この記事を読んでわかること
脊髄損傷によって筋肉にどのような変化(麻痺・筋萎縮・痙縮)が起こるのかがわかる。
筋萎縮や痙縮が起こる具体的なしくみと背景となる体の変化がわかる。
筋肉の変化に対してどのようにリハビリや治療で対応するかがわかる。
脊髄損傷では、神経の通り道が障害されることで筋肉にもさまざまな変化が生じます。
手足が動かしにくくなるだけでなく、時間の経過とともに筋肉が細くなったり、逆にこわばりが強くなったりすることもあります。
この記事では、脊髄損傷後にみられる筋肉の変化について整理します。
麻痺とは何か|筋肉が動かなくなるしくみ

脊髄が損傷すると、脳から筋肉への運動指令が届かなくなり、筋肉を自分の意思で動かしづらくなります。
これが麻痺です。
損傷の程度によって、まったく動かせない完全麻痺と、わずかに動かせる不全麻痺に分けられます。
受傷直後は筋肉の緊張が低下する弛緩性麻痺がみられ、その後の経過で状態が変化していく点も特徴です。
筋萎縮と痙縮|時間とともに起こる筋肉の変化
ここでは、脊髄損傷後の筋萎縮と痙縮(けいしゅく)について解説します。
筋萎縮のしくみ|神経遮断と全身反応による複合的変化
脊髄損傷後の筋萎縮は、「筋肉を使わない」だけでなく複数の要因が重なって進行します。
まず重要なのは、神経から筋肉への信号が途絶える「除神経(denervation)」の状態です。
除神経とは神経から筋肉へ送られる信号、すなわち神経入力が失われた状態を指します。
これにより筋収縮が起こらなくなり、筋肉への負荷が著しく低下することで萎縮が始まります。
さらに、炎症反応や酸化ストレスの増加が筋細胞にダメージを与え、タンパク質の分解が進み筋肉量の減少が加速します。
また、ホルモン分泌の変化(テストステロンやインスリンなど)や代謝異常も関与し、筋肉は脂肪に置き換わりやすくなります。
このように、脊髄損傷後の筋萎縮は「神経遮断」「活動低下」「炎症・代謝変化」が重なって進行する複合的な現象です。
そして、機能回復や全身状態にも大きく影響します。
脊髄損傷後の筋肉の変化についてはさまざまな研究が行われています。
代表的なものの一つに、動物での実験で、骨折などで固定する場合と脊髄損傷後に固定する場合を比較したものがあります。
結果、脊髄損傷に対する固定後には、7〜21日以内に筋肉の断面積・筋肉の重さ(湿重量)・筋力がより大きく減少しました。
これは、神経入力と機械的負荷が脊髄損傷後の骨格筋の質量と強度に複合的な影響を与えることを示しています。
痙縮のしくみ|抑制の低下と反射の過剰な働き
一方で、時間が経つと筋肉が過剰に緊張する痙縮(けいしゅく)が現れます。
これは脳からの抑制が弱まり、脊髄レベルの反射が強くなることで起こります。
脊髄損傷後の痙縮は、単なる筋肉のこわばりではなく、神経の制御バランスが崩れることで生じます。
通常、脳から脊髄へは筋肉の動きを調整する「抑制の信号」が送られていますが、脊髄損傷によってこの抑制が弱まります。
その結果、脊髄レベルの反射が過剰に働き、わずかな刺激でも筋肉が強く収縮する状態になります。
この反射の亢進は、筋肉を伸ばした際に抵抗が強くなる「伸張反射の増強」として現れます。
例えば、関節を動かそうとした際に急に抵抗が強くなったり、意図しない筋収縮が起こったりするのはこのためです。
また、時間の経過とともに神経回路の再編(可塑性:神経回路が変化する性質)が起こり、興奮性の信号が優位になることで慢性的な痙縮が形成されます。
このように、痙縮は「脳からの抑制低下」「脊髄反射の過剰」「神経回路の変化」が重なって生じる現象であり、日常生活動作やリハビリの進行にも大きく影響します。
筋萎縮と痙縮は相反するように見えますが、どちらも脊髄損傷後にみられる代表的な変化です。
リハビリと回復|筋肉の変化にどう対応するか

