この記事を読んでわかること
・歩行障害の原因となる変形性関節症
・薬物と非薬物の治療法
・再生医療による変形性関節症と歩行障害の治療
変形性関節症とは、なんらかの原因で骨と骨の間の緩衝材である軟骨が変形し、緩衝材としての機能を失うことで発症します。
変形が進行すると、立ち上がりや歩行時に強い痛みを伴い、歩行障害が出現すると日常生活にも大きな支障をきたすため注意が必要です。
そこでこの記事では、変形性関節症による歩行障害について解説します。
歩行障害の原因となる変形性関節症
関節に含まれる軟骨は、骨と骨が直接擦れることを防ぐ緩衝材としての役割を担います。
しかし、加齢に伴う軟骨の消耗・感染・外傷などの要因が長期間加わると関節内の軟骨が破壊され、周囲組織も損傷します。
症状が進行すると、立ち上がりや歩行時など荷重が加わる際に痛みが出現し、歩行障害の原因となるため注意が必要です。
歩行障害の原因となる変形性関節症を2つ紹介します。
- 変形性股関節症:大腿骨と骨盤の間の軟骨が磨り減ることで発症する
- 変形性膝関節症:大腿骨と下腿の骨の間の軟骨が磨り減ることで発症する
変形性関節症が原因の歩行障害の特徴として、疼痛を回避するために患側の脚での立脚時間が短くなる(これを跛行という)ことや下肢長差が出現することが知られています。
中でも、変形性股関節症の場合は、患側の中殿筋の筋力低下が生じ、骨盤が水平を保てずに健側に傾いてしまいます。
そのアンバランスを代償するかのように、上半身の体幹は患側に傾き、これを「デュシャンヌ歩行」と呼びます。
変形がさらに進行すると股関節を伸ばすことができなくなり、骨盤が前傾して可動域が制限されるため、骨盤の回旋運動で代償するような歩行スタイルとなります。
一方で、変形性膝関節症の場合は内側型(いわゆるO脚)と外側型(いわゆるX脚)に分類され、日本人の変形性膝関節症の約9割は内側型です。
内側型の場合、患側の膝関節が外側に出っ張るため、代償するように体幹が患側に傾斜し、股関節が外旋傾向となります。
このように、1箇所の変形性関節症であっても骨盤や上半身の体幹の傾斜に影響を与え、正常な歩行スタイルが失われてしまいます。
薬物と非薬物の治療法
まず、変形性膝関節症の治療の目標は主に3つです。
- 痛みの緩和
- 関節の柔軟性の維持
- 関節の機能と全般的な機能を最善の状態にすること
これらの目標を満たすために、下記のような治療法が実践されます。
- 薬物療法:投薬によって疼痛などの症状を緩和する
- 非薬物療法:手術療法や理学療法によって改善を目指す
目標達成のために行われる治療の中心は理学療法であり、理学療法を基本とした上で、薬物療法や手術療法などのオプションがあります。
変形性関節症に対する薬物療法
薬物療法では関節の形状や構造が変わるわけではないため、あくまで症状の緩和と、それによる日常生活の改善が主な目的となります。
鎮痛剤として、アセトアミノフェン・非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)・オピオイドなどが用いられるのが一般的ですが、そのほかに抗うつ剤や筋弛緩剤なども疼痛緩和のために用いられます。
また、関節内に潤滑油としてヒアルロン酸を注入する方法もありますが、重症患者ではあまり効果を得られず、進行を遅らせることはできません。
変形性関節症に対する手術療法
他の全ての治療法で痛みの軽減や機能回復を得られなかった場合、手術療法が選択されます。
特に歩行障害の原因となりやすい膝関節や股関節の場合、人工関節置換術が選択されることが多く、非常に成績の良い手術です。
とはいえ、人工関節には耐久年度があり、永久に使用可能なわけではないため、特に若年での手術では再手術が必要となることもあります。
骨関節症のためのリハビリテーション
一度変形した関節が元に戻ることはないため、関節への負荷を軽減するためには周辺の筋力を増強・維持することが重要であり、そのための理学療法は変形性関節症に対する治療の土台となります。
また、適切な運動やリハビリによって強くしなやかな関節を維持することができます。
筋力維持はプールなどの水中で行うと関節への負荷が軽減し、安全かつ効果的に実施できます。
一方で、激しい運動はかえって関節に負荷がかかるため、注意が必要です。
また、日常生活をより快適に送るために、痛みを緩和する装具や杖の使用も有効です。
他にも、肥満があると関節に負担がかかるため、減量も有効な理学療法となります。
再生医療による変形性関節症と歩行障害の治療
これまで、変形性関節症に対する治療は理学療法を中心に、薬物療法や手術療法がスタンダードでした。
理学療法や薬物療法では磨り減った軟骨を再生することはできず、手術療法は長期入院や麻酔リスクなどもあるため、メリットもあればデメリットもあります。
一方で、近年では再生医療の分野の発展も目覚ましく、変形性関節症の新たな治療の選択肢として注目されています。
自身の身体から抽出した幹細胞を注入することで磨り減った軟骨の再生を促し、症状の進行を遅らせる効果が期待されます。
痛みが軽減できれば歩行障害が改善する可能性もあり、今非常に注目されている治療法です。
まとめ
今回の記事では、変形性関節症による歩行障害について解説しました。
加齢や外傷・感染などによって軟骨が変形すると、特に、股関節・膝関節では運動の際に関節痛を伴い、歩行障害などの症状が出現します。
初期には理学療法や薬物療法が実践されますが、進行すれば手術療法を行う必要があるため、初期から適切に対策し、症状の進行を遅らせることが重要です。
また、近年では再生医療の発達も目覚ましく、変形の進行を遅らせ、疼痛の緩和が期待される新たな治療法の選択肢として注目されています。
早期から再生医療を取り入れることで、本来であれば手術療法しか選択肢がないような重症患者の数を減らせる可能性もあり、今後更なる知見が待たれるところです。
よくあるご質問
変形性膝関節症の歩行の特徴は?
変形性膝関節症の場合、日本人の多くはO脚となり患側の膝関節が外側に出てしまいます。
代償するために体幹が患側に傾斜し、股関節が外旋傾向となるため、いわゆる「がに股歩き」になります。
変形性関節症の初期症状は?
変形性関節症の初期症状として最も代表的なものは、1箇所の関節における痛みです。
負荷がかかった時だけ生じる深い痛みが出現し、症状が悪化すると関節のこわばりや、動かしにくくなることもあります。
<参照元>
・MSD マニュアル:https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/08-骨、関節、筋肉の病気/関節の病気/変形性関節症
・慶應義塾大学病院:https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000154.html
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