この記事を読んでわかること
・レカネマブがどのような効果を持つかわかる
・レカネマブの副作用や課題がわかる
・これまでの治療薬とレカネマブの違いがわかる
アルツハイマー型認知症は認知症の中で最も頻度の多い病型であり、多くの患者やその家族を苦しめてきました。
これまで原因に直接アプローチできる治療法は認めませんでしたが、近年「レカネマブ」と呼ばれる新薬の登場によってその注目度が非常に増しています。
そこでこの記事では、レカネマブの効果や副作用・開発背景などについて解説します。
レカネマブの開発背景とエーザイの貢献
全世界で推定5500万人が罹患しているアルツハイマー型認知症は、認知症の中でも最も頻度の高い病型であり、全認知症の60〜70%を占めます。
これほどまでに患者が増加し、今後も増加傾向が推察される原因は、アルツハイマー型認知症の病態がある程度わかっているにもかかわらず、根治する治療薬がないためです。
そもそもアルツハイマー型認知症は、脳細胞に「タウ」や「アミロイドβ」と呼ばれる異常タンパクが蓄積し、脳細胞本来の働きが障害される病気であることが知られています。
特に、記憶に関わる海馬という部位の変性から始まり、進行すれば脳全体に変性が波及し、物忘れや判断力の低下などの症状が出現します。
このような病態に対し、これまで開発され使用されてきた薬は2つです。
- アセチルコリンを増やす薬
- ドネペジル・ガランタミン・リバスチグミン
- グルタミン酸を抑制する薬
- メマンチン
アセチルコリンを増やす薬
まずはじめに開発された治療薬は、アセチルコリンを増やす薬です。
アルツハイマー型認知症では神経細胞が変性して機能が失われていくため、神経伝達物質であるアセチルコリンを増加させることで神経機能を維持します。
アセチルコリンを増加させることで、神経細胞と神経細胞の間での情報伝達が活性化するため、減少する神経細胞の量を情報伝達の質でカバーしよう、という治療法です。
具体的には、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼの機能を阻害することでアセチルコリンの量を増加させており、ドネペジル・ガランタミン・リバスチグミンなどの薬剤が挙げられます。
一方で、この治療はあくまで障害された神経細胞を治す治療ではなく、アセチルコリンの作用を増幅させるだけの治療であるため、根治療法ではありません。
グルタミン酸を抑制する薬
次に開発されたのが、グルタミン酸を抑制する薬です。
グルタミン酸は神経細胞を興奮させる神経伝達物質であるため、グルタミン酸によって神経細胞が異常興奮するとアポトーシス(細胞死)してしまうことがあります。
そうなると、アルツハイマー型認知症の症状がさらに進行するため、グルタミン酸を抑制することで神経細胞を維持するわけです。
具体的には、メマンチンと呼ばれる薬で治療しますが、これもあくまで障害された神経細胞を治す治療ではありません。
レカネマブの開発背景
これらの背景を踏まえ、原因となる異常タンパク「アミロイドβ」に直接アプローチできる治療薬の開発が世界中で行われてきました。
中でも、日本の製薬大手「エーザイ」とアメリカの製薬会社「バイオジェン」が共同で開発した「レカネマブ」は、米国食品医薬品局(FDA)でフル承認を受け、本年8月には日本の厚生労働省の専門家部会でも使用を認めることを了承しました。
これまでの対症療法と異なり、アルツハイマー病の原因物質「アミロイドβ」に直接働きかけ取り除くことができる治療薬が国内で初めて了承されたのです。
今後、エーザイは公的医療保険の適用を求める申請を行う見通しで、早ければ年内にも患者への投薬が始まる可能性があります。
では、どのような効果や作用機序なのでしょうか?
レカネマブの認知症進行遅延とそのメカニズム
現時点で解明されているレカネマブの作用機序は、脳内に蓄積したアミロイドβに選択的に結合し、アミロイドβの持つ神経細胞への毒性や、さらなるアミロイドβの凝集を抑制することです。
これによって、蓄積したアミロイドβの除去やさらなる蓄積を防ぎ、アルツハイマー型認知症の進行を抑制し、認知機能と日常生活機能の低下を遅らせる効果が期待されます。
治験では、18ヶ月時点で投与群がプラセボ群と比較して27%の認知症症状の悪化抑制が示されています。
レカネマブの副作用とリスク
レカネマブにはいくつかの課題も残されています。
- 薬価
- 副作用
レカネマブの日本における薬価は未定ですが、アメリカで承認されている薬価からすれば、日本円換算で推定385万円と高額です。
これを2週間に1回のペースで18ヶ月間投与すると考えると、莫大な医療費がかかることがわかります。
当然個人での負担は困難であり、早期に公的医療保険の適用となることが求められます。
また、副作用として、脳内出血やアレルギー反応(喘息発作やアナフィラキシーショックなど)の報告もあり、注意が必要です。
最も多い合併症としては、アミロイド関連画像異常と呼ばれるMRI所見であり、発症初期は無症状の微小出血や脳浮腫として観察されるものの、進行すると頭痛・錯乱・めまいなどの症状が出現することが知られています。
レカネマブの適応条件と使用ガイドライン
レカネマブは特定の条件を満たした患者にのみ適用されます。
軽度認知障害(MCI)や軽度のアルツハイマー病が対象で、事前にアミロイドPET検査などの診断が必要です。
投与後も定期的な検査で副作用や効果を監視するため、専門施設での管理が必須です。
レカネマブの効果や副作用まとめ
今回の記事では、レカネマブの開発経緯や効果・副作用などについて解説しました。
これまで多くの認知症治療薬が開発されてきましたが、そのどれもが原因物質「アミロイドβ」をターゲットにしたものではなく、あくまで他の神経伝達物質に作用して症状を抑える治療法でした。
しかし、近年の医学の発達に伴い、直接アミロイドβを除去するための治療が開発され、ついに日本でも今回紹介した「レカネマブ」の実用化が見えてきました。
しかし、高額な薬価も含めて今後どのように国内で使用していくのか、まだまだ議論の余地がありそうです。
一方で、近年では再生医療の発達もめざましく、アミロイドβによって損傷した神経細胞そのものが再生すれば、新たな認知症の治療にもなり得ます。
世界中で新たな治療の研究が進んでいるため、再生医療を含め、今後のさらなる知見が待たれるところです。
よくあるご質問
アルツハイマー病のレカネマブの副作用は?
アルツハイマー病に対する治療薬であるレカネマブの代表的な副作用は、アミロイド関連画像異常です。
MRIの所見上で認める脳浮腫や微小出血のことで、発症初期は無症状、進行するとてんかんなど命に関わる重篤な後遺症を招く可能性もあります。
アルツハイマー病の最新治療法は?
アルツハイマー病の最新治療法として、アデュカヌマブやレカネマブ・ドナネマブなどの新薬が挙げられます。
これらの新薬はどれも、アルツハイマー病の原因物質「アミロイドβ」の除去を目的とした治療薬です。
<参照元>
・NHK アルツハイマー病 新薬「レカネマブ」早ければ年内にも使用へ~早期診断と価格が課題~:https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20230824a.html
・エーザイ株式会社 「LEQEMBI®」(レカネマブ)、アルツハイマー病治療薬として、米国FDAよりフル承認を取得
:https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202349.html
・認知症介護情報ネットワーク 認知症治療薬について
:https://www.dcnet.gr.jp/about/medicine.php
・金沢大学 アルツハイマー病の新規治療薬レカネマブの作用機序の一端を解明
:https://nanolsi.kanazawa-u.ac.jp/highlights/26535/
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