この記事を読んでわかること
・現在再生医療はどのような病気に用いられているのか
・再生医療は今後どのように利用されていくことが期待されるか
・再生医療の課題とは
再生医療は、臓器の機能を補い、臓器を再生させることを目指した治療法です。
胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞(MSC)、体性幹細胞などを用います。
今回の記事では、この再生医療が現在どのように用いられているのか、そして今後どのような用途が期待されているのか、またその課題を解説します。
再生医療の現状
再生医療は、他人の臓器そのものを移植するのでは無く、細胞の移植をすることで、臓器の機能を補い、臓器を再生させることを目指した治療法です。
再生医療に用いる細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞(MSC)、体性幹細胞などの様々なものがあります。
そして、再生医療は、細胞や組織の修復・再生を促進する先進的な医療分野です。
そのような再生医療の現状について、まずは解説します。
間葉系幹細胞(MSC)には、骨髄や脂肪組織、羊膜、臍帯組織があります。
このMSCによる幹細胞治療には、抗炎症作用や血管新生、抗酸化作用などの働きがあります。
例えば、最近では米国で、MSCを新型コロナウイルス感染症による急性肺障害での死亡率を改善することが示されています。
また、世界ではES細胞を用いて、以下のような病気に対する治療が行われています。
- 眼球疾患
- 心不全
- 糖尿病
- 脊髄損傷
そして、その治験件数は全世界で200件以上とされています。
また、細胞シートによる人工弁や人工血管の構築や、人工軟骨の作成も進んでいます。
人工軟骨の例を挙げてみましょう。
関節軟骨は血行が無い組織なので、一度損傷を受けると自己修正ができないと言われています。
そこで、軟骨欠損や損傷に再生医療を応用できないかという研究が始まりました。
そして、広島大学の研究で、軟骨細胞をアテロコラーゲンに包埋し、三次元培養する自家培養軟骨移植法が考案されました。
軟骨細胞を単層培養するのではなく、アテロコラーゲンと混合して高さ約2cm の立体に成型し培養する方法です。
この自家培養軟骨移植術は、現在『自家培養軟骨ジャック®』として 2012年7月に製造販売承認を取得し、2013年4月に保険適応され普及が始まっています。
また、日本の大阪大学ではiPS心筋細胞シート移植による心筋再生といった試みもなされています。
再生医療の未来
再生医療の未来はどのようになるのでしょうか。
生体から大量に組織を培養し、細胞シートを用いて三次元的な培養を行い、人工臓器を作り出すということが目指されています。
この、個人の細胞を使用して作製された、オルガノイド(ミニ臓器)が、患者の治療に革新をもたらす可能性があります。
将来的には、再生医療は患者の個別ニーズに合わせた効果的かつ持続可能な治療法を提供することが期待されています。
さて、このミニ臓器は、再生医療に用いるのみでなく、医療における診断や治療に対しても有効性が期待できます。
そして、再生医療の技術に加えて、AI技術やゲノム研究など多分野の融合により、さまざまなことが可能になると考えられています。
再生医療の課題
一方で、再生医療の課題も存在します。再生医療に必要な細胞を大規模に安定生産することがまだできていないため、製造コストが下がらないという理由で、コストの削減がなかなか進まないという課題があります。
また、倫理的・法的な問題、技術の安全性確保なども挙げられます。
また、臨床応用に向けての厳格な審査プロセスや規制も整備していく必要があります。
しかしながら、再生医療は将来的に多くの健康課題に対処できる可能性を秘めていると言えます。
そのためには、品質管理や工程管理などを厳格にしていくことが大切でしょう。
まとめ
今回の記事では、再生医療が現在どのように用いられているのか、今後どのように利用されていくことが期待されているのか、また、再生医療の課題について解説しました。
当院ニューロテックメディカルでは、『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』を、ニューロテック®と定義しました。
そして、脳卒中や脊髄損傷、神経障害の患者さんに対する『狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療』を、リニューロ®と定義しました。
リニューロ®は、同時刺激×神経再生医療、骨髄由来間葉系幹細胞、神経再生リハビリにて『狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療』です。
今回の記事でご紹介したように、骨髄由来間葉系幹細胞は、他由来間葉系幹細胞より神経系幹細胞や血管系幹細胞に分化することが多く報告され、最も研究された歴史が長い間葉系幹細胞です。
こうした幹細胞を、特殊な培養方法により機能強化した幹細胞を治療に使用しています。
脊髄損傷などに対する再生医療にご興味のある方は、ぜひ一度当院までご相談ください。
よくあるご質問
現在可能な再生医療は?
皮膚の損傷である重症なやけどやあざなどの治療に用いられる培養皮膚シート、怪我などで欠損してしまった軟骨を修復するために用いられる培養軟骨、心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患による重症心不全に用いられる培養心筋シート、脊髄損傷に伴う症状の改善薬(ヒト(自己)骨髄由来間葉系幹細胞)などが現在可能な再生医療となっています。
再生医療にはどんな種類がありますか?
再生医療に用いられる細胞には、体性幹細胞、ES細胞(胚性幹細胞)、iPS細胞(人工多能性幹細胞)があります。現在、日本で保険診療の対象となっているのは体性幹細胞由来の皮膚、軟骨、心筋、間葉系幹細胞の4種類です。
<参照元>
再生医療センター | 国立成育医療研究センター:https://www.ncchd.go.jp/scholar/research/section/saibo/
再生医療の現状と展望 第3回再生・細胞医療・遺伝子治療開発協議会 令和3年1月27日:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/saisei_saibou_idensi/dai3/siryou1-1.pdf
再生医療による人工臓器研究の最近の進歩:scaffold freeの心臓・血管組織の構築.人工臓器.2012;41(3):167-171.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsao/41/3/41_168/_pdf/-char/ja
骨・軟骨疾患の再生医療.日大医誌.2016;75(2):70-73.:https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/75/2/75_70/_pdf
自家培養軟骨「ジャック」の使用要件等の基準について 公益社団法人 日本整形外科学会:https://www.joa.or.jp/media/institution/files/jack_reference.pdf
インタビュー特集:医療研究開発の成果を社会に―3種類の細胞の特徴を生かして着実に実用化をめざす 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構:https://www.amed.go.jp/pr/201706ns_04.html
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