この記事を読んでわかること
・脊髄小脳変性症とは
・脊髄小脳変性症のリハビリテーション
・医療費助成について
脊髄小脳変性症は神経難病の一つで、その名の通り脊髄と小脳の神経が徐々に障害される疾患群です。
運動を上手に行うことができなかったり、歩行がふらついたりという症状があります。
根治的な治療はまだ確立されておらず、リハビリテーションが重要な疾患です。
この記事では脊髄小脳変性症のリハビリテーションについて解説します。
脊髄小脳変性症とは
脊髄小脳変性症は小脳と脊髄を中心に神経が障害を受け、症状が進行していく疾患です。
脳腫瘍や脳血管障害などの明らかな原因がないことが特徴です。
また、脊髄小脳変性症は一つの病気ではなく症状や年齢、遺伝子変異などにより、細かく分けられます。
症状
主な症状は小脳失調です。
具体的には起立時や歩行時にふらつく、手を使った動作をしようとしても大きく震えてしまう、なめらかに動かすことができない、呂律が回りにくい、飲み込みづらいなどがあります。
これらがゆっくりと進行することが特徴です。
種類によってはパーキンソン病と同じような症状(小刻みに歩くなど)や、足のつっぱりが出るなどの症状もあります。
治療
確立された根治治療はなく、対症療法(困っている症状を和らげる治療)とリハビリテーションが重要となります。
また、近年では再生医療が注目されています。
脊髄小脳変性症の患者に間葉系幹細胞を投与した研究がいくつか行われており、観察期間内での症状(日常生活動作や歩行速度など)の改善が確認されました。
当院では脳卒中後遺症や脊髄損傷に対して、間葉系幹細胞の投与を行っております。
今後の発展に期待したい分野です。
脊髄小脳変性症のリハビリテーション
リハビリ・リハビリテーションには理学療法(歩く、立つなどの基本的な動作のリハビリ)、作業療法(洗顔、調理、書字などの日常生活での作業のリハビリ)、言語聴覚療法(話す、飲み込むなどのリハビリ)などがあります。
脊髄小脳編成症・多系統萎縮症診療ガイドラインではいずれも「行うことを推奨する」と記載がされています。
理学療法
小脳失調がメインの脊髄小脳変性症では集中的なリハビリと自主練習で改善の報告があります。
集中的なリハビリは1日1-2時間、週3-7日を4週間行うことで、症状や歩行速度の改善がありました。
内容はバランス訓練、平地や不整地の歩行、階段の昇り降りなどです。
自主練習は1回20分、週4-6日を6週間行うことで、歩行が改善したと報告されています。
安定した座面やバランスボールを使ったバランス練習、立ったまま腕を上げたり、体をひねったりなどの動作の練習、つま先立ち、かかと立ちなど自分で行える運動で効果が証明されています。
脊髄小脳変性症の患者は転倒リスクが高いので、転倒予防も効果的です。
杖を使ったり、手すりを設置したり、柔らかい床材を用いたりすることで、転倒そのものを減らす、転倒しても骨折しにくいなどの効果が期待できます。
作業療法
トイレや入浴、着替え、食事の動作を練習することで、自立して生活ができる期間の延長を目指します。
直接的に動作の練習を行うだけでなく、トイレの手すりや便座の高さの調整、持ちやすいスプーンを導入するなどの環境調整も重要です。
介護者の負担を減らすためにも、専門職と介護者の連携も大事になります。
言語聴覚療法
脊髄小脳変性症では話す速度やリズム、抑揚などが障害されることがあり、言語聴覚療法ではこれらの改善に向け練習をします。
水に入れたコップにストローを挿し、息を吐いてブクブクさせることで、安定して息を吐き出す練習になります。
また、舌や唇をゆっくり動かしたり、リズムに合わせて動かしたりすることも、口周りの筋肉を滑らかに動かすのに大事な練習になります。
症状が進んで言葉でのコミュニケーションが取れなくなった場合は、文字盤や絵ボードなどの導入も効果的です。
摂食嚥下療法
飲み込みにくさも脊髄小脳変性症の症状の一つであり、誤嚥性肺炎や窒息などを予防するため、何より食べる楽しさを継続するためにリハビリを行う必要があります。
まずは安定した姿勢で、扱いやすい食器を用いることが重要です。
嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査を行うと、飲み込みがどのように障害されているのかわかります。
その検査や飲み込みの観察を行ったあとには、首を曲げて飲み込む、数回に1回空嚥下を行うなどの食事動作の一工夫で安全に嚥下ができる場合があります。
水にとろみをつける、食べ物をポタージュ状にするといった食べるものへの工夫も必要です。
禁忌
脊髄小脳変性症そのものでリハビリテーションが禁忌になることは多くありません。
ただし、自律神経障害による起立性低血圧(立ちくらみ)や歩行練習、バランス練習での転倒、摂食嚥下療法での窒息には十分に注意を払う必要があります。
利用できるサービス
脊髄小脳変性症は指定難病に含まれており、公的な医療費助成の対象となります。
また、障害者総合支援法の改定により、難病患者は身体障害者手帳を持たなくても障害福祉サービスを受けられるようになりました。40歳以上であれば介護保険の利用も可能となっています。
まとめ
今回の記事では脊髄小脳変性症のリハビリテーションについて解説しました。患者さんが生活するためにはリハビリテーション、専門職の連携、各種制度の利用が重要です。
また、再生医療について期待が大きい分野であり、今後の研究が期待されます。
よくあるご質問
脊髄小脳変性症の進行は?
脊髄小脳変性症は、その名の通り脊髄や小脳が不可逆的に変性する疾患であり、病型ごとに進行の度合いも異なります。
一般的には10〜15年の長い時間をかけてゆっくり変性が進行し、発症から20年ほどで車椅子や寝たきりになる方が多いです。
脊髄小脳変性症の生存率は?
脊髄小脳変性症は非常に長期間の経過をたどる疾患であり、発症年齢が高齢の場合は生存率にあまり影響を与えません。
症状が重い場合は、筋力低下に伴う誤嚥性肺炎や窒息で死亡するケースもあります。
<参照元>
脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン 2018
https://www.neurology-jp.org/guidelinem/sd_mst/sd_mst_2018.pdf
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