この記事を読んでわかること
脊髄損傷に対する再生医療の概要がわかる。
再生医療における自由診療と保険診療の違いがわかる。
脊髄損傷の再生医療を受ける上で基準を満たした病院を探すポイントがわかる。
脊髄損傷は重度の麻痺やしびれなど、その後の生活に大きな支障をきたす神経障害を残す可能性がある病気です。従来のリハビリによる機能維持に加えて、近年では再生医療による新たなアプローチで改善を目指せるケースも増えています。この記事では、脊髄損傷に対する再生医療の概要や基準を満たした病院を探すポイントを解説します。
脊髄損傷に対する再生医療とは
脊髄損傷とはその名の通り、神経細胞の塊である脊髄が何らかの原因で損傷し、運動神経や感覚神経、自律神経(呼吸・血圧・排尿などを調節する神経)などの機能が障害される病気です。
一度損傷した神経細胞の機能は基本的に完全に元には戻らないため、麻痺やしびれ、膀胱直腸障害などの神経学的後遺症を残してしまいます。
これまではリハビリテーションなどによる機能の維持・回復が主な治療法でしたが、近年では新たな治療法として再生医療が普及しつつあります。
脊髄損傷に対する再生医療は主に下記の3つです。
- iPS細胞を用いた治療
- 間葉系幹細胞を用いた治療
- 嗅粘膜移植
iPS細胞を用いた治療
iPS細胞とは人工的に作られた幹細胞のことで、自身の皮膚や血液の細胞にいくつかの遺伝子を導入することで多分化能(さまざまな系統の細胞に変化できる能力)を持たせます。
非常に高い分化能と自己複製能(自身と同じ細胞をコピーして生み出す能力)を持つiPS細胞から作った移植用細胞は、これまで治療困難であった脳や脊髄、心臓などの臓器に分化し、損傷部位の修復や再生を促します。
実際に、慶應大学では亜急性期の脊髄損傷患者4名に対してiPS細胞を用いた治験を実施しており、重篤な有害事象はなく一定の安全性が確認できたと考えられ、有効性についても検討が進められているところです。
一方で、この治療法は全身麻酔下で手術を行い、損傷した脊髄を露出させて直接iPS細胞を投与するため、侵襲が大きいというデメリットもあります。
間葉系幹細胞を用いた治療
間葉系幹細胞とは脂肪や骨髄に存在する幹細胞の一種で、自身の骨や脂肪から採取した間葉系幹細胞を培養・増殖させて損傷した脊髄の再生を目指します。
間葉系幹細胞の投与ルートは主に下記の3つです。
- 点滴による血管内投与
- 脊髄腔内に直接注射投与
- 手術で直視下で投与
この中で有効性や安全性において一定のエビデンスが蓄積されている治療法は、骨髄から採取した間葉系幹細胞を培養して、点滴製剤「ステミラック注」として血管内投与する方法です。
実際に札幌医科大学の医師主導治験では、13例中12例の患者で運動機能の改善が確認され、重篤な副作用は報告されていません。
一方で、ステミラックを保険診療で受けるためには、下記のような厳しい条件を満たす必要があります。
- ASIA機能障害尺度(機能障害の程度をA-Eの5段階に分類しており、Eが正常、Aが最も重症)でA、B、Cの外傷性脊髄損傷患者
- 受傷後31日以内の骨髄液採取
嗅粘膜移植
嗅粘膜には神経細胞への分化能が高い神経幹細胞が豊富に含まれており、嗅粘膜移植とは内視鏡で切除した嗅粘膜を直接脊髄に移植する治療法です。
大阪大学の報告によれば、受傷6か月以降の脊髄損傷患者4例に対して嗅粘膜移植を行ったところ、3例で筋電図の有意な変化を認め、かつ安全性も確認できたそうです。
一方で、この治療では全身麻酔下での手術が必要であり、術後一時的な嗅覚低下を認めるなど、いくつかのデメリットも認めています。
再生医療における保険診療と自由診療の違い

再生医療における保険診療と自由診療の違いは下表の通りです。
| 費用 | 適用条件・対象疾患 | |
|---|---|---|
| 保険診療 | 高額療養費制度にて上限あり | 厳格に定められており、対象疾患が少ない |
| 自由診療 | 保険診療と比較して高額 | 比較的条件が緩く、対象疾患が豊富 |
例えば、上記で紹介したステミラックはすでにいくつもの臨床試験を経て、有効性・安全性ともに一定の水準を超えているため、保険承認されています。
一方で、保険の適用条件は厳格に定められており、製造や投与方法も国が定めた厳しい基準が設けられています。
そのため、自由診療を提供するクリニックではステミラックを扱うことができず、保険承認されていない治療を各医療機関が届出内容に基づいて提供しています。
