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脊髄性運動失調とは

           

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この記事を読んでわかること

脊髄性運動失調のメカニズムと代表的な疾患
脊髄性運動失調の症状
リハビリテーションによる歩行改善


脊髄性運動失調は、主に脊髄後索の損傷により四肢や体幹に失調症状が現れる病態を指します。
下肢に強く症状が出現し、位置覚をはじめとする深部感覚が障害され、踵を床に打ち付けるような歩行が特徴的です。
この記事では、脊髄性運動失調のメカニズムや症状、歩行障害に対するリハビリや近年注目されている再生医療について詳しく解説します。

脊髄性運動失調のメカニズムと代表的な疾患

脊髄性運動失調は、脊髄に病変を認め、手足の位置に関する感覚(位置覚)や手足が動いている感覚(運動覚)といった深部感覚の障害によって引き起こされる症状です。
この章では、脊髄性運動失調のメカニズムと代表的な疾患について解説します。

脊髄性運動失調のメカニズム

脊髄は、脳から指令を受けて身体の各部位に運動の信号を送っています。
脊髄性運動失調は、この脊髄の正常な機能が障害されることにより、運動の制御が困難になる状態です。
具体的には、脊髄後索(手足の感覚の伝わる経路)の障害により末梢感覚が遮断され、深部感覚が損なわれます。
その結果、物を持つ感覚や手を動かす感覚が十分に認識できず、手足の動きがぎこちなくなります。

脊髄性運動失調の代表的な疾患

脊髄性運動失調を引き起こす代表的な疾患は、次の通りです。

  • 脊髄癆(せきずいろう)
  • 脊髄損傷
  • 脊髄腫瘍
  • 変形性頚椎症
  • 多発性硬化症
  • 脊髄空洞症
  • など

上記の他にも、末梢神経障害で特に深部感覚に関わる神経線維が強く損傷した場合にも、同様の運動失調を生じることがあります。

脊髄性運動失調の症状

脊髄性運動失調には以下のような症状があります。

閉眼時直立困難
静止時、動作時ともに動揺が出現し、下肢の運動失調が顕著。
視覚の代償を用いて動作するため、閉眼すると平衡を失いふらつきが明らかになり転倒する。
歩行障害
足をどの程度の高さまで上げて前に出したら良いかがわからないため、足を必要以上に高くあげて踵をバタバタと床に打ち付けるような歩行(踵打歩行)になる。
物品の把持困難
一定の筋出力ができず、持っている物を落とす。
書字障害
字の大きさ・間隔・場所がバラバラになる。

いずれの動作でも、視覚による代償が大きいため、閉眼時はパフォーマンスが著しく低下する。

リハビリテーションによる歩行改善

脊髄性運動失調に対しリハビリを実施することで、歩行の改善がみられるケースがあります。
この章では、脊髄性運動失調の歩行障害に向けたリハビリを紹介します。

フランケル体操
損傷を受けた感覚の残存機能を用いたアプローチ法で、視覚でのフィードバックと運動学習を行う。
まずは、下肢を目標物に向けて動かすといった単純な運動学習から始め、徐々に複合的な動作へと移行し、歩行能力の改善につなげる。
ポイントは以下の2つ。
  1. 注意を持続させること
  2. 正確に動作できるまで繰り返すこと
重錘訓練
下肢や上肢の抹消に重りをつけることで、固有感覚を賦活。
また、運動失調による上下肢の過剰な動揺を抑える働きもある。
下肢への重錘訓練では、足首に500g〜1,000g程度の重錘装着が一般的。
弾性緊縛帯
近位部に弾性包帯を巻き、過剰な四肢の動揺を防ぐために実施する。
上肢は肩関節や上腕・肘関節、下肢は股関節・大腿・膝関節、体幹は腰部などが推奨されている。
失調症状が強く出現している箇所、またはそれより中枢部に弾性緊縛帯を用いることで動作の改善がみられたとの報告が多数。
プレーシング
プレーシングとは、上肢や下肢を一定の位置でキープさせることを指す。
失調症状は、動作を円滑に遂行することが難しいことが多いが、それ以前に上下肢を空間内で保持すること自体が困難な場合がある。
段階によっては、「プレーシング」から訓練を開始し、協調性のあるスムーズな動作を目指す。

