この記事を読んでわかること
・脳卒中とは
・脳卒中になると困ること
・看護の観察項目について
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血からなる脳卒中は、日本全国で110万人を超える患者さんがいて、年間10万人以上が命を落とす疾患です。
急性期治療の進歩により救命率は格段に向上し、後遺症に対する治療が課題となっています。
再生医療が持つ、新たな治療としての可能性に注目が集まっています。
脳卒中とは
脳卒中という言葉の語源は、卒然(=突然)に中る(あたる)という現象にあります。
脳の血管に異常が起きることで、脳の神経が急に障害される疾患を脳卒中といいます。
脳卒中という言葉が一般には広く普及していますが、医学的には脳血管疾患、脳血管障害などと呼ばれます。
脳の血管が詰まってしまうのが脳梗塞、脳の血管が破れてしまうのが脳出血、くも膜下出血で、これらを総称して脳卒中と呼びます。
元気に生活していた方でも急に命を落としてしまったり、一命をとりとめても深刻な後遺症を残してしまったり。
頻度が高い疾患であり、人ごとではありません。
医学が進歩した現代においても、依然として怖い病気の一つです。
改めて脳梗塞とは
脳の血管が詰まってしまいその先に血液が送られなくなるのが脳梗塞です。
血液が送られない時間が長くなると細胞が壊死して梗塞が完成し、神経の障害が発生してしまいます。
動脈硬化や不整脈が原因になりやすく、生活習慣に問題があるケースが少なくありません。
発症頻度が高い疾患で、脳卒中全体のうち4分の3は脳梗塞です。
改めて脳出血とは
脳の血管が破れて、出血してしまうのが脳出血です。
次の紹介するくも膜下出血と区別しやすくするため、脳内出血と呼ばれることもあります。
血液から流れ出た血液が周囲の脳組織を圧迫することで障害を引き起こします。
高血圧が原因になりやすく、元来塩分の多い食事をとっていた日本人にとっては国民病とも言える病気です。
食事の欧米化や高血圧の治療が進歩する中で発症率は減少してきているものの、近年では高齢での発症が目立ち減少傾向が弱まってきています。
改めてくも膜下出血とは
くも膜下出血は脳の表面にある血管から出血してしまう病気です。
脳を覆う髄膜は外側から硬膜、くも膜、軟膜に分けることができ、くも膜と軟膜の間をくも膜下腔と呼び、そこに出血するのがくも膜下出血です。
脳動脈瘤の破裂が主な原因で、くも膜下出血全体の約90%を占めます
一度発症すると社会復帰できるのは全体の20-30%と、予後が悪い疾患です。
脳卒中の患者数、死亡者数
脳卒中は頻度が高い疾患で、多くの患者さんが存在します。
患者さんの総数は厚生労働省が公表しているデータによると、平成8年時点では173万人いましたが、その後減少傾向となり平成29年では111万人となっています。
患者さんの数が減少している主な要因は、さまざまな啓蒙活動や血圧治療の進歩により脳出血の患者さんが減少したことによります。
ただし、平成26年時点の総患者数は117万人であり、平成29年にかけてわずかな減少にとどまっています。
これは、脳卒中が高齢の方に発症するケースが増加していることで、超高齢化社会の中減少傾向が弱まっていると見ることができます。
死亡数で見ると、2020年脳卒中で死亡した方は10万3000人で、がん、心疾患、老衰について4番目に多い数字でした。
内訳は脳梗塞が5万7千人、脳出血が3万2千人、くも膜下出血が1万1千人、その他が3千人となっていました。
2019年に脳卒中で亡くなった方は10万7千人であったため、緩徐に減少傾向であることが分かります。
脳卒中になると困ること
脳卒中は他疾患と比較しても依然として致死率が高い疾患であり、まずは救命が最優先の課題となります。
血栓を溶かす治療やカテーテル治療、手術治療の進歩により救命率は格段に向上しています。
救命率が高まるとともに、次の段階で課題となるのが後遺症です。
脳は体を統率する中枢ですから、障害が起こるとさまざまな症状が発生します。
神経は一度障害されると元通りに回復するのは非常に困難であるため、症状が永続的に続く後遺症となってしまうのです。
代表的な後遺症には次のようなものがあります。
- 意識障害
