この記事を読んでわかること
・痙縮とは?
・痙縮のメカニズム
・痙縮に対する治療法
脊髄は、脳から続く神経の束のことで、背骨の中を通って腕や足に伸びていきます。
脳から出た指令は脊髄を通って体に行くため、脊髄は体と脳をつなぐ重要な電線のようなものとも言えます。
指令をだす脳が正常でも、その指令を伝える電線が切れてしまったり、異常が出たりすると体の一部がうまく動かなくなってしまいます。
脊髄損傷は、電線が切れてしまいその先にある筋肉が動かなくなってしまう状態です。
「脊髄」に似た言葉で、「脊椎」という用語があります。
脊椎は、脊髄を通す背骨のことです。
脊椎は骨なので、骨折を起こしたり腫瘍ができたりして、脊髄に障害を起こすことがあります。
交通事故や転落によるケガ、ガンの転移など脊椎に起こる異常が元で脊髄に障害を起こすのは、それほど珍しいことではありません。
一方、脊髄自体に病気が発生して脊髄が障害を受けることがあります。
炎症性疾患、変性疾患、脊髄に発生する腫瘍など珍しい病気が原因となります。
ここでは、脊髄から発生する腫瘍について解説します。
脊髄腫瘍とは
脊髄腫瘍の種類別発生部位
脊髄は神経でできているため、神経の細胞と、神経を包む膜からできています。
脊髄腫瘍は神経そのものから発生する場合と、神経を包む膜から発生する場合があります。
神経そのものから発生した場合脊髄の内部にできるので「髄内腫瘍」、神経を包む膜から発生すると脊髄の外にできるので「髄外腫瘍」と呼ばれます。
脊髄腫瘍は珍しい病気で、髄内腫瘍の中で最も頻度が高い上衣腫というタイプでも、年間に10万人あたり0.05-0.08人程度(単純計算で国内年間50〜80人程度)の発症率です。
上衣腫は腰のあたりで脊髄の真ん中にできて、腰痛や足のしびれなどで発症することが多いです。
髄内腫瘍で次に頻度が高いのは、星細胞腫という腫瘍です。
子どもの髄内腫瘍では最も頻度が高く、悪性度が高いと周囲の脊髄を蝕むように進行する怖い病気です。
髄外腫瘍には、神経鞘腫や髄膜腫という腫瘍があります。
神経鞘腫は、神経を包む神経鞘という場所から発生する腫瘍です。
髄膜腫は、硬膜という脊髄全体を包む膜から発生します。
どちらも良性腫瘍であるため、周囲の組織に入り込んでいったり、転移を起こしたりすることはありませんが、大きくなって脊髄を圧迫すると様々な症状を引き起こします。
脊髄腫瘍の原因
脊髄腫瘍が発生するのは、基本的に偶発的なものと考えられ、はっきりとした原因は分かっていません。
少数ですが、遺伝性や家族性がみられるタイプも存在します。
脊髄腫瘍の発生メカニズム
脊髄腫瘍は、正常細胞が異常増殖することで発生します。
発生メカニズムには遺伝的要因や、放射線暴露、化学物質への接触といった環境要因が関与することがあります。
良性腫瘍と悪性腫瘍があり、悪性の場合は転移性腫瘍が多いです。
腫瘍の進行により、脊髄への圧迫や神経損傷が起こるため、早期発見が重要です。
脊髄腫瘍が発生する年齢
脊髄腫瘍は、そのタイプにより発生しやすい年齢が異なります。
子どもから成人、中年以降どの年代にも発生します。
- 上衣種:成人に多い
- 星細胞腫:成人にも発生するが、子どもに発生する特徴がある
- 神経鞘腫:40-50歳代
- 髄膜腫:中年期の女性に多い
脊髄腫瘍の症状
脊髄には運動の神経、感覚の神経、自律神経が入っています。
脊髄腫瘍が発生する場所や大きさによって様々な症状が発生します。
運動の神経が障害されると、その先の筋肉の運動が悪くなります。
頚部付近の脊髄腫瘍では、腕や手の動きが悪くなる可能性があり、腰部付近では膝や足の動きが悪くなる可能性があります。
症状が悪化すると、手や足が動かなくなる、運動麻痺の状態になります。
感覚の神経が圧迫されると、しびれや痛みの原因になります。
しびれだけが症状の場合もあるため、「坐骨神経痛」など一般的な病気と診断され、脊髄腫瘍の診断が遅れてしまう場合もあり注意が必要です。
自律神経が障害されると、血圧のコントロールがうまくいかなくなりふらつきなどの原因になることがあります。