基準を満たした病院を探すポイント
ここまで読むと、「自由診療は怪しい」「保険診療だから信頼できる」と思う方もいるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
保険診療・自由診療に関わらず、基準を満たした病院を探すポイントは主に下記の通りです。
- 厚生労働省に適切な届出を行っている
- 幹細胞を培養するための十分な設備を持ち合わせている
- 豊富な経験や実績を公表している
再生医療を提供するクリニックは、国の定めたルール(再生医療等安全性確保法)を守って安全に治療を行うことを、特定認定再生医療等委員会で審査され、厚生労働省や地方厚生局に届け出て、治療計画を受理される必要があります。
厚生労働省で無事に受理されれば「再生医療等提供計画番号」という識別番号が付与されるため、各医療機関のホームページで番号を確認すると良いでしょう。
また、幹細胞の培養のためには基準をみたした無菌室の設置などが義務付けられており、こちらも厚生労働省や地方厚生局に事前の届出、認可を受ける必要があります。(自前でなく、外部施設への委託でも可)
こちらの施設一覧も各地方厚生局がウェブ上で公開しているため、事前に確認しておくと良いでしょう。
上記2つを満たした上で、豊富な経験や実績を持つ医療機関・医師のもとで治療を受けることも重要であるため、口コミや症例数、学会活動・論文なども含めて判断すると良いでしょう。
まとめ
この記事では、脊髄損傷に対する再生医療の方法や基準を満たした病院を探すポイントを紹介しました。
脊髄損傷に対する適切な治療法は発症時期や症状の程度などによって個人差もあるため、1つの治療法にこだわることなく、幅広い視野を持つことが重要です。
再生医療を検討される際は、この記事で紹介したポイントに注意して慎重に医療機関を検討しましょう。
ニューロテック
近年、「神経障害が治ることを当たり前にする」という理念のもと、「ニューロテック®」と呼ばれる新たな取り組みが注目されています。
これは、脳卒中や脊髄損傷に対し、治療の標的となる脳や脊髄が本来持つ回復力を高めることを目指す「標的神経再生医療」です。
「リニューロ®」では、神経特化型の骨髄由来間葉系幹細胞治療と標的神経リハビリテーション®を組み合わせ、一人ひとりの状態に応じたアプローチを行います。
脊髄損傷に対しても、今後、このような先進的な治療法が新たな選択肢となり、患者さんの希望につながる可能性があります。
回復への選択肢を広げるためにも、医療機関と連携しながら一人ひとりに合った支援を継続することが大切です。
よくあるご質問
- 再生医療を受ければ脊髄損傷でも歩けるようになりますか?
- 脊髄損傷の方が再生医療を受ける場合、これまで歩行困難であっても歩行機能が改善する可能性があります。ただし、受傷時点での麻痺の程度や年齢、リハビリ併用の有無など、効果にはさまざまな要因が影響し、個人差も大きいです。
- 脊髄損傷に対する再生医療で臨床試験を行っている研究機関は?
- 脊髄損傷に対する再生医療で臨床試験を行っている代表的な研究機関として京都大学や大阪大学、慶應義塾大学、札幌医科大学などが挙げられます。また、積極的に再生医療を提供しているクリニックも少なくありません。
<参照元>
(1)「亜急性期脊髄損傷に対するiPS細胞由来神経前駆細胞を用いた再生医療」の臨床研究について(経過観察の終了)|慶應義塾大学
https://www.keio.ac.jp/files/a084abd0f9e2bd7148751e074caee512c4361860a868057b02ebd83f3e4c427d
(2)脊髄再生医療 ―スポーツによる脊損患者の救済を目指して―|日本臨床スポーツ医学会
https://www.rinspo.jp/journal/2020/files/31-1/1-5.pdf
(3)自家嗅粘膜移植による損傷脊髄機能再生法|日本神経学会
https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/053111180.pdf
(4)再生医療等の安全性の確保等に関する法律について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001502148.pdf













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