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環境要因が多発性硬化症に与える影響とは?

           

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この記事を読んでわかること

多発性硬化症について
多発性硬化症と地域や季節の影響
感染症と多発性硬化症のリスク


多発性硬化症とは、中枢神経系に生じる自己免疫性脱髄性疾患であり、症状が空間的・時間的に多発するという特徴があります。
一方で、原因ははっきり解明されておらず、自己免疫以外に様々な環境要因が影響しているとの報告もあります。
そこでこの記事では、環境要因が多発性硬化症に与える影響について解説していきます。

地域や季節の影響

アメリカインディアン
多発性硬化症とは、脳や脊髄などの中枢神経系に生じる自己免疫性脱髄性疾患です。
神経を包む髄鞘と呼ばれる鞘のような構造物に対して、自己免疫が誤って攻撃してしまうために、神経の伝導が障害され、さまざまな神経症状をきたす疾患です。
一方で、なぜ発症するのか、自己免疫による攻撃がなぜ生じるのか、その原因までははっきり解明されておらず、遺伝的要因だけでは説明がつかないことから、なんらかの環境要因の関与が疑われています。
環境要因として代表的なものの1つに、「日照時間」が挙げられ、それは地域や天候によって左右されます。
まず、民族的にはイヌイットや南北のアメリカンインディアン・オーストラリアのアボリジニー・ニュージーランドのマオイ族・太平洋諸島の島民・アフリカ人などでは極めて稀な疾患とされています。
一方で、アジア人の発症率は中間程度、スカンディナビア人やパレスチナ人や北欧の人で高率に発症すると言われています。
これらの民族性からもわかるように、古くから高緯度のエリアで発症率が高いと言われており、日照時間が関与していると推測されてきましたが、緯度が同じでも発症率に大きな違いがあるケースも散見されます。
とある研究では、マルタ島の有病率は10万人あたり17人ですが、ほとんど同緯度のシシリー島では113人、イタリア本土では81人と、明らかにマルタ島で発症者が少ないことがわかります。
以上のことからも、緯度の違いによる日照時間だけが有病率に影響しているとは考え難いです。
そもそも、なぜ日照時間が多発性硬化症の発症に関わっていると考えられているのでしょうか?

ビタミンDと多発性硬化症の関係

ビタミンD
日照時間と多発性硬化症には2つの関連性があると考えられています。

  • 紫外線:紫外線の免疫抑制作用によって発症率が低下する
  • ビタミンD:紫外線によってビタミンDが活性化して発症率が低下する

紫外線には免疫抑制作用があるため、日照時間が長いほど自己免疫も抑制され、多発性硬化症の発症が抑制されると考えられています。
また、太陽光によって体内のビタミンDが活性化されることで、多発性硬化症の原因となるであろう酵素の産生が抑制されると考えられています。
実際に、海外の研究では日光照射量の多い労働者層で多発性硬化症による死亡率が低いことが知られています。
また、別の興味深い研究では、誕生月によって多発性硬化症の発症率に有意差があり、その理由として母体の日光照射に伴うビタミンD量の違いが挙げられています。
一方で、ビタミンDと多発性硬化症の関連性を否定する報告も散見され、意見の分かれるところです。

感染症と多発性硬化症のリスク

以前から多発性硬化症の原因として、感染症、特にウイルス感染が疑われています。
具体的には、麻疹ウイルスやヒトヘルペスウイルスなどが挙げられますが、中でもEBウイルスが代表的です。
伝染性単核球症の原因となるEBウイルスに感染すると、多発性硬化症の発症する確率が有意に増加するという報告は多数認められ、これまでその機序の解明が進められてきました。
特に、EBウイルスのある特定のタンパクに反応したリンパ球が、髄鞘のタンパクを誤認して攻撃している可能性が高いと報告されています。
一方で、赤道付近の国では病原体に溢れ、早期に感染することで他の抗原への免疫反応が鈍化することから、これらの国では多発性硬化症に発症しにくいのでは、という仮説もあります。

生活環境の変化と多発性硬化症のリスク

前述したように、日照時間と多発性硬化症の関係性は多く示唆されているため、生活習慣が乱れて太陽光を浴びる時間が減ってしまうと、多発性硬化症発症のリスクは増加する可能性があります。
また、ビタミンDの摂取量減少もリスクとなる可能性があり、ビタミンDが豊富に含まれるきのこ類や魚類の摂取不足も多発性硬化症発症のリスクを増加させる可能性があります。
他にも、喫煙が発症リスクを増加させる可能性を示唆する報告もあり、注意が必要です。

大気汚染と多発性硬化症の関連性

大気汚染
これまで、大気汚染が多発性硬化症の発症率を増加させる可能性についても議論がなされてきました。
2017年に米国で行われた研究では、排気ガスなどによる大気汚染と神経疾患(多発性硬化症・認知症・パーキンソン病の3疾患)の関連性について報告されています。
その報告によれば、大気汚染の度合いと認知症の発症には有意な相関関係を認めたものの、多発性硬化症やパーキンソン病の発症には相関関係は認められませんでした。

まとめ

今回の記事では、環境要因が多発性硬化症に与える影響について解説しました。
多発性硬化症に関して、これまで多くの研究がなされ、さまざまな発症要因について調査されてきました。
それらの研究によれば、日照時間・民族・遺伝・感染症・生活習慣などの環境要因が挙げられていますが、いまだに原因解明には至っていません。
原因が分からない以上、主な治療は自己免疫を抑制し、症状の進行を遅らせる治療法しかないのが現状です。
今後さらに原因や病態の解明が進めば、より良い治療法が見つかるかもしれません。
また、近年では再生医療の分野が成長しており、多発性硬化症によって破壊された髄鞘が再生医療によって回復する可能性もあります。
そうなれば、麻痺やしびれなどの神経症状が改善する可能性もあり、現在その知見が待たれるところです。

よくあるご質問

多発性硬化症に影響を及ぼす環境要因は何ですか?
これまでの多くの研究結果から、日照時間・地域差・ビタミンD摂取量・感染症などが、多発性硬化症に影響を及ぼす環境要因として考えられています。
しかし、これらの環境要因はあくまで発症リスクを増加させる要因にすぎず、病態の解明には至っていません。

環境要因の改善で多発性硬化症のリスクが減りますか?
もちろん環境要因の改善で多発性硬化症のリスクが減る可能性はあります。
しかし、これらの環境要因は単一で発症に関わっているわけではなく、複雑に関与しあって発症するため、改善したからといって発症を完璧に防げるわけではありません。

<参照元>
・神経研究の進歩 50巻 4号 pp. 494-502(2006年08月):https://webview.isho.jp/journal/detail/pdf/10.11477/mf.1431100158?searched=1
・日本経済新聞:https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/column/14/091100004/082900073/

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貴宝院 永稔【この記事の監修】貴宝院 永稔 医師 (大阪医科薬科大学卒業)
脳梗塞・脊髄損傷クリニック銀座院 院長
日本リハビリテーション医学会認定専門医
日本リハビリテーション医学会認定指導医
日本脳卒中学会認定脳卒中専門医
ニューロテックメディカル株式会社 代表取締役

私たちは『神経障害は治るを当たり前にする』をビジョンとし、ニューロテック®(再生医療×リハビリ)の研究開発に取り組んできました。
リハビリテーション専門医として17年以上に渡り、脳卒中・脊髄損傷・骨関節疾患に対する専門的なリハビリテーションを提供し、また兵庫県尼崎市の「はくほう会セントラル病院」ではニューロテック外来・入院を設置し、先進リハビリテーションを提供する体制を築きました。
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