この記事を読んでわかること
・視床のはたらき
・視床出血の症状
・視床出血の治療・リハビリテーション
嗅覚以外の感覚や言語機能、また記憶や注意などに関与する視床が出血により障害されると、感覚障害やコミュニケーション障害、また遂行機能障害をきたすことがあります。
急性期の手術は限界がありますが、さまざまな障害に対するリハビリテーションが提供されます。
再生医療の効果も期待されています。
視床のはたらき
視床は脳の奥深く、左右にある5〜6cm程度の球形の構造物ですが、脳と身体の間で情報を処理する中継基地であり、5つの主要な機能別にそれぞれの核となるエリアに分かれています。
視床の機能として、特に以下が知られています。
- 覚醒と痛みの調節を行う
- 嗅覚を除くすべての感覚領域を制御する
- 運動言語機能を司る
- 記憶、注意、情報処理などの認知機能に影響する
- 気分と意欲を作り出す
視床が損傷されると、これらの機能を果たすことができなくなり、その結果さまざまな症状がみられることになります。
視床出血の症状
視床出血には、他の脳出血と同じように高血圧、喫煙、肥満などの危険因子があります。
その一方で、その症状には特徴があります。脳の各領域は、それぞれ異なる機能を持っていますが、脳出血の部位によって、さまざまな身体機能が損なわれてしまいます。
視床出血による影響には、以下のようなものがあります。
- ■感覚障害
- しびれやピリピリする感覚は、視床出血の後遺症として一般的です。
- ■睡眠障害
- 視床出血後、不眠に悩まされることがあります。
- ■健忘症
- 視床出血は、長期記憶または短期記憶に影響を及ぼす記憶喪失を起こすことがあります。
また、性格の変化も伴うことがあります。 - ■注意力の変化
- 注意は、記憶と並んで視床が担っている高次の認知能力です。
したがって、視床出血は、個人の注意力に影響を与える可能性があります。 - ■発話障害
- 視床出血後、コミュニケーションに障害が生じることがあります。
- ■半側空間無視
- 損傷を受けた側とは反対側の空間の存在に気づかなくなるものです。
通常、右側の視床が障害されると、身体の左側が無視されるようになります。 - ■視覚の障害
- 複視や視野欠損など、視床出血後に生じる可能性のある視覚障害は、様々な種類があります。
- ■平衡感覚障害
- 視床近くにある脳幹は、垂直方向の目の位置や頭の姿勢を調節する働きがあります。
脳出血によってこれらの機能が損なわれると、バランスが悪くなり、その結果歩行が不自由になることもあります。 - ■視床痛
- 視床出血から数ヶ月から数年後に、視床痛と呼ばれる慢性的な疼痛を発症することがあります。
最初は感覚障害から始まり、その後凍りつく、あるいは逆に焼け付くような感覚といった、温度調節障害に発展することがあります。
時間が経つにつれて、重度の慢性疼痛へと進行していくこともあります。
視床出血の治療
視床に生じた脳梗塞と区別するために、医療機関では通常CTスキャンやMRIなどの画像検査を実施します。
その後、治療が開始されます。
主に急性期と回復期の治療に分けられます。
視床出血に対する急性期の治療
視床は脳の奥深くにあるため、止血を目的に手術することが困難です。
ただし出血が広範囲に及んだ場合は、合併症を最小限に留めるために、手術をすることはあります。
通常急性期は、全身状態や血圧の管理が中心となります。
視床出血に対する回復期の治療
視床出血後は、出血によって低下した能力を回復させ、補うことを目的に治療を行います。
特に早い段階から集中的にリハビリを行い、リハビリで習得したスキルを日常生活に取り入れる努力をすることで、回復の成果を最適化することができます。
ここでは、視床出血の回復過程でできることをご紹介します。
理学療法・作業療法
運動障害が生じた場合、理学療法は体の動きを回復させるのに役立ちます。
姿勢の改善、歩行訓練、筋力強化にも役立つ場合があります。
また必要に応じて、歩行器や杖の使い方を指導し、安全に移動できるようにします。
作業療法は、特に食事や着替えなど、日常生活動作に関連する運動能力の回復を支援します。
また作業療法士は、バランス感覚を失った方にシャワーチェアを使用するなど、日常における困難を最小限に抑えるための補助器具について指導することもできます。
リハビリの効果は、繰り返し体験し、実践することで得られます。
脳は、頻繁に経験する作業に対して神経回路を作り、強化することによって効率的になろうとします。
この現象は、神経の可塑性として知られています。
感覚・視覚障害に対する訓練
視床出血後、しびれや針で刺されたような感覚を経験することがよくあります。
これに対し、感覚を伴う様々な運動を実践して感覚を再教育することで、脳が適応し、感覚情報を処理する能力を取り戻すことができる場合もあります
例えば、熱いタオルと冷たいタオルを交互に腕に当てて、脳の感覚処理を刺激します。
大切なのは、定期的にこれらのエクササイズを行い、脳に十分な一貫した刺激を与え、神経の可塑性を呼び起こすことです。
また視床出血後に視力障害が発生した場合、視覚リハビリテーション療法を行うこともできます。
視覚リハビリテーションでは、目の筋肉をコントロールする方法を脳に再教育するために、さまざまな目の運動が行われることがよくあります。
痛みの管理
視床痛は、薬物療法によって緩和される人もいます。
ただし非外科的な疼痛治療で痛みが軽減されない場合は、脳内の痛みサイクルを遮断することを目的に、外科的な治療を選択することもあります。
視床出血と再生医療
再生医療も、視床出血の後遺症に対する治療の選択肢となりつつあります。
視床出血は、簡単に手術を行うことができませんので、どうしても後遺症に悩まされる人が多くおられます。
しかし、再生医療の手法のひとつである自己幹細胞を点滴することで、長らく悩まされていた視床痛から解放された方もおられます。
まだ通常の診療として使用できるわけではありませんが、一刻でも早い実用化が望まれるところです。
まとめ
視床出血の症状や治療法についてご説明しました。
感覚や遂行機能など、わたしたちが生活をしていく上で大切な機能が失われることは辛いことです。
また慢性的な痛みを感じるようになれば、生活の質も大きく損なわれてしまうことでしょう。
再生医療はこれらの悩みに解決を与えてくれる、現代医療の切り札ともいえるかもしれません。
興味を持たれた方は、私たちまでどうぞ遠慮なくご相談ください。
よくあるご質問
視床出血の後遺症は?
視床出血は原則として手術を行うことができず、後遺症を残すことのある疾患です。感覚障害や運動麻痺、眼球運動の障害、視床痛、意識障害など様々な症状を残す可能性があります。
視床出血は再生医療で治るのか?
再生医療は、特に幹細胞治療を中心に、神経細胞を再生し脳の機能を回復する可能性があります。
また、リハビリテーションは視床出血の治療において非常に重要な役割を果たします。
再生医療とリハビリテーションが組み合わさることで、視床出血の改善に対する新たな可能性が広がっていくことが期待できます。
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