この記事を読んでわかること
脊髄損傷がどのような外力で起こるのかがわかる。
交通事故・転倒・スポーツ外傷など主な原因とリスクがわかる。
日常生活でできる脊髄損傷の予防方法と考え方がわかる。
脊髄損傷は、交通事故や転倒、スポーツ中の衝突などによって突然起こる外傷の一つです。
首や背中に強い力が加わることで、脊椎の中を通る神経の束である脊髄が傷つき、運動や感覚に障害が生じます。
一度損傷すると回復に時間がかかることも多く、日常生活への影響も大きいため、原因と予防の理解が重要です。
脊髄損傷はどのように起こるのか|外から加わった強い力による神経障害のしくみ

脊髄は背骨に守られていますが、強い力が加わると脊椎が骨折や脱臼を起こし、その内部の脊髄が圧迫・損傷されます。
脊髄損傷の実際
脊髄損傷の発症は20歳代と60歳代に多くみられ、6割が頚髄、胸髄や腰髄は4割となっています。
胸椎や腰椎の損傷では、損傷した部位より下の機能が障害されるため、主に下半身に麻痺が生じることが一般的です。
一方で、頚椎は可動性が高く外からの強い力の影響を受けやすいため、損傷すると四肢すべてに影響が及ぶ恐れがあります。
このように、どの部位にどのような力が加わるかが、症状の重さを大きく左右します。
脊髄損傷のメカニズム
損傷のパターンには、圧迫、過度な屈曲や伸展、回旋などがあり、それぞれ神経へのダメージの与え方が異なります。
圧迫では、骨折した椎骨や椎間板が脊髄を押しつぶすことで神経伝達が障害されます。
過度な屈曲や伸展では、脊髄が引き伸ばされることで神経線維(神経の通り道)が損傷し、広い範囲に機能障害が生じえます。
回旋では、ねじれる力が加わることで脊髄や血管が損傷し、血流障害を伴うケースもあります。
脊髄損傷が起こった際には、急性期の一次損傷とそれ以降の二次損傷の2つに留意する必要があります。
一次損傷とは、外からの力が加わった瞬間に生じる直接的な神経障害のことです。
骨折した椎骨や椎間板、靱帯などが脊髄を圧迫・断裂することで、神経細胞や神経の信号を伝える線維(軸索)が物理的に破壊されます。
この段階で生じた損傷は不可逆的であり、後から完全に元に戻すことは難しいとされています。
一方、二次損傷は受傷後すぐに始まり、数時間から数日、場合によっては数週間にわたって進行します。
まず、受傷した部位の血流不足(虚血)や炎症反応、浮腫が生じます。
さらに活性酸素の増加や興奮性アミノ酸による神経毒性が連鎖し、周囲の正常な組織にも影響を与えます。
このように、脊髄損傷では「最初の外傷そのもの」だけでなく、その後に続く二次損傷の進行が機能予後に大きく影響します。
そのため、受傷直後から適切に固定し、炎症や血流障害を最小限に抑えることが、障害の拡大を防ぐうえで重要です。
主な原因|日常に潜むリスク
脊髄損傷は特別な状況だけでなく、日常生活の中でも起こり得ます。
ここでは、脊髄損傷の主な原因について詳しくみていきましょう。
交通事故
高エネルギー外傷の代表であり、脊髄損傷の主要な原因です。
頚椎と腰椎が損傷を受けやすい部位です。
急激な衝突や減速により、首や体幹に強い力が加わることで、脊椎の骨折や脱臼を介して脊髄の損傷につながります。
特に自動車事故では、瞬間的な加速と減速による「むち打ち(外傷性頚部症候群)」のような動きが加わり、頚椎への負担が大きくなります。
また、シートベルトやヘルメット未着用は衝撃を直接受ける原因となり、重症化のリスクを高めます。
世界的にも交通事故は脊髄損傷の重要な原因とされており、若年者を中心に発生しやすい点も特徴です。
転倒・転落
高齢者では、軽い転倒でも頚椎損傷を起こすことがあります。
骨粗鬆症によって骨がもろくなっていることや、筋力やバランス能力の低下が背景にあることが多く、わずかな外力でも脊椎にダメージが加わります。
また、段差でつまづいたり浴室で滑って転んだりするなど、日常生活の中で起こる転倒も少なくありません。
一方、若年者では高所からの転落や作業中の事故などが原因となり、強い衝撃によって重篤な脊髄損傷につながる方もいます。
高齢化に伴い、転倒による脊髄損傷は今後さらに増加する可能性が指摘されています。
スポーツ外傷
ラグビーや柔道などのコンタクトスポーツでは、首への衝撃や不自然な姿勢での着地により損傷が起こります。
特に頚部が屈曲した状態で衝突すると、脊椎に強い圧力が加わりやすく、重大な神経障害につながるリスクが生じます。
また、体操やスキー、ダイビングなどでも、着地や入水時の姿勢によっては脊髄に強い負担がかかります。
繰り返しの負荷や無理なプレーもリスクとなるため、技術や体力に応じた安全な取り組みが重要です。
脊髄損傷を防ぐためにできること ― 実践的な予防策

