この記事を読んでわかること
・うまく飲み込めない嚥下障害とは
・脳梗塞による嚥下障害がおこるメカニズム
・脳梗塞による嚥下障害の治療方法
脳梗塞になる方の多くが嚥下障害を併発してしまいます。
この記事では、なぜ脳梗塞で嚥下障害が起きるのか?治るのか?について、脳と嚥下の関係、脳梗塞により障害が出るメカニズムとその治療方法について説明しています。
うまく飲み込めない嚥下障害とは
嚥下とは
食べ物は口腔内で咀嚼されて飲み込みやすい大きさ・形(食塊)になったのち、舌や頬によって咽頭へ送りこまれます。
このように食塊をロ腔から胃まで運搬する一連の動きを「嚥下」といい、食塊が通過している場所により以下の3つに分類されます。
- 口腔期:口腔から咽頭に移動する時期
- 咽頭期:咽頭から食道入口部を通過する時期
- 食道期:食道内から胃へと送り込まれる時期
嚥下障害とは
嚥下障害とは、食べ物や飲み物を飲み込もうとしても気管に入ってしまったり食道まで流れず喉に残ってしまったりするような嚥下が上手くいかないことが特徴的な障害で、口腔期、咽頭期、食道期のどれか1つの異常でも起こります。
特に咽頭期の異常では、食塊が気管の中に入ってしまう誤嚥性肺炎を惹き起こすことがあり注意が必要です。
一般的な嚥下障害の原因
嚥下障害の原因は、先天的な奇形・腫瘍・筋力の低下・うつ病・手術後の合併症など様々なものがありますが、脳梗塞などの脳へのダメージでも嚥下障害は惹き起こされます。
脳梗塞により嚥下障害がおこるメカニズム
咀嚼した食塊が喉まで送られると、その情報は喉の神経から延髄を介して脳に伝わり、脳から喉の様々な筋肉を統合して働かせる指令がかかり嚥下運動が行われます。
しかし、脳梗塞などにより脳がダメージを負うと脳からの指令が正常に出ないため、食べ物を口に入れても喉の筋肉をスムーズに動かすことができません。
その結果、食塊を上手く飲み込めず苦しくてむせたり、気管に入ったりしてしまうのです。
実際に脳梗塞の急性期では20~50%に嚥下障害が認められることが報告されていることからも、脳梗塞や脳出血などによる脳へのダメージは嚥下障害の最大のリスクとも言えます。
脳梗塞による嚥下障害の治療方法
脳梗塞に由来する嚥下障害の治療方法について、①脳梗塞が発症した初期(急性期)の治療方法と、②脳梗塞による嚥下障害が残ってしまった場合の治療方法の2つのタイミングに分けて説明していきます。
脳梗塞の急性期に起こっていること
脳梗塞とは、何らかの原因で脳の動脈が閉塞し、その先に血液が届かないために脳の細胞が壊死してしまう疾患です。
血液が届いていない部位(虚血部位)では、閉塞から短時間に再び血液が流れ始めれば脳機能の回復が期待されますが,一定時間経ってしまった後に血流が回復した場合は遅れて細胞死に至ります。
その現象は遅発性神経細胞死と呼ばれており、虚血により発生する「フリーラジカル」が神経細胞死を惹き起こす因子の1つであると報告されています。
フリーラジカルとは
通常の原子や分子の構造とは異なり電子がひとつだけ離れた不安定な状態で存在しているものを指します。
ラジカル(過激な・反応性の高い)という言葉通り、脳内でフリーラジカルが発生すると脳内の神経細胞の細胞膜を破壊するなどの細胞毒性を発し脳内に部分的な壊死を起こすことが知られています。
脳梗塞急性期に発生するフリーラジカルへの対策
脳梗塞急性期のフリーラジカルへの対策として、エダラボンという医薬品を利用したフリーラジカル除去が治療方法として承認されています。
エダラボンは細胞毒性の高いフリーラジカルを消去することにより、脳梗塞による遅発性神経細胞死を抑制し血管内皮細胞の保護などの脳保護作用を示すことが明らかになっており、臨床的にも神経症候や機能障害を改善することが報告されています。
そのため、脳梗塞急性期にエダラボンを使用することにより嚥下障害の回復にも効果があると考えられています。
嚥下障害が残った場合はリハビリや口腔ケアが必須
脳梗塞や脳出血など脳卒中を起こした後、嚥下障害により誤嚥性肺炎を起こすリスクが高いと診断された場合は、鼻や血管から栄養を摂りながら嚥下のリハビリテーションが行われます。
嚥下のリハビリは、舌・口・喉など嚥下に必要な器官のトレーニングを先ずは食べ物を使わずに行い、咀嚼と嚥下にかかわる機能を回復させます。
その後、水分やゼリーなど咀嚼が必要ないものから始め、段階的に通常の食事に近づけていきます。
また、歯ブラシで口腔内を清潔にしておくことも、誤嚥性肺炎を発症させないためのリハビリ法と言えます。
当ブログの「脳梗塞による嚥下障害とリハビリテーション」でも詳しく説明していますので、そちらの記事もご覧ください。
当院で行っている再生医療リハビリについて
脳梗塞による嚥下障害の治療方法について説明しましたが、当院では再生医療とリハビリを組み合わせた複合治療法「ニューロテックⓇ」というより積極的な治療を行っています。
骨髄由来の間葉系幹細胞を培養し点滴することで、骨髄由来細胞が神経細胞に分化し損傷部位にとどまり、さらにサイトカインを産生することにより、神経損傷に対する治療効果が認められています。
損傷を受けた脳内の神経細胞を再生医療により回復させながらリハビリを行うことで、脳梗塞による嚥下障害のさらなる改善効果が期待できます。
まとめ
この記事では、脳梗塞による嚥下障害について、嚥下障害のメカニズムから治療方法までご説明しました。
脳梗塞急性期におけるエダラボンの利用や嚥下リハビリテーションに加え、再生医療が患者さんの選択肢の一つとなり希望となれることを願っています。
よくあるご質問
脳梗塞で嚥下困難になるのはなぜ?
脳梗塞によって運動をコントロールする神経が損傷すると、その神経が支配していた筋肉の動きも悪くなり、これを麻痺症状と言います。
嚥下困難に陥る最大の原因は、脳梗塞によって飲み込みに関係する神経が障害され、咽頭部や喉頭部の筋肉に麻痺が出現するからです。
脳梗塞で嚥下障害になる割合はどれくらい?
脳梗塞を始めとする脳血管障害では、嚥下障害になる割合は急性期で約30%とも言われ、誤嚥性肺炎などに注意が必要です。
しかし、急性期を超えて、嚥下リハビリテーションなどを経て、慢性期になっても嚥下障害が残存する割合は全体で約5%程度です。
<参照元>
・嚥下のメカニズムとその障害
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibirin1925/77/12/77_12_2475/_article/-char/ja/
・総説 脳梗塞における病巣部位による嚥下障害の検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/30/3/30_3_407/_article/-char/ja/
・脳卒中と酸化ストレス
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcdp2001/40/1/40_1_50/_article/-char/ja/
・脳保護薬(フリーラジカルスカベンジャー)エダラボン(ラジカット注30mg)の非臨床および臨床プロフィール
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/119/5/119_5_301/_pdf
あわせて読みたい記事:脳梗塞による嚥下障害とリハビリテーション
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