この記事を読んでわかること
・球脊髄性筋萎縮症とはどういう病気か
・球脊髄性筋萎縮症の原因は何か
・球脊髄性筋萎縮症の治療法にはどのようなものがあるか
球脊髄性筋萎縮症は、成人に発症する難病で、運動神経と筋肉の両方が弱っていく病気です。
主な症状は手足や顔の筋萎縮や筋力低下です。
今回の記事では、球脊髄性筋萎縮症の症状や原因、そして治療法について解説します。
球脊髄性筋萎縮症とは何か?
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は、成人に発生する遺伝性神経変性疾患です。
脳からの指令は、脊髄から末梢神経を通って筋肉へ伝えられ、筋肉が収縮します。
球脊髄性筋萎縮症は、脳や脊髄の運動神経細胞が減少して、顔や手足の筋肉に力が入らなくなり、筋肉の萎縮がみられる疾患です。
男性のみに発症し、女性は通常無症状とされています。
日本においては、その頻度は人口10万人あたり、1〜2人と推定されています。
発症の原因と病態進行
球脊髄性筋萎縮症の原因には遺伝的要因が関係しています。
球脊髄性筋萎縮症の人では、性染色体の一つであるX染色体の上にある、アンドロゲン受容体遺伝子の中のCAG繰り返し配列という部分が異常に延長してしまっています。
この配列は、正常であれば9〜36なのですが、球脊髄性筋萎縮症の患者では全員が38以上に延長しています。
そして、この繰り返しの数が、長いほど、発症年齢が早くなることがわかっています。
すなわち、この異常に伸びたポリグルタミン鎖を有する変異タンパク質が神経細胞内に集積することが、病態の本質であると考えられます。
運動ニューロンと、骨格筋の両方で、この変異したアンドロゲン受容体タンパク質が細胞障害を引き起こすとされています。
症状としては、多くの場合には30〜60歳で発症する四肢や顔面、咽頭の筋力低下の筋萎縮が主なものとなります。
ゆっくりと症状は進み、最初に現れるものは両下肢近位の筋力低下であることが多いとされています。
しかし、特に若年発症の場合には、球麻痺、つまり、延髄にある運動性脳神経の障害の症状が初発症状であることもあります。
顔や首などの筋肉がピクついたり、舌を前に出してもらった時に凹凸変形を伴う下の収縮が特徴的な症状です。
筋力低下を自覚する10から15年ほど前から手指の震えや、痛みを伴う筋肉の痙攣を自覚している例が多く、多くの患者さんでは筋力低下を自覚してから15〜20年ほどで移動に車椅子が必要となり、球麻痺による誤嚥性肺炎を繰り返すようになります。
また、喉の痙攣も起こすことがあり、注意が必要とされています。
また、精巣の萎縮、女性化乳房なども見られます。
血液検査では、クレアチニンキナーゼが高値となることが多く、耐糖能異常、脂質異常症、軽度の肝機能障害、ブルガダ症候群を合併することもあります。
リハビリや治療法の概観
球脊髄性筋萎縮症の治療の中心は、症状の進行をゆっくりにするための薬物療法となります。
リュープロレリン酢酸塩というホルモン製剤は、球脊髄性筋萎縮症の進行抑制の効能があるとして承認されています。
このホルモン製剤は、LH-RHアゴニストといわれており、男性ホルモンのひとつであるテストテロンの産生を抑制します。
また、HAL医療用下肢タイプ(一般的名称:生体信号反応式運動機能改善装置、以下、「医療用HAL®」)というロボットスーツが開発されています。
これは、皮膚表面の生体電位信号を読み取って動く、バイオテクノロジーを駆使した装置です。このHAL医療用下肢タイプは、歩行改善効果が承認されています。
球脊髄性筋萎縮症の症状は筋萎縮や筋力低下であるため、早期に治療を開始することで、筋力低下を回復させられる可能性があります。
リュープロレリン酢酸塩とHALなどによるリハビリの併用効果を検証することも重要です。
近年、球脊髄性筋萎縮症の原因遺伝子に作用する核酸医薬の研究も進められています。遺伝子そのものに働きかける遺伝子治療を可能とする新薬の開発が望まれるところです。
まとめ
球脊髄性筋萎縮症に対しては、現時点では症状の進行をゆっくりにするという治療が主流となり、疾患そのものを治すことは難しいとされています。
現在、遺伝子の異常に対して働きかける薬の開発がすすんでおり、また、幹細胞治療にも期待がもたれています。
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よくあるご質問
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)の初期症状は?
下肢の近位、つまり体幹に近い部位の筋力低下が初期症状であることが多いです。
一方、若くして球脊髄性筋萎縮症を発症した人では、球麻痺症状である顔や首の筋肉のピク付きや、嚥下障害などが現れることもあります。
球脊髄性筋萎縮症の女性の症状は?
球脊髄性筋萎縮症の発症には男性ホルモンの一種であるテストステロンが強く関与しているため、基本的には女性には症状は出ません。一方で、この原因遺伝子を持つ女性保因者にも軽い症状があるという研究もあります。
<参照元>
球脊髄性筋萎縮症と脊髄性筋萎縮症.日内会誌.2022;111:1532-1540.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/8/111_1532/_pdf
001 球脊髄性筋萎縮症_170313:https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/000857628.pdf
球脊髄性筋萎縮症 | みんなの医療ガイド | 兵庫医科大学病院:https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/131
球脊髄性筋萎縮症の早期病態を解明 :女性保因者に着目して発症前の変化に挑む:https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Neu_221027.pdf
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