- 重症の脳卒中である場合、意識が悪くなる意識障害が発症し、治療後も持続してしまう場合があります。
人工呼吸器の装着が必要となり、意思の疎通が難しい場合も少なくありません。 - 運動麻痺
- 手足の細かい動きが不十分になる程度のものから、座ってもいられなくなるような重い症状まで、程度によりさまざま。
体の片側が麻痺する片麻痺が代表的です。 - 感覚麻痺
- しびれを感じたり、触られた感覚が鈍くなったりするなど。
逆に痛みを強く感じたりすることもあります。
じっとしていても痛いなど、常に感じる症状となる場合もあり、非常につらい症状です。 - 高次機能障害
- ことばがうまくでてこない、相手の話が理解できない、記憶障害など。
興奮する、暴力を振るうなど性格が変化して社会生活に障害がでることもあります。
見た目では分かりづらい症状であるため、周囲の理解が得られづらい難しい症状です。 - 嚥下障害、排尿障害
- 飲み込みや排泄の障害。肺炎や感染症の原因となり、それが原因で命を落としてしまうこともあります。
脳卒中は高齢の方に起きやすい疾患であるものの、若い年齢で起こるケースもありその場合長期間後遺症に悩まされることになります。
脳卒中の治療と再生医療の可能性
脳卒中の治療は発症間もない時期に行う急性期治療、機能の回復が見込める回復期に行うリハビリテーションがあります。
急性期治療は目覚ましい進化を遂げており、治療成績が向上しています。
脳梗塞では起こって4.5時間以内であればt-PA治療という方法で、8時間以内であれば血管内治療を受けられる可能性があります。
この限られた時間内に治療を受けられるかどうかが、その後の経過を左右します。
脳出血やくも膜下出血では神経の圧迫を軽減させるための手術や、再出血を防ぐための脳動脈瘤に対するクリッピング手術が行われます。
急性期治療を終えて、2週から1ヶ月程度経過すると容態が落ち着いてくるため、障害に応じた機能訓練が行われます。
機能訓練では、可能な限り機能を取り戻す訓練と同時に、残された機能を使っていかに生活するかという訓練が並行して行われます。
回復期に行われるリハビリテーションはどちらかというと失った機能を代替するという点に主眼がおかれています。
取り戻すことのできる機能には限界があると分かっているためです。
神経そのものを治療する方法はなく、個人の回復力に頼るしかない状況でした。
しかし、脳卒中のような神経障害に対する新たな治療法として、再生医療が注目を集めています。
再生医療とは、病気やけがで機能が失われた臓器や組織を、患者さんの体外で培養した細胞などで修復し機能を取り戻す方法のことです。
脳梗塞に対する再生医療では、神経の元になる細胞を使用して、脳神経の修復再生を試みます。
元になる細胞のことを、幹細胞といいます。
幹細胞は体内に入ると、さまざまな種類の細胞になることができます。
幹細胞にもいくつか種類がありますが、神経の再生医療に使用可能なものとして安全で実用性が高いと考えられているのが、間葉系幹細胞という細胞です。
間葉系幹細胞は、自分の脂肪や骨髄(骨の中)、歯髄(歯の中)などから短時間で取り出すことができます。
最先端の治療であるため、研究段階では一部の大学病院や専門病院のみで受けられる治療でしたが、近年では民間のクリニックでも受けられる施設が増えてきています。
脳卒中の後遺症に悩む患者さんを減らすため、より一層の発展が望まれます。
まとめ
脳卒中という疾患、治療法について解説しました。
医学の進歩は難疾患に対する救命率や寿命の延長という成果をもたらす一方で、健康で元気な寿命をいかに延伸するかという点で課題が残されています。
脳卒中を乗り越えたあとの長い時間をどのように過ごすことができるのか、再生医療の可能性に注目が集まります。
<参照元>
「2020人口動態統計の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei20/index.html
「平成29年患者調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/17/index.html
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