この記事を読んでわかること
・脳梗塞の原因
・脳梗塞の治療法
・t-PA治療の適応
脳梗塞とは、脳を栄養する血管が何らかの原因で詰まってしまうことで脳が損傷される病気のことです。
麻痺やしびれなど様々な後遺症を来す可能性があり、早期から適切な治療を施す必要がありますが、脳梗塞の原因や発症からの時間によって治療法も異なります。
そこでこの記事では、脳梗塞の治療法について詳しく解説していきます。
脳梗塞の原因
脳は多くの機能を有し、睡眠中でも常に機能しているため、非常にエネルギーの消費が激しい臓器の1つです。
常に酸素やグルコースなどの栄養分を消費しなければ活動を維持できません。
しかし、何らかの原因で脳の血管が詰まってしまうと、閉塞した血管が栄養していた部分に対する酸素やグルコースの供給が途絶え、時間経過とともに脳細胞が壊死し始めます。
これを脳梗塞と言います。
一言に脳梗塞といってもその原因によって病態は様々であり、実は治療法も病態によって微妙に異なります。
そこで、まずは脳梗塞を原因別に大きく3つに分けて解説します。
心原性脳梗塞
心原性脳梗塞とは、その名の通り心臓が原因で発症する脳梗塞のことです。
心臓のリズムは基本的に一定ですが、中には不整脈と呼ばれる病気になる方もいます。
特に心房細動と言われる不整脈では心臓の収縮リズムが不規則になってしまいます。
不規則な収縮運動が継続すると、まるで川の流れの遅い部分にゴミが溜まるように、心臓内の流れの悪い部分に血栓ができてしまいます。
そして、形成された血栓が心臓から脳に送り出されてしまうと心原性脳梗塞に至ります。
アテローム血栓性脳梗塞
アテローム性血栓性脳梗塞とは、脳の太い血管が閉塞することで生じる脳梗塞のことです。
アテローム性血栓性脳梗塞の原因は動脈硬化です。
脳の太い血管に動脈硬化が及ぶことで血管内にアテロームというコブができ、そのコブに血液のかたまりである血栓ができて血管が閉塞します。
ラクナ梗塞
ラクナ梗塞とは、脳深部の比較的細い動脈が閉塞することで生じる脳梗塞です。
動脈硬化の影響によって、脳の深部を通る直径100-300μm程度の穿通枝と呼ばれる細い血管の内腔が閉塞することでラクナ梗塞を起こします。
脳梗塞の治療法
脳梗塞の原因や病態がわかったところで、次は治療法について解説します。
脳梗塞の治療法は、発症から経過した時間によって異なります。
発症から4.5時間以内の超急性期
発症から4.5時間以内に治療できれば、閉塞血管を再開通させて梗塞部位の範囲を最小限に留めることが可能であり、神経学的予後が改善される可能性が高いです。
そこで発症から4.5時間以内で、その他の条件を満たす患者さんであれば血栓溶解療法「t-PA」を積極的に検討すべきです。
その一方で、t-PAは非常に強力な薬であり、発症から4.5時間以上経過している場合は危険を伴うため使用が禁止されています。
発症から4.5時間以降の急性期
発症から4.5時間以上経過している場合、t-PA以外の治療法を選択します。
まず、発症後24時間以内であれば、血管内でのカテーテル操作で直接血栓を回収する「血管内治療」を検討します。
さらに、内服治療として血液をサラサラにする抗血小板薬の内服も開始します。
心原性脳梗塞の場合は動脈硬化が原因ではなく、血液の淀みが問題になるため抗血小板薬ではなく抗凝固薬を内服します。
慢性期
慢性期には、血栓の再発を防ぐ目的で抗血小板薬や抗凝固薬の内服を継続するのはもちろんですが、そのほかに動脈硬化の原因である高血圧に対して降圧剤の内服治療を行うことが推奨されています。
また、心原性脳梗塞の場合は心臓のリズムを調節する薬も推奨されています。
また、麻痺やしびれなどの神経症状に対しては、より急性期からリハビリテーションなどの理学療法や作業療法の介入を行った方が神経学的予後は良いとされています。
t-PA治療の適応
では、先ほど紹介したt-PA治療はなぜ発症後4.5時間以内の使用に限定されているのでしょうか?
発症から4.5時間以上経過している場合、t-PAで無理やり血流を再開通させてしまうと、すでに壊死して脆弱になっている組織に血液が一気に再流入することで、今度は逆に脳出血の可能性が高まるからです。
そのほかにも、t-PA治療には下記のような厳しい適応制限があるため、一部ご紹介します。
- 血小板数 10万以下
- ヘパリンやワーファリン投与中
- CT検査で脳出血が否定できない
- 頭蓋内、消化管、尿路などに出血性疾患の既往あり
- 3ヶ月以内に脳梗塞の既往あり
このように、t-PAによって他の部位や脳における出血の可能性が高い患者さんには使用することができません。
さらに、これらの適応を判断するための検査に1時間はかかるため、発症から4.5時間以内の投与となると、発症から少なくとも3時間ほどで病院に到着しておく必要があります。
まとめ
今回の記事では脳梗塞の治療法について解説させて頂きました。
脳梗塞によって脳細胞が損傷すると、障害部位に応じて麻痺やしびれ、構音障害や嚥下障害、失語症、場合によっては意識障害など様々な症状をきたし、日常生活に大きな支障をきたす後遺症を残す可能性もあります。
一度損傷した脳細胞は基本的に再生しないため、早期から適切な治療やリハビリを行う必要があります。
また、近年では再生医療の発達も目覚ましく、再生医療によって損傷した脳細胞が回復すれば、脳梗塞の後遺症を改善させてくれる可能性もあります。
現在その知見が待たれるところです。
よくあるご質問
心原性脳塞栓症の生存率は?
予後に関しての1年生存率が、心原性脳塞栓症は約50%であるが、他方ラクナ梗塞で90%以上、アテローム血栓性脳梗塞も約80%であるため、いかに心原性脳塞栓症は予後の非常に悪い脳梗塞であるかという事がわかります。
アテローム血栓性脳梗塞の症状は?
アテローム血栓性脳梗塞では、脳梗塞が完成してしまうと、手足のしびれ、半身が動かない、うまく喋れないなど様々な症状が出現します。大きな血管の狭窄がゆっくりと進行し詰まってしまうため、脳梗塞が完成する前に一過性に症状が出ては改善する一過性脳虚血発作(TIA)と言われる病態がよく起こります。
<参照元>
・大塚製薬:https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/stroke/treatments-for-cerebral-infarction/
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