これらの筋肉の変化に対しては、早期からのリハビリテーションが欠かせません。
受傷直後から適切に治療を始めるすることで、関節拘縮(関節が固まり動きにくくなる状態)や褥瘡(じょくそう:長時間同じ姿勢が続くことでできる皮膚の傷)、呼吸機能低下といった二次的な合併症の予防につながります。
残っている神経機能を活かした運動や反復訓練に加え、電気刺激などを用いて筋肉への刺激を維持することを目指します。
こうした継続的な刺激は筋萎縮の進行を抑えるだけでなく、神経回路の再編(可塑性)を促し、機能回復につながる可能性があります。
また、痙縮が強い場合にはストレッチや姿勢調整に加え、内服薬やボツリヌス療法などを用いて筋緊張をコントロールします。
痙縮は一部で立った姿勢を保つことや循環維持に寄与する側面もあるため、完全に抑えるのではなく、生活に支障のない範囲での調整が重要です。
さらに回復期以降は、日常生活動作(ADL:食事や着替え、トイレ、入浴など日常生活に必要な基本的な動作)の再獲得や社会復帰を見据えた訓練が中心となります。
脊髄損傷のリハビリは急性期から慢性期までの段階的な継続が大切であり、長期的な関わりが生活の質の向上につながります。
まとめ
脊髄損傷では、筋肉は麻痺によって動かなくなるだけでなく、時間の経過とともに筋萎縮や痙縮といった変化が生じます。
これらは、神経から筋肉への信号伝達が障害されることで起こる現象です。
それぞれの変化には異なる仕組みがあり、適切に理解することがリハビリテーションや治療の選択につながります。
早期から治療を始めることと継続的なリハビリにより、残存機能を活かしながら機能回復と生活の質の維持を目指しましょう。
近年では、神経障害の回復を目指す新たな取り組みとして「ニューロテック®」という考え方のもと、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療「リニューロ®」など、再生医療とリハビリテーションを組み合わせたアプローチも注目されています。
よくあるご質問
- 脊髄損傷後の筋肉の変化は元に戻ることがありますか?
- 脊髄損傷後の筋肉の回復の程度は、損傷の範囲やリハビリの内容によって異なります。
不全損傷では機能の改善がみられることもあり、早期からの継続的なリハビリが重要です。
- 筋萎縮と痙縮は同時に起こることがありますか?
- はい。
筋肉が細くなる筋萎縮と、筋肉がこわばる痙縮は同時にみられることがあります。
これらは異なる仕組みで起こるため、それぞれの状態に応じた適切な評価と対応が重要です。
専門的な評価が推奨されます。
<参照元>
(1):Xu X, Talifu Z, Zhang CJ, Gao F, Ke H, Pan YZ, Gong H, Du HY, Yu Y, Jing YL, Du LJ, Li JJ, Yang DG. Mechanism of skeletal muscle atrophy after spinal cord injury: A narrative review. Front Nutr. 2023 Mar 3;10:1099143. :https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10020380/
(2):Nas K, Yazmalar L, Şah V, Aydın A, Öneş K. Rehabilitation of spinal cord injuries. World J Orthop. 2015 Jan 18;6(1):8-16. :https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4303793/
(3):Cabahug P, Pickard C, Edmiston T, Lieberman JA. A Primary Care Provider’s Guide to Spasticity Management in Spinal Cord Injury. Top Spinal Cord Inj Rehabil. 2020 Summer;26(3):157-165.:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7640908/
(4):脊髄損傷のリハビリテーション | KOMPAS – 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト:https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000159/
脊髄損傷 | 一般社団法人日本脊髄外科学会:https://www.nsj-official.jp/general/diseasename/08_damage/sekizui.html













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