この記事を読んでわかること
・脊髄小脳変性症とは
・脊髄小脳変性症の種類と症状
・脊髄小脳変性症の治療とリハビリ
脊髄小脳変性症は神経の難病です。
実際の患者さんが書いた日記を元にドラマ・映画化され、有名人の方が演じています。
薬剤により症状を抑える治療や、リハビリテーションが行われます。
間葉系幹細胞を利用した新規治療の研究が進められています。
脊髄小脳変性症とは?症状の解説
脊髄小脳変性症とは、その名の通り脊髄や小脳が「変性」してしまう病気です。
神経が障害される原因には、腫瘍や血管障害、栄養障害などがあります。
具体的には脳腫瘍や脳梗塞、脳出血などです。
そのようなはっきりした原因がなく、神経が徐々に障害され、症状が進行する状態が「変性」です。
最終的には神経細胞がなくなり、脳が萎縮してしまいます。
アルツハイマー病や、パーキンソン病も神経の変性疾患の一つです。
脊髄小脳変性症では小脳を中心に神経が変性します。
小脳は運動のバランスをとる機能を持っており、それが障害されることで運動や言葉が不自由になります。
発症する年齢や症状、分かっている遺伝子異常、遺伝性などから数多くのタイプに分類され、それらを総称して脊髄小脳変性症と呼びます。
脊髄小脳変性症の患者さんの約30%で遺伝が原因と考えられますが、その他では多くの場合原因が不明です。
国の難病に指定されています。
患者さんの正確な人数は不明ですが、2014年時の特定疾患医療受給者証の交付数からは、4万人以上ということが分かっています。
脊髄小脳変性症に関連するドラマやメディアの影響
「1リットルの涙」
珍しい病気である脊髄小脳変性症ですが、罹患した木藤亜矢さんが書き綴った日記を元にした単行本、「1リットルの涙」として制作された映画、ドラマにより広く世間に認知されることとなりました。
2005年にフジテレビ系列で放送された、沢尻エリカさん主演のドラマとして記憶に残っている方も多いのではないでしょうか?
木藤亜矢さんは、中学3年生の時いつものように通学中、転倒してあごの部分を強打しました。
通常人が転ぶ時には、手が出て顔を守るため、あごを打つことはありません。
精密検査を行い、脊髄小脳変性症という診断がつきました。
志望校に見事合格した木藤さんですが、症状が徐々に進行、2学期には通常学級で学ぶことが難しくなり、その志望校を去ることに。
日記を付け始めたのは、この高校の先生に勧められたのがきっかけだそうです。
闘病生活、気持ちのありようを記したこの日記は、木藤さんの手が動かなくなるまで続けられました。
23歳の時に「1リットルの涙 難病と闘い続ける少女亜矢の日記」が出版。
大きな反響を呼び、2005年には文庫本として出版。
200万部を超えるロングセラーとなりました。
25歳という若さで木藤さんはこの世を去ります。
家族や友人との絆、何よりも木藤さんの思いを描いた映画やドラマは、視聴者の多くの涙を誘いました。
脊髄小脳変性症の主な症状
脊髄小脳変性症には数多くのタイプがあり、症状は様々です。
木藤さんのように、子どものうちに発症し重症化しやすいタイプもあれば、生存期間が健常の人とほとんど変わらないタイプもあります。
症状は、大きく次の3種類に分けられます。
- 小脳性運動失調
- パーキンソニズム
- 自律神経障害
小脳性運動失調
脊髄小脳変性症の代表的な症状で、小脳の機能が障害されることで出現します。
バランスをとることが難しくなるため、立ったときに前後左右に体がふらついてしまいます。
症状が強くなると、座っているときにも同様の症状がでることがあります。
歩行するときには、バランスをとるために足を横に大きく広げて歩こうとします。
歩行器などの使用が必要となることがあります。
言葉の発音が不明瞭になる、音が途切れてしまう、声が唐突に大きくなってしまうなどの構音障害も特徴的な症状の一つです。
