この記事を読んでわかること
脊髄損傷後に起こる痛みの種類と特徴がわかる。
慢性的な痛みが生じる背景と神経の変化がわかる。
痛みを軽減するための治療や日常生活での対処法がわかる。
脊髄損傷では、手足の麻痺だけでなく、痛みの問題に悩まされることも少なくありません。外傷そのものの痛みだけでなく、時間が経ってから現れる慢性的な痛みもあり、日常生活やリハビリに大きな影響を与えます。本記事では、脊髄損傷後にみられる痛みの特徴やそのしくみ、そして慢性痛との向き合い方について解説します。
脊髄損傷後にみられる痛みの種類

脊髄が損傷を受けたときには、運動や感覚、自律神経の機能に障害を与えるだけでなく、痛みを含むさまざまな二次的な問題を引き起こす可能性があります。
脊髄損傷後の痛みにはいくつかの種類があり、大きく分けると「体の組織の傷みによる痛み」と「神経の障害による痛み」に分けられます。
筋肉や関節など体の組織の傷みによる痛みは、筋肉や関節に負担がかかることで生じるもので、姿勢の変化や動作の偏りが原因となる場合があります。
一方で、神経の障害による痛みは、損傷した神経やその周囲の働きの変化によって起こり、焼けるような感覚や電気が走るような痛みとして感じられることが多いのが特徴です。
さらに、神経の障害による痛みは、損傷した脊髄の部分の近くに出るものと、それより下の範囲に広がって現れるものがあります。
例えば、損傷部位の周囲では軽く触れただけでも強い痛みを感じることがあり、これを「アロディニア」と呼びます。
実際には、脊髄損傷後の約8割の方が何らかの痛みを経験するとされており、その中でも筋肉や関節の痛みが比較的多くみられます。
また、神経による痛みも多く、複数のタイプの痛みが重なって現れることも少なくありません。
痛みの出方には時間的な特徴もあり、受傷後比較的早い時期に現れるものと、時間が経過するにつれて徐々に出てくるものがあります。
このように、脊髄損傷後の痛みは種類や経過がさまざまであるため、それぞれに応じた理解と対応が重要になります。
慢性的な痛みが起こるしくみ
脊髄損傷後の慢性的な痛みは、単に外傷の影響が続いているだけではなく、神経回路に対する影響も原因となります。
まず、損傷した脊髄の周囲では、出血や炎症が起こり、その後、傷ついた組織が修復される過程で神経の状態が大きく変化します。
このとき、神経が過敏な状態になり、通常であれば痛みとして感じない刺激でも強く感じてしまう恐れがあります。
また、本来は痛みを抑える働きをする脳からの信号が、脊髄損傷によってうまく伝わらなくなることも影響します。
その結果、痛みをコントロールする力が弱まり、痛みが続きやすくなります。
さらに、感覚が低下している部位でも、わずかに残っている神経のつながりが痛みの原因となるとされています。
「感覚がないはずなのに痛い」と感じるのは、このような仕組みが関係していると考えられています。
加えて、脊髄より上の脳の部分にも変化が起こります。
特に、痛みを処理する脳の働きが乱れ、実際の刺激とは関係なく痛みの信号が生じるケースもあります。
こうした神経回路の変化は時間とともに固定化されることがあり、慢性的な痛みの原因となります。
このように、脊髄損傷後の痛みは「神経が過敏になる」「痛みを抑える働きが弱くなる」「脳の処理が変化する」といった複数の要因が重なって生じると考えられています。
慢性痛との向き合い方|日常生活と治療のポイント

脊髄損傷後の慢性的な痛みに対しては、ひとつの方法だけでなく、複数のアプローチを組み合わせることが重要です。
リハビリテーションによって体の使い方を整えることや、筋肉の緊張を和らげることも痛みの軽減につながります。
さらに、ストレスや不安は痛みを強く感じる要因となるため、心理的なサポートも大切です。
日常生活では、無理をしすぎず、痛みの程度に応じて活動量を無理のない範囲で調整することがポイントです。
薬による治療では、一般的な鎮痛薬に加え、神経の働きを調整する薬が用いられる場合があります。
治療薬としては、プレガバリン(リリカ)やガバペンチン(ガバペン)が第一選択とされています。
これら二つの薬は「ガバペンチノイド」と呼ばれる神経障害性疼痛の治療薬で、神経のCa²⁺チャネルに結合し過剰な痛み信号を抑制する効果があります。
また、薬物療法とあわせて、頭の表面から弱い電気を流して脳の働きを調整する方法(経頭蓋直流刺激:tDCS)や、皮膚の上から電気刺激を与えて痛みをやわらげる方法(経皮的電気神経刺激:TENS)が用いられることもあります。
これらの手法は補助的な治療として、必要に応じて検討されるとされています。
脊髄刺激(SCS)では、痛みを伝える神経の働きを抑えたり、逆に痛みをやわらげる神経の働きを高めたりすることで、痛みの感じ方を軽減すると考えられています。
さらに、この治療には炎症を抑える作用や、傷ついた神経の回復を助ける可能性もあると報告されています。
こうした複数の作用によって、慢性的な痛みの改善につながることが示唆されています。
一方で、現時点では研究の規模が小さいことや、長期的な効果については十分なデータがそろっていないといった課題もあります。
そのため、今後の研究の進展が期待されている段階の治療法といえます。
まとめ
脊髄損傷後の痛みは、神経の変化によって生じる複雑な症状であり、長期にわたって生活に影響を与えることがあります。
筋肉や関節に由来する痛みと、神経の障害による痛みがあり、それぞれ特徴や経過が異なる点も重要です。
また、慢性的な痛みは神経の過敏な状態や痛みを抑える働きの低下、脳での処理の変化などが関係していると考えられています。
痛みの種類やしくみを理解し、適切な治療や生活の工夫を組み合わせることが、症状の軽減と生活の質の維持につながります。
よくあるご質問
- 脊髄損傷後の痛みは時間が経てば自然に軽くなりますか?
- 痛みの種類によって経過は異なります。外傷に伴う筋肉や関節の痛みは時間とともに軽くなることがありますが、神経の変化による痛みは長く続くこともあります。また、時間の経過とともに現れる痛みもあるため注意が必要です。気になる症状がある場合は早めに医療機関へ相談し、適切な評価と対応を受けることが大切です。
- 痛みがあるとリハビリは控えた方がよいですか?
- 強い痛みがある場合は無理を避ける必要がありますが、適切な範囲で体を動かすことは機能維持や痛みの悪化予防につながります。動かさないことで筋力低下や関節の硬さが進み、かえって痛みが強くなることもあります。痛みの程度に応じて内容を調整しながら、医療スタッフと相談して継続することが重要です。
<参照元>
(1)脊髄障害性疼痛の病態とリハビリテーション|J STAGEhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/painrehabilitation/14/1/14_2/_pdf/-char/ja
(2)Wang Q, Zhang Y, Zhang H, Li Z. Spinal cord stimulation: An emerging strategy for chronic pain relief after spinal cord injury. Neural Regen Res. 2025 Sep 29. doi: 10.4103/NRR.NRR-D-25-00553. Epub ahead of print PMID: 41017692.|PUBMEDhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41017692/













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