この記事を読んでわかること
・発熱とは
・発熱のメカニズム
・脳出血が発症すると発熱することがある理由
体温は、視床下部の体温調節中枢によって一定温度になるようにコントロールされています。
しかし、さまざまな要因によって設定温度が高く設定され発熱が起こります。
脳出血は発熱の要因のひとつです。
脳出血急性期における発熱は、予後不良と相関することが知られています。
生命の危険と関係する脳出血と発熱について解説します。
発熱とは
熱中症や抗精神病薬服用による体温の異常なども、正常の体温よりも高い点では同じですが発熱とはいわず高体温といいます。
高体温は、設定温度は変わらず熱産生と熱放散のバランスが乱れて、熱が体内に溜まってしまい体温が上がってしまうことです。
発熱の原因は、大きく分けると感染性と非感染性のものです。
非感染性のものとして、薬剤や悪性腫瘍、脳血管障害、自己免疫疾患があります。
発熱は生体防御反応のひとつで、体温が高くなると白血球などの免疫細胞が活性化され、病原体や腫瘍の増殖が抑制されることがわかっています。
人間では41℃未満であれば熱そのものによる害はないと考えられているため、有用な防御メカニズムである発熱を解熱する必要はないと考えられています。
しかし、発熱に伴う痛みや炎症のコントロール、体力の消耗の改善などは患者にとって有用となります。
発熱の原因と種類
発熱は、さまざまな原因によって引き起こされます。
細菌やウイルスによる感染症は、最も一般的な発熱の原因です。
これらの病原体が体内に侵入すると、免疫システムが活性化され、発熱反応を引き起こします。
また、自己免疫疾患でも発熱が起こることがあります。
自己免疫疾患では、免疫システムが自分の体を攻撃することで炎症が発生し、その結果として発熱が生じます。
さらに、悪性腫瘍も発熱の原因となる場合があります。
腫瘍が成長する過程で産生される物質が、発熱を引き起こすことがあります。
発熱のメカニズム
ウイルスや細菌などの微生物といった発熱物質が体内に入り、Toll様受容体によって認識されると、IL-1やIL-6といった炎症性サイトカインが放出されます。
これらのサイトカインが脳血管内皮細胞のサイトカイン受容体に作用すると、プロスタグランジン(PG)E2の産生を促すのです。
微生物が産生した毒素などに対する自然免疫受容体も視床下部内皮細胞に存在しており、作用するとPGE2が産生され発熱を引き起こします。
PGE2は、脳組織の中へ拡散して体温調節中枢である視床下部視索前野にあるEP3受容体に作用すると、セットポイントを上昇させます。
セットポイントが上昇すると、運動神経系と交感神経系が活性化されて骨格筋でのふるえ熱産生や褐色脂肪組織における代謝性熱産生が上昇するのです。
また皮膚内の血管の平滑筋が収縮し血管径が小さくなるため、体表面の血流が減少し熱放散が抑制されます。
これらの熱産生の亢進と熱放散の抑制のために体温は上昇します。
解熱剤としては、プロスタグランジン合成酵素の中のシクロオキシゲナーゼ(COX)の働きを阻害することでPGE2の合成を抑制し発熱を抑えるものが多くあります。
発熱時の免疫反応
発熱時には、体内でさまざまな免疫反応が活性化されます。
発熱の際、体はサイトカインという炎症性タンパク質を放出し、これが脳の視床下部に作用して体温を上昇させます。
このプロセスは、プロスタグランジンという物質を介して行われ、体温が高くなることで病原体の増殖を抑制します。
また、発熱により白血球の活動が活発になり、感染と戦う能力が高まります。
発熱は、単に不快な症状ではなく、免疫系が感染症に対抗するために重要な役割を果たしていることを示しています。
脳出血が発症するとなぜ発熱するのか?
大脳基底核、大脳皮質下の脳出血では、発熱が認められることが多いです。
また脳出血急性期に発熱がみられると、予後不良になりやすいことが知られています。
脳出血が発症すると発熱することがある理由をご紹介します。
体温調節中枢が脳出血によって障害されたために起こる発熱
体温の調節は視床下部の体温調節中枢で行われています。
脳幹出血など脳出血の部位によっては、視床下部の体温調節中枢に障害が及び発熱が起こります。
この場合の発熱のメカニズムは、感染による発熱と同様にPGE2が産生されることで発熱が起こると考えられています。
また脳出血の合併症としての発熱が認められる場合もあります。
頭蓋内圧亢進による発熱
脳出血が起こった部位を中心に浮腫が起こり脳が腫れてしまいます。
頭蓋内の容積は一定であるため、脳出血によって脳が腫れてしまうと、その内圧が上昇します。
この状態を頭蓋内圧亢進といいます。
頭蓋内圧亢進によって視床下部の体温調節中枢が刺激されることで、体温が上昇します。
頭蓋内の圧が非常に大きくなると、圧に押されて脳の一部が正常な位置からはみ出してしまい、周囲の脳組織を圧迫するようになってしまうことがあります(脳ヘルニア)。
脳ヘルニアになるとさらに頭蓋内圧亢進が進み障害も大きくなるという悪循環が生じます。
頭蓋内圧亢進が進むと、圧は脳で最も大きい空隙である大後頭孔から逃れようとし、脳幹は下方に圧迫されます。
また小脳扁桃が大後頭孔に陥入を起こしてしまうと、呼吸中枢や循環器中枢など生命維持に重要な中枢神経がある延髄を圧迫し、生命活動に深刻なダメージを与えてしまう可能性があるのです。
頭蓋内圧亢進は予後に大きな影響を引き起こすため、脳浮腫のコントロールは脳出血治療の上で非常に大切なことです。
発熱の利点
発熱には、免疫力を高めるという重要な利点があります。
体温が上がることで、病原体の増殖が抑制され、免疫細胞がより効率的に働くようになります。
さらに、発熱は体内の炎症反応を強化し、感染の拡大を防ぐための防御機構として機能します。
これにより、発熱が単なる不快な症状ではなく、体が感染と戦うために欠かせないプロセスであることがわかります。
脳出血における発熱についてのまとめ
脳出血と発熱の関係や発熱のメカニズムなどをご紹介しました。
脳出血急性期の体温上昇は、予後不良因子のひとつです。
そのため、脳出血発症後の体温は、解熱薬を使って正常の範囲内に維持するようにしましょう。
感染による発熱の疑いがある場合は抗生物質の投与も検討します。
よくあるご質問
脳出血で発熱するのはなぜ?
脳出血が起こると、脳内の血管が破裂して出血が生じて脳内圧力が上昇しますが、これにより脳の熱中枢が刺激され、発熱が引き起こされる可能性があります。
また、脳出血が起こると炎症反応が活性化され、この免疫反応によって、体温が上昇して発熱が引き起こされることがあります。
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