この記事を読んでわかること
・慢性炎症性脱髄性多発神経炎とは
・慢性炎症性脱髄性多発神経炎の原因
・慢性炎症性脱髄性多発神経炎の症状
慢性炎症性脱髄性多発神経炎とは、全身の末梢神経に長期間炎症が引き起こり、麻痺やしびれなど様々な症状を引き起こす病気のことです。
末梢神経の脱髄が原因だと考えられており、進行すると日常生活にも支障が出る病気です。
この記事では、慢性炎症性脱髄性多発神経炎の原因や治療などについて詳しく解説していきます。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎とは
みなさんは、慢性炎症性脱髄性多発神経炎という病気をご存知でしょうか?
令和2年度の医療受給者証保持者数は約5,100人であり、非常に稀な疾患であることが分かります。
また、発症者の性別は男性に若干多いと報告されており、発症年齢は2〜70歳と非常に幅広い年齢で発症する病気です。
とても複雑な病名ですが、それぞれの言葉を分解することで分かりやすくなります。
「慢性」は2ヶ月以上にわたって症状が継続することを指します。
「炎症性」や「脱髄性」は、神経に生じている病態を意味しており、これによって症状が出現していると考えられます。
「多発性神経炎」は、単一の神経ではなく、様々な部位の神経が炎症を引き起こしていることを意味します。
つまり、比較的長期間にわたって複数の神経に脱髄や炎症が引き起こり、様々な症状を引き起こす疾患ということになります。
そもそも神経の病気を考える際には、中枢神経と末梢神経に大別することで分かりやすくなります。
中枢神経とは脳や脊髄のことを指し、末梢神経とは中枢神経から全身に分岐する神経のことを指します。
例えば、腕を曲げようと考えたとき、脳から発生した指令は脊髄を通過して、脊髄から分岐する末梢神経を介して、最終的に上腕二頭筋を収縮させます。
仮に腕が麻痺したとしても、原因が脳や脊髄などの中枢神経にあるのか、末梢神経になるのかは詳しく検査しなければ分かりません。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎は、様々な部位の神経に炎症を引き起こすと言いましたが、中枢神経ではなく末梢神経にのみ炎症を引き起こすという特徴があります。
それに対し、中枢神経に多発する炎症を引き起こす疾患として、多発性硬化症という病気もあります。
また、慢性炎症性脱髄性多発神経炎と同じように末梢神経に多発性の炎症を引き起こす疾患として、ギランバレー症候群という病気もありますが、慢性の経過を辿らない点で慢性炎症性脱髄性多発神経炎とは異なります。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の原因
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の原因はその病名の中に書いてあります。
前述したように、「脱髄」と呼ばれる変化が神経に起こることで症状が出現していると考えられています。
神経細胞には、髄鞘と呼ばれる神経を包む鞘のような構造物が存在し、髄鞘があることで神経細胞が守られています。
しかし、なんらかの原因で自分の髄鞘を体が異物と認識してしまうと、髄鞘を攻撃するための抗体が作り出されてしまいます。
この自分自身で作り出した抗体を自己抗体と言い、自己抗体が末梢神経の髄鞘を攻撃して、髄鞘が脱落することを脱髄と言います。
脱髄によって、普段守られていた神経がむき出しになってしまい、麻痺やしびれの原因となるのです。
なぜ自己抗体が作られてしまうのか、その詳しいメカニズムは未だに解明されていません。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の症状
慢性炎症性脱髄性多発神経炎によって運動神経や感覚神経が障害されるため、麻痺やしびれが主な症状です。
症状が出現する部位は障害される神経によって異なりますが、上肢や下肢の症状が主です。
具体的には、腕が思うように動かない、箸が使いづらい、うまく歩けないなどの症状です。
では、どのような経過・予後を辿るのでしょうか?
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の予後
慢性炎症性脱髄性多発神経炎は、2ヶ月以上長期にわたって症状の改善と再発を繰り返すという特徴があります。
長期的な運動神経の障害は筋肉への刺激低下を招き、四肢の筋肉がやせ細ってしまい(筋萎縮)、移動などの基本的な日常行動に支障をきたす可能性があります。
そのため、治療の主な目的は根治ではなく、「現状維持」です。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の治療
慢性炎症性脱髄性多発神経炎の3つの治療についてご紹介します。
副腎皮質ステロイド
副腎皮質ステロイドには抗炎症作用や免疫を抑える効果があり、自己抗体の産生を予防する効果が期待されています。
3つの治療法の中では最もハードルが低いため、最初に選択されることの多い治療法です。
しかし、ステロイドには糖尿病や胃潰瘍、骨の脆弱化などの副作用もあるため、長期的な使用には注意も必要です。
免疫グロブリン大量静注療法
体外から免疫グロブリンを大量投与することで、体内に発生した自己抗体の働きを抑制する効果が期待できます。
しかし、あくまで輸血製剤であるため、アレルギー反応やなんらかの感染症への感染のリスクがあります。
血液浄化療法
血液から直接自己抗体を取り除いて、綺麗にした血液を再び体内に戻す治療法です。
特殊な装置が必要になるため、実施できる医療機関には限りがあります。
まとめ
今回の記事では慢性炎症性脱髄性多発神経炎の病態や症状、治療法などについて解説させて頂きました。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎は末梢神経における「自己抗体による脱髄」によって、多発性に神経が障害される病気です。
原因がはっきりと解明されているわけではありませんが、なんらかの原因で体内に生じた自己抗体によって髄鞘が破壊されていると考えられています。
一度損傷した神経細胞は基本的に再生しないと考えられているため、症状は緩徐に進行し続け、現状の治療法では根治は難しく、あくまで症状の進行を抑えこむことが治療の目的となっています。
しかし、近年では再生医療の発達に伴い損傷した神経細胞が回復する可能性があります。
再生医療がこのまま発達すれば、慢性炎症性脱髄性多発神経炎によって破壊された髄鞘が再生し、機能が再び元に戻る可能性もあるため、現在その知見が待たれるところです。
よくあるご質問
多発性神経炎の初期症状は?
最も多い初期症状としては、「手足がジンジンする」「温度や振動がわからなくなる」などの四肢のしびれが挙げられます。
その他に、四肢の運動神経も障害されて麻痺が生じることもあります。
慢性炎症の原因は?
慢性的に神経に炎症が生じる原因として、自己抗体を産生する自己免疫性疾患が挙げられます。
また、炎症以外に神経を慢性的に損傷する原因として、糖尿病や飲酒、甲状腺機能低下症、ビタミン不足などが挙げられます。
<参照元>
・兵庫医科大学病院:https://www.hosp.hyo-med.ac.jp/disease_guide/detail/114
・難病情報センター:https://www.nanbyou.or.jp/entry/4089
あわせて読みたい記事:リハビリ病棟へ入院できる期間とその時の状態
外部サイトの関連記事:変形性頚椎症の症状と治療法
コメント