自律神経は運動や感覚の神経と比較すると、障害されづらい性質を持っています。
神経は一度強く障害されると、回復するのは非常に難しい組織です。
症状が悪化する前に腫瘍を発見し、治療を受けることが重要です。
脊髄腫瘍による合併症
脊髄腫瘍は進行することでさまざまな合併症を引き起こします。
代表的なものには、下肢の運動機能障害や手足の感覚麻痺があります。
また、腫瘍が脊髄神経を圧迫することで、排尿・排便機能に問題が生じたり、性機能障害を引き起こすこともあります。
症状の進行によっては、呼吸困難や四肢麻痺といった重篤な合併症が生じる場合もあります。
脊髄腫瘍の検査
脊髄に発生する腫瘍は、レントゲンではうつらないものがほとんどなので、X線検査では診断がつきません。
MRI検査は脊髄そのものを観察することができるので、最も重要な検査です。
髄膜腫はCT検査で白く写ることがあります。
脊髄腫瘍の治療
腫瘍が偶然見つかり、症状が無いかごく軽く、良性腫瘍であるとはっきり分かる場合には定期的な検査を行うだけで経過をみることがあります。
しかし次のようなケースでは、腫瘍を摘出する手術が必要となります。
- 腫瘍が原因で生活に支障を来すような症状を起こしている
- 経過観察中に腫瘍が段々と大きくなる
- 腫瘍と周囲の境界がはっきりしないなど、悪性腫瘍の可能性が疑われる
- 症状が軽くても、MRI検査で明らかに脊髄を圧迫している
良性腫瘍では周囲の神経との分離が比較的容易で、きれいにとりきれることが多くなりますが、悪性腫瘍では一部正常な神経ごと摘出せざるをえない場合もあります。
その場合、手術による後遺症が残る恐れがあります。
良性でも悪性でも難度が高い手術となるため、専門医による治療が行われます。
摘出した腫瘍は顕微鏡の検査を行い、腫瘍がどのような性質をもつか判断します。
良性腫瘍であれば手術のみが行われますが、悪性腫瘍の場合は化学療法や放射線療法を組み合わせた治療が行われます。
脊髄腫瘍の余命
髄内腫瘍の上衣種や、髄外腫瘍の神経鞘腫や髄膜腫は、基本的に良性腫瘍であるため、それのみで命をとられることはありません。
ただし神経の症状が進行し、運動の障害から体力の低下、転倒などが原因となり免疫力が低下し最終的に重症となる、ということは想定されます。
一方髄内腫瘍の星細胞腫は、7-30%程度が悪性腫瘍としての性質を持っています。
周囲組織に入り込むように増殖したり、別の場所に転移したりするために致命的になることがあります。
星細胞腫の中でも悪性度が高いものでは、5年生存率が31%、悪性度が比較的低いものでは5年生存率が78%だった、というデータがあります。
いずれにしても早期に発見し、適切な治療を受けることで余命を改善することができます。
脊髄腫瘍の予後とリハビリテーション
脊髄腫瘍の治療後の予後は、腫瘍の種類や位置、治療のタイミングによって異なります。
腫瘍の摘出後は、運動機能の回復や感覚機能の改善を目的としたリハビリテーションが重要です。
特に、早期のリハビリ介入が回復に効果的であり、専門的なサポートが患者の生活の質(QOL)向上に寄与します。
脊髄腫瘍の髄内腫瘍と髄外腫瘍についてのまとめ
- 脊髄腫瘍には髄内腫瘍と髄外腫瘍がある
- 髄内腫瘍には上衣種、星細胞腫など、髄外腫瘍には神経鞘腫や髄膜腫などがある
- 腫瘍の大きさや場所によって、運動や感覚、自律神経の様々な症状を引き起こす
- 症状が強い場合、段々大きくなる場合、悪性の可能性がある場合は摘出手術が行われる
- 良性腫瘍は直接余命に関係しないが、悪性腫瘍では進行し致命的となることがある
※データ参照元
「脊髄腫瘍」脳神経外科速報30(9), 2020
「脊髄腫瘍」日本医事新報4968, 2019
「脊髄星細胞腫の治療成績」脊髄外科29(3), 2015
関連記事
あわせて読みたい記事:脊髄損傷の神経障害に脂肪由来幹細胞治療は適切なのか
外部サイトの関連記事:脊髄損傷の後遺症改善に可能性の高い治療法とは
コメント