上記のリハビリを組み合わせながら歩行の運動学習を行い、歩行能力の改善を目指します。

補助具や環境設定による歩行支援

歩行器
脊髄性運動失調のある方への歩行支援には、直接的なリハビリ介入の他に、補助具の導入や支援技術が欠かせません。
脊髄性運動失調の方に対する補助具は、具体的に下記項目が候補に挙げられます。

  • T字杖
  • ロフストランド杖
  • 四点杖
  • 歩行車(サークル型・四輪歩行車)
  • 歩行器(固定型・キャスター付き・交互型)
  • など

歩行動作を評価し、必要な補助具を選択した上で、必要に応じて杖や歩行器にも重錘を負荷するなどして、より安定した歩行動作の獲得を目標にします。
軽度の運動失調の方は、杖の導入を躊躇される方もおられますが、転倒予防や運動・外出をしないことによる廃用症候群の予防にも役立ちますので、正しく評価し適切な補助具を選択することは大変重要です。
また、必要に応じて住宅改修や福祉用具も視野に入れましょう。
以下に、一例を記します。

  • 玄関や廊下、トイレや浴室などへの手すりの設置
  • ベッドサイドでの立ち上がりをサポートする手すりの設置
  • 和式トイレから洋式トイレへの変更
  • 床座位から椅子座位への生活スタイルの変更
  • など

補助具・支援機器の導入は、両者ともに「転倒予防」と「不動による運動能力の低下防止」が目的です。
現在の運動能力をできる限り長く保持するため、医師やリハビリ専門職と相談しながら身の回りの環境を整えることが大切です。

まとめ

この記事では、「脊髄性運動失調」のメカニズムや症状、リハビリや歩行支援について解説しました。
脊髄性運動失調は、神経の損傷により引き起こされます。
神経は1度強く損傷してしまうと回復することはなく、後遺症に一生悩まされることも少なくありません。
今までは神経損傷に対する根本的な治療法はなく、主に薬物療法とリハビリを行う対処療法が行われてきましたが、近年「神経そのものを回復させる技術」が注目されています。
その1つが「再生医療」です。
当院では脊髄損傷や脊髄腫瘍の方への再生医療を実施しており、自身の持つ力で回復を目指す再生医療とリハビリを組み合わせ、相乗効果を図っています。
当院で実施する再生医療は、患者さん自身の「幹細胞(神経や臓器を構成する細胞に分化する細胞)」を用いて神経の再生を目指す治療法であるため、副作用が少ないことも利点の1つです。
また、多発性硬化症は治験段階ですが、アメリカやイギリスをはじめとする世界4ヵ国で再生医療を実施したところ、再生率(再発率?)の大幅な減少や症状の改善が報告されています。
変形性頚椎症や脊髄空洞症など、その他脊髄性運動失調を引き起こす原因疾患に関しても、再生医療の臨床への適応が待たれるところです。

よくあるご質問

運動失調と麻痺の違いは何ですか?
運動失調は、脳や脊髄の異常により手足が動かしにくくなり、震えやふらつきなど運動機能の障害が出現します。一方、運動麻痺は脳や脊髄の障害により、自らの意思で筋肉を動かすことが困難になった状態を指します。

感覚性運動失調とは何ですか?
感覚性運動失調は、脊髄や脳の体の感覚を司る場所の障害や末梢神経の障害により出現する症状です。具体的には、自分の腕の位置や手の動きなど「体がどのように動いているのか」が分かりにくくなるため、手足を上手く動かすことが出来なくなります。そのため、書字や更衣などの日常動作の拙劣さや、踵を打ち付けるような歩行(踵打歩行)が見られます。

<参照元>
・感覚性運動失調に対する リハビリテーションアプローチ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/56/2/56_56.110/_pdf
・脊髄性運動失調
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkpt/14/0/14_1/_pdf
・神経メカニズムから捉える失調症状
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/56/2/56_56.88/_pdf

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貴宝院 永稔【この記事の監修】貴宝院 永稔 医師 (大阪医科薬科大学卒業)
脳梗塞・脊髄損傷クリニック銀座院 院長
日本リハビリテーション医学会認定専門医
日本リハビリテーション医学会認定指導医
日本脳卒中学会認定脳卒中専門医
ニューロテックメディカル株式会社 代表取締役

私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
このブログでは、後遺症でお困りの方、脳卒中・脊髄損傷についてもっと知りたい方へ情報提供していきたいと思っています。


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