症度
・手術を選択するべき症状と状況
・手術のタイミングと結果への影響
脊髄損傷によって神経が損傷すると、麻痺やしびれなどの後遺症や呼吸機能の障害などが生じるため、早期の対策が必要です。
一方で、急性期に手術することが決して最良の選択肢ではないという意見もあり、議論が長年続いています。
そこでこの記事では、脊髄損傷はどのタイミングで手術をするのが良いのかについて解説します。
脊髄損傷の種類とその重症度
脊髄とは脳と末梢神経をつなぐ神経細胞の集合体であり、脳からの運動の指令を身体に伝達し、身体からの感覚の情報を脳に伝達する架け橋のような役割を担います。
脊髄は靭帯や筋肉・椎間板・椎骨などによって形成される脊柱管に内包されており、普段は外部の衝撃から守られています。
しかし、交通事故や転落・転倒などの理由で脊髄を損傷すると、運動や感覚の刺激伝達が障害され、麻痺やしびれなどの後遺症を残します。
脊髄損傷はその障害の程度によって大きく2つに分類されます。
- 完全損傷:損傷部位以下の運動、感覚機能が完全に消失
- 不完全損傷:脊髄の一部が損傷し、脊髄損傷部位以下のなんらかの運動もしくは感覚機能が残存している状態
後者の不完全損傷は、脊髄を断面で見たときに障害された部分によっていくつかの疾患に分かれます。
例えば、中心部のみ障害された場合は中心性脊髄損傷、左右どちらか半分が障害された場合はブラウンセカール症候群などと呼ばれます。
また、運動障害や感覚障害の程度によって重症度が分類され、代表的な分類としてFrankel分類があります。
- A(complete):障害レベル以下の運動、感覚の完全麻痺
- B(sensory only):障害レベル以下に感覚はある程度は残存しているが、運動は完全麻痺
- C(motor useless):障害レベル以下に運動機能が残存しているが、実用的ではない
- D(motor usefull):障害レベル以下に実用的な筋力が残っている
- E(recovery):神経学的脱落なし。異常反射はあってもよい
手術による機能回復の評価などにおいてもFrankel分類は有用で、よく用いられる指標です。
手術を選択するべき症状と状況
では、脊髄損傷に対する手術療法はどのような症状・状況で行うべきなのでしょうか?
そもそも、脊髄損傷に対する手術療法の意義は、大きく3つあります。
- 脊髄損傷の原因となる圧迫因子の除去
- 脊髄の二次損傷の予防
- 不安定な脊椎の安定性の獲得
交通外傷などによって脊椎の脱臼や骨折を伴う場合、脊髄を取り巻く環境は非常に不安定です。
そのため、ちょっとした体位変換で脊椎がズレ、内部を走行する脊髄の損傷が悪化する可能性も高く、二次損傷のリスクが高いです。
一方で脊椎の脱臼や骨折を伴わない場合は、リハビリテーションや保存療法(手術以外の治療)で改善する可能性もあるため、手術を必要としないこともあります。
一般的に、手術を急ぐ場合は受傷早期に症状が悪化するケース・症状の改善が早期に認められないケースなどが挙げられます。
特に、麻痺症状の増悪は脊髄にとって劣悪な環境が残存している状態であり、脊髄の浮腫・炎症性物質の発現によって症状が悪化するため、早急に手術療法が選択されることが多いです。
しかし、急性期の脊髄損傷に対する手術療法と保存療法を比較すると、早期手術によって麻痺が改善したという報告もある一方、手術の有無は麻痺の予後と関係ないという報告もあり、手術療法のメリットについてコンセンサスは得られていません。
手術のタイミングと結果への影響
手術のタイミングが早ければ早いほど予後が改善すると思われがちですが、実はそうでもありません。
日本で行われた「OSCIS study」によれば、脊髄損傷に対する待機手術と早期手術を比較した際に、術後6ヶ月までの麻痺症状の回復スピードは早期手術の方が早かったものの、術後1年における麻痺症状の程度は両者で遜色なかったという結果でした。
これらの結果から、麻痺症状の回復には手術のタイミング以外の要因も多分に関わっており、必ずしも早いタイミングの手術が後遺症の改善に繋がるとは言い切れないことが分かります。
また、条件が整わずに早期の手術を受けられなかったとしても、待機的に手術を行い、術後しっかりとリハビリテーションを行えば十分な機能回復が期待できるケースも多いです。
そのため、最適な手術のタイミングは症状や脊髄損傷の程度、患者の状態によっても異なりますが、さまざまなリスクを冒して緊急手術を行うよりも安全な時間帯や方法で適切な病院で手術することが大切です。
まとめ
今回の記事では、脊髄損傷の手術を受ける最適なタイミングについて解説しました。
交通外傷や転落で脊髄を損傷した場合、損傷の度合いに応じて症状も異なります。
特に、脊椎が脱臼や骨折し、脊髄そのものが損傷を受けている場合は脊柱管の動揺性が強く、体位変換などに伴う脊髄の二次損傷の可能性もあるため注意が必要です。
二次損傷を防ぐためや、神経の圧迫解除目的でしばしば急性期には手術療法が選択されますが、待機手術と比較した場合の予後に与える影響は意見が分かれるところです。
特に、長期的な機能回復においては両者で差を認められないデータもあることから、後遺症と長く付き合っていく必要のある脊髄損傷においては、治療の安全性を重視する必要があります。
そのため、手術のタイミングにこだわるよりも、より安全に手術を行い、入念にリハビリテーションを行える環境作りが重要です。
現状では、強く障害を受けた神経細胞を回復する術はなく、薬物療法による鎮痛やリハビリテーションによる機能回復が行われていますが、近年では再生医療の発達も目覚ましいです。
再生医療によって損傷した脊髄が再生すれば、後遺症が改善する可能性もあり、現在その知見が待たれるところです。
よくあるご質問
脊髄損傷の重症度は?
脊髄損傷の重症度評価には、Frankel分類などのスケールがよく用いられます。運動障害と感覚障害の程度によって5段階に分類され、術後の機能回復の度合いをはかる指標となります。
手術による脊髄損傷のリスク要因は?
脊椎や脊髄の手術においては、固定や除圧のために脊柱管を切り開いてアプローチする必要があります。周囲には脊髄や神経などの重要組織が多数存在するため、わずかな操作ミスで神経を損傷すると、麻痺やしびれなどの重篤な後遺症が残存する可能性もあり、注意が必要です。
<データ参照元>
・一般社団法人 日本脊髄外科学会:http://www.neurospine.jp/original62.html
・Pub Med:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23924165/
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