パーキンソニズム
脊髄小脳変性症の一つである、多系統萎縮症というタイプで多くみられる症状です。
特に欧米のタイプに多い症状と言われています。
手のふるえやこわばり、緩慢な動き、小刻み歩行などパーキンソン病に似た状態を呈します。
パーキンソン病に対する薬が使用されるものの、その効果は限定的です。
自律神経障害
多系統萎縮症の中でも、日本のタイプに多い症状です。
血圧の変動が大きくなり、立ち上がったときに急な低血圧となり失神してしまうことがあります。
また、排尿を自分でコントロールすることが難しくなり、頻尿や尿失禁、残尿といった症状がみられます。
脊髄小脳変性症の治療法とリハビリの最新情報
脊髄小脳変性症に対する標準治療
脊髄小脳変性症に対する根本的な治療は難しく、それぞれの症状に対する薬剤が治療薬として使用されます。
小脳性運動失調に対しては、タルチレリンやプロチレリンという薬剤が、進行遅延や改善の効果が確認されており、保険適応の薬剤となっています。
パーキンソニズムに対しては、レボドパ製剤(ドパミンを補充する薬)が、自律神経障害による低血圧には、昇圧作用のある薬であるミドドリンやドロキシドパ、排尿障害には抗コリン薬などの薬剤が使用されます。
声帯の動きが悪く呼吸の障害がある場合や、誤嚥性肺炎を繰り返す場合などでは、気管切開が行われる事があります。
脊髄小脳変性症に対する新しい治療
新規治療として、次のような治療について研究が進んでいます。
- 間葉系幹細胞
- 脊髄小脳変性症の患者さんに対して、間葉系幹細胞を静脈投与したところ、症状の改善や進行抑制を認めたと、2017年に台湾から報告されました。
その後日本や韓国、アメリカで治験が計画され、進行中です。 - コエンザイムQ10
- 細胞の一部である、ミトコンドリアの機能を改善するコエンザイムQ10補充による治療が試みられています。
- αシヌクレインに対するワクチン療法
- パーキンソン病の原因とされるαシヌクレインという物質をワクチンで抑制しようという方法です。
脊髄小脳変性症に対するリハビリテーション
脊髄小脳変性症に対する治療として、リハビリテーションは重要な位置を占めています。
筋力維持、バランス能力の維持を目的としたリハビリを行う事で、運動失調の症状が改善し、一定期間効果が持続することが分かっています。
骨が弱くなっているケースも多く、骨折予防のため転倒に十分注意をしながら行うことが重要です。
歩行訓練のためのロボットを装着したリハビリテーションが一部で保険適応となっています。
構音障害に対しては、安定した姿勢をとりゆっくり話すこと、リズムや声の高低を整える方法に関するリハビリテーションが行われています。
嚥下の障害に対しては、扱いやすい食器や補助具の使用、頭部や頚部を前に曲げること、安全な食事形態やとろみ付け、口腔ケア、胃瘻などの経管栄養などが提案されています。
また、脊髄小脳変性症の治療法は進化しており、リハビリテーションに加えて、遺伝子治療や再生医療が期待されています。
特に幹細胞治療は、運動機能改善に有効とされ、研究が進んでいます。
脊髄小脳変性症の余命
脊髄小脳変性症の一種である多系統萎縮症では、個人差はあるものの、発症から3年程度で杖などの歩行補助具が必要となり、5年程度で車いす、10年程度で寝たきり状態となって肺炎等で死亡することが多いと言われています。
他の種類の脊髄小脳変性症では、比較的ゆっくりと進行するため、10年、20年と長期間にわたり症状と付き合いながら生活していく必要があります。
脊髄小脳変性症の一種であるSCA6やSCA31というような病型では、健常の人と生存期間は変わらないとされています。
あわせて読みたい記事:脊髄小脳変性症の予後と寿命
外部サイトの関連記事:小脳性運動失調の特徴とリハビリ
コメント