この記事を読んでわかること
・睡眠薬に伴う副作用がわかる
・PSPと嚥下機能の関係がわかる
・PSP患者における安全な睡眠薬の内服方法がわかる
睡眠薬は不眠症状や睡眠障害に対して即効性のある効果を示す一方、嚥下反射の低下などさまざまな副作用を有します。
特に、嚥下機能が障害されるPSP(進行性核上麻痺)では安易に睡眠薬を内服すると誤嚥するリスクがあるため注意が必要です。
この記事では、 睡眠薬過剰摂取がPSP患者に与えるリスクと対策について詳しく解説します。
睡眠薬過剰摂取による呼吸抑制や意識障害の危険性
近年、医薬品の用法用量を守らずに過剰摂取する、いわゆるOD(Over Dose)が社会問題と化しています。
特に近年急速に増えているのが、市販で購入可能な鎮痛薬や鎮咳薬のODですが、そのほかにも覚醒剤や大麻など違法薬物、さらにはうつ病や不眠症などに対して精神科や心療内科で処方された睡眠薬のODが多いです。
(厚生労働省)
特に睡眠薬は、不眠症状に対して少量内服し、初期は効果が得られやすいですが、内服を継続するうちに徐々に量が増えてしまうことも少なくないため、過剰摂取には注意が必要です。
現在広く処方されている睡眠薬は主にベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系と呼ばれるもので、どちらも脳内のベンゾジアゼピン受容体に作用し、脳内で抑制作用を示すGABAを増強する効果を持ちます。
(J STAGE)
GABAの作用の増強によって、催眠作用や抗不安作用が得られるため、夜間の不眠症状に対して有効な作用を示しますが、一方で呼吸中枢の抑制や筋弛緩作用・一過性の前向性健忘などの副作用もあるため、注意が必要です。
仮に睡眠薬でODした場合、過剰な呼吸抑制によって呼吸そのものが止まってしまったり、筋弛緩作用によって舌根沈下を起こし、気道が狭窄して窒息する可能性もあります。
また、それによって低酸素状態に陥れば脳細胞が障害を受け、意識障害などの神経症状が残ってしまう可能性もあるため、睡眠薬の内服は用法用量を厳守することが肝要です。
PSP患者の嚥下障害と睡眠薬使用のリスク
PSP(Progressive Supranuclear Palsy)とは、日本語で進行性核上麻痺と呼ばれる病気のことで、大脳基底核・脳幹・小脳などの重要な脳の一部が原因不明に変性し、さまざまな神経症状をきたす疾患です。
PSPを発症した患者では、主に下記のような症状が出現します。
(難病情報センター)
- 歩行障害やすくみ足:大脳基底核や小脳の変性によってスムーズな動作が得られなくなる
- 眼球運動障害:脳幹の変性によって下方視が困難となる
- 構音障害・嚥下障害:脳幹の変性によって口腔内の筋肉や舌が麻痺する
- 認知機能低下
上記のように多彩な神経症状をきたしますが、特に嚥下障害は時間の経過とともに症状が悪化していくことが知られており、誤嚥や誤嚥性肺炎のリスクを伴うため注意が必要です。
発症初期には食塊形成不全・口腔内残留などの少量の誤嚥症状ですが、症状が進行すれば喉頭の挙上不全や嚥下反射の低下を認めます。
本来であれば口から食道に流れる食塊ですが、うまく飲み込めずに気管に入ってしまう(これを誤嚥と呼ぶ)と、むせ込んで気管から排出しようとするのが通常の反応です。
しかし、PSPで嚥下反射が低下するとむせこみが起こらず、そのまま食塊が肺に流れ込むことで誤嚥性肺炎に至ります。
また、PSP患者では認知機能の低下によって不眠症状や不穏症状をきたす可能性があり、それに対し睡眠薬を処方されることも少なくありませんが、睡眠薬の副作用で嚥下機能がさらに悪化する可能性があるため、注意が必要です。
万が一、嚥下反射の低下したPSP患者で誤嚥性肺炎を起こした場合、死に至る可能性も高いため、PSP患者に対する安易な睡眠薬の投与は控えるべきです。
医師の指導のもとで行う安全な薬物療法の進め方
PSP患者に関わらず、いかなる人であっても医薬品は医師の指導のもとで安全に内服すべきです。
PSP患者の場合、脳幹部が障害されることで睡眠を司る中枢の機能も障害されるため、夜間の中途覚醒時間の増加とともに、総睡眠時間・レム睡眠時間が著しく減少することが知られています。
そこでつい睡眠薬を使用して入眠したり、中途覚醒を予防される方もいますが、睡眠薬の摂取によって正常な嚥下反応が低下し、さらに誤嚥性肺炎を発症するリスクが高まるため、注意が必要です。
仮に必要性があったとしても、医師の指示・指導に従って内服をするべきです。
また、睡眠障害に対する睡眠薬の投与はPSPの症状の進行そのものを食い止める治療ではないため、あくまで対症療法であることを理解しておきましょう。
PSPそのものに対しては、パーキンソン病治療薬や抗うつ薬が効果を示しますが、その効果はあくまで限定的・一時的であり、また副作用もあるため、やはり医師の指導のもとで安全に治療を進めていく必要があります。
まとめ
今回の記事では、PSP患者の睡眠薬摂取について詳しく解説しました。
PSPは大脳基底核・脳幹・小脳などの重要な脳の一部が原因不明に変性し、さまざまな神経症状をきたす疾患であり、特に脳幹部の変性に伴う睡眠障害は他の神経変性疾患(パーキンソン病など)と比較して、重度であることが知られています。
また、PSP患者は脳幹や大脳基底核の機能が障害されることで嚥下機能も低下しやすく、時間の経過とともに徐々に正常な嚥下機能が失われていきます。
そこで安易に睡眠薬を内服すると、睡眠薬には嚥下反射を低下させる作用があるため、より嚥下機能が低下し、誤嚥のリスクが高まるため注意が必要です。
一度誤嚥性肺炎を発症すれば、重度の低酸素血症や敗血症に陥り死に至る可能性もあるため、PSP患者における睡眠薬の摂取には慎重な判断が必要です。
現状、PSPの症状の唯一の改善策は嚥下訓練などのリハビリテーションですが、それでも神経症状を根治することは不可能です。
一方で、近年ではPSPに伴う重篤な神経症状に対する再生医療の効果が大変注目されています。
また、ニューロテックメディカルでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
「ニューロテック®」では、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療『リニューロ®』を提供しています。
また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、これまで改善の困難であったPSPによる神経症状の改善が期待できます。
よくあるご質問
- 睡眠導入剤の高齢者への副作用は?
- 睡眠導入剤の高齢者への副作用としては、意識障害・呼吸抑制・嚥下機能低下・せん妄・転倒転落・記憶障害・認知機能低下などが挙げられます。
高齢者では特に過鎮静に陥りやすいため、投与量には注意が必要です。 - 睡眠薬は脳に影響しますか?
- 現在、一般的に使用される睡眠薬は脳に影響するものがほとんどです。
広く処方されているベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、脳内で抑制効果を示すGABAの作用を増強することで、鎮静作用や催眠作用を示します。
<参照元>
#1:一般用医薬品の乱用(オーバードーズ)について|厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/index_00010.html
#2:睡眠薬の特徴と注意点|J STAGE:https://www.jstage.jst.go.jp/
#3:進行性核上性麻痺(指定難病5)|難病情報センター:https://www.nanbyou.or.jp/entry/4114
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