この記事を読んでわかること
・くも膜下出血の主な原因の脳動脈瘤とは
・脳動脈瘤の形成要因とくも膜下出血の関連性
・予防のための脳動脈瘤の早期発見と治療
脳を包む3つの膜の中でも、くも膜と軟膜の間に生じる脳出血をくも膜下出血と呼びます。
くも膜下出血の原因はさまざまですが、ほとんどの場合は脳動脈瘤と呼ばれる動脈のコブが破裂することで生じるため、発症予防のためには動脈瘤の早期発見と適切な治療が求められます。
そこでこの記事では、くも膜下出血と脳動脈瘤について解説します。
くも膜下出血の主な原因の脳動脈瘤とは
くも膜下出血は通常、交通外傷や転倒・転落などの外力によって生じますが、これは外傷性くも膜下出血と呼ばれ、自然発生するくも膜下出血とは区別されています。
自然発生するくも膜下出血の主な原因は脳動脈瘤の破裂であり、その割合はなんと全体の約85%です。
脳は頭蓋骨だけでなく、3つの膜(外側から硬膜・くも膜・軟膜)によって守られており、このうち、くも膜と軟膜の間には脳を栄養する主要な動脈が走行します。
この動脈が先天的・もしくは後天的な理由で一部脆くなり、コブ状に瘤を形成すると動脈瘤と呼ばれ、出血しやすい部位となります。
血圧の変動などに伴い動脈瘤が破裂すると、くも膜と軟膜の間の空間(くも膜下腔)に一気に血液が充満し、正常な脳組織を急速に圧迫するため神経症状の出現も急速です。
急激な頭痛とともに、麻痺やしびれはもちろんのこと、意識障害をきたす原因にもなります。
では、なぜ動脈瘤が形成されてしまうのでしょうか?
脳動脈瘤の形成要因とくも膜下出血の関連性
脳動脈瘤の形成要因は先天性と後天性の2つに分けられます。
先天性脳動脈瘤
生まれつき動脈壁に異常を抱える方の場合、先天性脳動脈瘤を発症しやすく、多くの遺伝的要因によって生じる病態です。
そもそも動脈は内膜・中膜・外膜の3層構造であり、このうち中膜の菲薄化・外膜の炎症などが生じることで非常に脆くなった部分が瘤化すると考えられています。
くも膜下出血の原因のほとんどは先天性脳動脈瘤の破裂であると言われており、非常に注意が必要な病態です。
後天性脳動脈瘤
長期的な高血圧や高脂血症によって動脈硬化が進展し、動脈瘤が後天的に生じることもあります。
高血圧は血管内皮細胞に大きな負担をかけ、一部損傷すると血液内のLDLコレステロールが血管壁内に侵入し、動脈硬化が進展して動脈が硬く脆くなるため、血液がぶつかることで膨らんでいき瘤化するわけです。
先天性・後天性どちらの場合も血管が脆くなっているため、血圧の変動などによって血管に負担がかかると破綻・出血します。
予防のための脳動脈瘤の早期発見と治療
一度破裂すれば約半数が死亡すると言われる脳動脈瘤。
多くが先天的に未破裂脳動脈瘤を発症しているわけですから、発症前に早期発見し適切な治療を行う事が重要です。
近年では特に画像検査の質が向上し、より早期に未破裂脳動脈瘤を発見できるようになりました。
主に実施される検査はMRアンギオグラフィー、CT血管造影、脳血管造影などの検査です。
これらの検査で瘤の部位や大きさを評価し、手術をおこなうことに対するリスクよりもメリットが大きいと判断されれば手術がおこなわれます。
脳卒中治療ガイドライン2021によれば、下記のような場合は破裂リスクが高いとされています。
- 大きさ5〜7mm以上
- 大きさ5mm未満でもなんらかの症状がある場合や、破裂リスクの高い場所にある場合、瘤の形状が不整形などの理由で破裂リスクが高い場合
これらの所見を認めた場合、患者の年齢や既往歴なども含めて治療すべきかどうか慎重に検討されます。
未破裂脳動脈瘤の主な治療を3つ紹介します。
血管内コイル塞栓術
血管内コイル塞栓術では、カテーテルを用いて開頭せずに脳動脈瘤にアプローチする治療法で、最もポピュラーな治療です。
ガイドワイヤーを用いてコイルを動脈瘤に留置し、血液の流れを遅くすることで瘤への負担を軽減し、最終的には血栓化するため破裂リスクを抑える事ができます。
血管内ステント留置術
血管内ステント留置術も血管内コイル塞栓術と同様、カテーテルを用いて開頭せずに脳動脈瘤にアプローチする治療法です。
カテーテルを用いて動脈瘤の開口部にステントを留置し、瘤へ血流が入らないようにします。
開頭クリッピング術
開頭クリッピング術は、頭蓋骨を開けて直視下で脳動脈瘤にアプローチする治療法です。
脳動脈瘤の開口部に小さなクリップをかけて直接遮断するため、血流を途絶することができます。
他の2つの治療と異なり、開頭するため長期的な入院が必要となります。
脳動脈瘤とくも膜下出血の家族性リンクと遺伝について
これまでも脳動脈瘤の形成には家族集積性を認め、なんらかの遺伝的要因が背景にあると考えられてきました。
つまり、なんらかの特定の遺伝子が影響して、血管に変化・変性を及ぼした結果、先天的に脳動脈瘤が形成されていると考えられているわけです。
実際に、2022年に東京女子医科大学が発表した研究結果によると、「NPNT」と「CBY2」という2つの遺伝子の変異が、脳の血管機能障害を引き起こし、脳動脈瘤の原因となることを報告しました。
今後、この遺伝子にアプローチした新たな治療法が開発される可能性もあり、知見が待たれます。
まとめ
今回の記事では、くも膜下出血と脳動脈瘤について解説しました。
くも膜下出血は脳動脈瘤の破裂で発症することが多く、一度発症すると約半数が死亡し、もし助かっても重い後遺症を残す可能性があります。
そのため、脳動脈瘤が破裂する前に早期発見し、適切な治療を選択することが非常に重要です。
また、近年の遺伝子解析技術の向上により、新たな治療法が生み出される可能性もあります。
さらに、近年では再生医療の発達も目覚ましく、損傷した脳細胞の機能が回復する可能性もあります。
くも膜下出血による神経学的後遺症を改善できる可能性があり、こちらも新たな治療の選択肢になる可能性があります。
よくあるご質問
くも膜下出血は遺伝しますか?
くも膜下出血そのものは遺伝しませんが、原因である脳動脈瘤は一部遺伝する可能性があります。
特定の遺伝子が血管の性状を変化させ、動脈瘤の発生に関与している可能性が高く、原因遺伝子の特定が待たれるところです。
くも膜下出血の原因は何ですか?
くも膜下出血の原因は通常、交通外傷や転倒・転落などの外傷性ですが、自然発生する場合はほとんどが脳動脈瘤の破裂が原因です。
稀に、脳動静脈奇形などの血管異常に伴う発症も認めます。
<参照元>
・MSDマニュアル:https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/09-脳、脊髄、末梢神経の病気/脳卒中/くも膜下出血(sah)#:~:text=くも膜下出血は、脳,時間意識を失います%E3%80%82
・脳卒中治療ガイドライン2021:https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2023.pdf
あわせて読みたい記事:脳出血やくも膜下出血と脳梗塞の違いとは
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