この記事を読んでわかること
・ミューズ細胞とは?
・ES細胞、iPS細胞との違い
・ミューズ細胞はなぜ注目されているのか?
ミューズは、生体由来の多能性修復幹細胞です。
脳卒中を受けて損傷された脳細胞を修復するだけでなく、幹細胞として分化する再生能力を有しているため、失われた神経細胞を補う作用を有しています。
まだ研究段階ではありますが、脳梗塞後の患者さんに使用した臨床試験では、安全性と患者さんが失った機能が回復する効果が認められています。
ミューズ細胞の特徴と他の幹細胞との違い
まずミューズ細胞について、簡単にご説明します。
ミューズ細胞の多能性と安全性
ミューズ(MUSE)細胞とは、Multilineage-differentiating Stress Enduring cellsのことです。
2010年に東北大学の出澤真理教授を中心とした研究グループによって発見された、私たちの体内に存在する多能性修復幹細胞です。
ミューズ細胞は、骨髄、末梢血、全身の臓器の結合組織などに存在しています。
そしてこのミューズ細胞は、損傷を受けた臓器に集積し、損傷した組織を修復し、さらに損傷を受けた細胞に分化することで損傷した細胞を補充します。
また抗炎症作用や血管保護作用、組織保護作用などの多面的な作用を長期間にわたって発揮します。
もともと体内に存在していますので、ミューズ細胞を使用する際は免疫抑制剤の投与などを必要としません。
これらの特性により、再生医療分野で大きな注目を集めています。
ES細胞、iPS細胞との比較
多能性細胞の代表的なものには、ES細胞、iPS細胞が知られています。
しかし、これらの細胞は多能性であるがゆえに不安定で、無秩序に分化・増殖してしまう可能性があります。
一方ミューズ細胞は、さらなる研究が必要ではありますが、動物モデルにした研究では無秩序な分化・増殖は認められませんでした。
ミューズ細胞は、非常に回復力が高く、過酷なストレスにも耐えることができる細胞です。
実際ミューズ細胞は、極限状態でも生存しているようです。
この強さも、他の幹細胞にはない特徴と言えます。
またミューズ細胞の投与は、間葉系幹細胞の投与と比較して、損傷した組織の修復効果が著しく高いことが知られてます。
なおES細胞は患者とは異なる、他人の細胞を利用しますが、ミューズ細胞は患者自身の脂肪細胞などに存在していますので、投与される人にとっては安全性が高まります。
ミューズ細胞はなぜ注目されているのか?
幹細胞の研究は、医学的にはまだ十分に解明されていない領域ですが、無限の可能性を秘めていると考えられ、注目を集めています。
ミューズ細胞に関する研究が進み、臨床試験が行われれば、心臓病や脳卒中などの多くの疾患で損傷を受けた組織に対する、画期的な治療法となる可能性があります。
特に再生が不可能だと考えられている心筋や神経の再生などに対して、損傷した部分を補充する細胞として機能することができます。
ミューズ細胞は、多くの医療上の問題に対する答えとなる可能性があります。
脳卒中治療におけるミューズ細胞の役割と研究結果
では次に、ミューズ細胞と脳卒中との関係について、ご説明します。
脳卒中とは?その原因と症状
脳卒中とは、脳の血管が破れて出血したり、血管の内部が閉塞したりすることで、脳細胞への血液供給が滞った状態です。
虚血性脳卒中(脳梗塞)、出血性脳卒中(脳出血)、くも膜下出血などが含まれます。
血管破裂や閉塞により、血液や酸素が脳の組織に届かなくなります。酸素が不足すると、さまざまな病態生理学的反応が起こり脳細胞は損傷を受けます。
そして適切な時間内に酸素の供給が再開されないと、数分以内に死滅し始めます。
脳卒中の最大の問題は、この神経細胞の喪失です。
最終的に細胞が死滅すると再生ができないため、生涯にわたって障害が残ることがあります。
脳卒中に対するミューズ細胞の役割
まずミューズ細胞は、損傷を受けた組織を修復する機能を持つ幹細胞です。
組織が損傷されると、ミューズ細胞は損傷部位に集まる性質があります。
そしてミューズ細胞は、損傷を受けた組織の修復を助けます。
またミューズ細胞にはさまざまな種類の細胞に分化する再生能力があります。
どの臓器からミューズ細胞を採取するかによって、分化していく傾向に違いがみられるため、治療目的に応じて使用するミューズ細胞を選択する必要はありますが、脳卒中に対する幹細胞治療の可能性を秘めています。
脳卒中に対するミューズ細胞を用いた研究
東北大学の研究チームは、2018年9月に脳梗塞患者を対象としたミューズ細胞の臨床試験を開始しました。
そして2020年4月に、その中間結果が発表されました。
さらに2021年5月に行われた第41回日本脳神経外科学会総会において、脳梗塞患者を対象に行われた、ミューズ細胞製剤の静脈内投与後52週間の成果について、予備的な結果が発表されました。
この臨床試験は、標準的な急性期治療を受けても体の一部の麻痺が継続している患者さんを対象に、脳梗塞発症後14日から28日以内にミューズ細胞を点滴で一回投与し、その安全性と有効性を評価するものです。
まずこの臨床試験では、ミューズ細胞投与後52週間までの患者の安全性が確認されました。
実際、この臨床試験期間中、患者さんには有害事象は認められず、ミューズ細胞の良好な安全性が確認されています。
そのほかにも、ミューズ細胞の投与を受けた患者さんたちと、投与を受けていない患者さんの間で、失われた神経機能の回復の程度を比較検討しています。
今回の臨床試験の対象となった患者さんの多くは、介助なしでは歩行や身体機能の維持ができない、または寝たきりで失禁や継続的なケアを必要とする、中等度以上の重度障害の状態でした。
しかしミューズ細胞製剤の投与12週後には、介助なしで公共交通機関の利用など身の回りのことができるレベルに回復した人が出てきました。
投与12週後のミューズ細胞製剤の奏効率は40%であり、投与を受けていない患者さんたちに比べて30%ほど高くなっていました。
さらに投与52週後のミューズ細胞製剤の奏効率は68.2%もあり、投与を受けていない患者さんたちとの差は30%以上で維持されていました。
また投与後52週時点では、ミューズ細胞製剤を投与した患者さんたちでは31.8%が仕事への復帰など、脳卒中前の活動をすべて介助なしで行えるレベルまでの回復を達成しました。
しかし投与を受けていない患者さんたちでは、同等レベルにまで回復した人はいませんでした。
ミューズ細胞と脳卒中の関係についてのまとめ
ミューズ細胞と脳卒中の関係について説明しました。
まだ実験段階とは言え、安全に高い効果を得ることができる可能性を秘めています。
今後の研究成果、また実用化に期待したいところです。
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