脊髄損傷は完全に防ぐことは難しいものの、日常の工夫によってリスクを下げることは可能です。
事故のリスクを減らす
シートベルトやヘルメットの着用は、衝撃を軽減する基本的な対策です。
また、法定速度を守る、無理な追い越しをしないなど、安全運転を心がけることが交通事故そのものの予防にもつながります。
子どもには年齢や体格に応じたチャイルドシートの使用が重要であり、正しく装着することで外傷の重症化を防ぐことが期待されます。
転倒を防ぐ生活環境
室内の段差を減らす、手すりを設置する、滑りにくい床材を選ぶといった環境整備が有効です。
また、適切な靴を選ぶことや、日常的に歩行や筋力トレーニングを行うことも転倒予防につながります。
特に高齢者では、バランス能力の維持が重要であり、転倒を繰り返さないための対策が必要です。
スポーツ時の安全対策
正しいフォームの習得と無理のないプレーが重要です。
特に首に負担がかかる動作については、指導者のもとで安全な動きを身につけることが求められます。
また、ヘルメットやプロテクターなどの防具を適切に使用し、首への過度な負担を避けるようにしましょう。
体調不良や疲労がある状態での無理な運動は、事故のリスクを高めるため注意が必要です。
まとめ
脊髄損傷は、事故や転倒、スポーツ外傷などによって起こる神経障害です。
脊椎に強い外力が加わることで脊髄が損傷し、運動や感覚に影響を及ぼします。
日常生活の中にもリスクは存在しますが、安全対策や環境整備により、脊髄損傷を防ぐことは可能です。
また、受傷後の適切な対応が重症化の予防につながります。
近年では、神経障害の回復を目指す新たな取り組みとして「ニューロテック®」という考え方のもと、狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療「リニューロ®」など、再生医療とリハビリテーションを組み合わせた治療も進められています。
脊髄を守るためには、「リスクを知ること」と「予防を実践すること」、そして万が一の際には適切な治療につなげることが重要です。
よくあるご質問
- 脊髄損傷はすぐに症状が出るものですか?
- 受傷直後に麻痺やしびれが出ることもありますが、時間が経ってから症状が明らかになる場合もあります。
違和感が軽くても放置せず、早めに診察を受けることが大切です。
- 脊髄損傷のリスクが高い人の特徴はありますか?
- 高齢者では筋力低下や骨密度の低下により転倒リスクが高く、受傷しやすい傾向があります。
また、コンタクトスポーツや高所作業に従事する人も外傷リスクが高いとされています。
<参照元>
(1):脊髄損傷 | 一般社団法人日本脊髄外科学会:https://www.nsj-official.jp/general/diseasename/08_damage/sekizui.html
(2):Alizadeh A, Dyck SM, Karimi-Abdolrezaee S. Traumatic Spinal Cord Injury: An Overview of Pathophysiology, Models and Acute Injury Mechanisms. Front Neurol. 2019 Mar 22;10:282. :https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6439316/
(3):Fernández Londoño LL, Marchesini N, Espejo Ballesteros D, Álzate García L, Gómez Jiménez JA, Ginalis E, Rubiano AM. Epidemiological Review of Spinal Cord Injury due to Road Traffic Accidents in Latin America. Med Princ Pract. 2022;31(1):11-19. :https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8995633/













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