この記事を読んでわかること
・重症筋無力症の病態と初期症状
・重症筋無力症患者がやってはいけないこととは?
・重症化した場合の対応とは?
重症筋無力症とは、運動神経から筋肉にうまく刺激が伝導しなくなり全身の筋力低下、易疲労性、眼瞼下垂、複視など眼の症状をおこしやすいことが特徴の疾患です。
またなんらかの理由で急速に重症化(クリーゼ)に至ると呼吸困難に陥り命の危険性もあります。
そこで今回は、クリーゼを予防するために重症筋無力症の患者がやってはいけないことに関して詳しく解説していきます。
重症筋無力症の病態と初期症状
重症筋無力症という病気を聞いたことがあるでしょうか?
重症筋無力症の主な原因は、筋肉の表面にあるアセチルコリン受容体に対して自己抗体が産生されてしまうことです。
本来の正常な運動を得るには、運動神経から放出されたアセチルコリンが筋肉の表面にあるアセチルコリン受容体にくっつく事で、筋肉にうまく指令を伝えていく必要があります。
しかし、重症筋無力症の場合は体内でアセチルコリン受容体に対する自己抗体が勝手に産生されてしまい、アセチルコリン受容体の機能が障害されてしまいます。
すると、運動神経からの運動の指令が筋肉に円滑に伝わらないため、全身の筋力低下、易疲労性、眼瞼下垂、複視などの症状を来してしまいます。
また、喉頭部や咽頭部の筋肉にも同様の障害が起きると、飲み込みや会話に異常をきたし嚥下障害や構音障害をきたします。
また、何らかのきっかけで症状が急速に悪化していくことをクリーゼと言い、この場合呼吸筋まで麻痺してしまい呼吸困難に至り、人工呼吸器なしでは死亡する可能性もあるため大変危険な病気と言えます。
重症筋無力症患者がやってはいけないこととは?
前述したように重症筋無力症の急速な重症化(クリーゼ)は呼吸機能を障害するため、緊急性の高い病態と言えます。
では、クリーゼにならないようにするにはどのようなことに気をつけるべきなのでしょうか?
内服薬に気を付ける
そもそも重症筋無力症では主たる症状として筋力低下を認めるため、筋肉の弛緩作用を認めるような薬剤は投与を控えるべきです。
例えば、睡眠薬や精神安定剤、アミノグリコシド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質などは筋弛緩作用があるため禁忌とされています。
また、アセチルコリンそのものの働きを減弱させる抗コリン作用を有する薬剤として、パーキンソン病の薬や前立腺肥大症の治療薬なども禁忌とされています。
そのほかにも、麻酔薬、造影剤などもリスクに挙げられます。
これらの薬剤を誤って内服した場合には、クリーゼを引き起こす可能性があります。
風邪に気を付ける
重症筋無力症では、肺炎をはじめとする感染症には注意が必要です。
感染がトリガーとなって急激な症状の悪化をきたすことが多いからです。
身体への侵襲を避ける
重症筋無力症では、手術や外傷などの身体への侵襲を契機に症状が急速に悪化する可能性があり注意が必要です。
また、重症筋無力症の原因となる自己抗体は胸腺と呼ばれる胸部の臓器から産生されていることがあるため、胸腺腫の摘出術が治療の選択肢の1つとなっていますが、非常に興味深いことに胸腺腫摘出術そのものの侵襲によってクリーゼを引き起こすこともあるため、治療後のクリーゼにも注意が必要です。
重症化した場合の対応とは?
クリーゼを引き起こした場合には、呼吸管理と重症筋無力症そのものに対する治療の2つが必要となります。
まず、クリーゼに伴う重篤な呼吸筋麻痺による呼吸困難に対しては、気管内挿管や人工呼吸器による呼吸のアシストが必要となるケースがほとんどです。
クリーゼの平均日数は13日程度であり、比較的長期的な人工呼吸器管理が求められます。
次に、重症筋無力症そのものに対する治療としては主に血液浄化療法と大量ガンマグロブリン療法が挙げられます。
血液浄化療法は原因となる自己抗体を血液濾過によって強制的に体外に排出する治療であり、大量ガンマグロブリン療法は自己抗体の機能を直接的に阻害できるため有用な治療法です。
まとめ
今回は重症筋無力症の患者がやってはいけないことについて解説しました。
重症筋無力症では主に筋力低下が問題になりますが、感染症や身体的ストレス、内服薬の影響などによって一気に症状が悪化し、場合によっては嚥下障害による誤嚥性肺炎や呼吸筋麻痺による呼吸困難に陥り、命の危険性もある病気です。
この記事を参考に、重症筋無力症の方は日常から気を付けて生活してください。
また、近年では再生医療の発達も目覚ましいです。
再生医療によって損傷したアセチルコリン受容体が再生すれば、神経からの刺激がうまく筋肉に伝導するため、重症筋無力症の方が急速に重篤化する状態を防ぐことも可能になるかもしれません。
現在、その知見が待たれるところです。
よくあるご質問
重症筋無力症の症状は?
全身の筋力低下、疲れやすさ、まぶたが開けられない(眼瞼下垂)、ものが二重に見える(複視)などの症状が代表的です。いずれも夕方に症状が悪くなることが多いです。重症になると呼吸困難を来すこともあります。
重症筋無力症の死亡率は?
治療の進歩により死亡率は低下し、重症筋無力症の症状がコントロールができていない症例でも1%以下と報告されています。スウェーデンの研究からは重症筋無力症患者の死因には、がん、虚血性心疾患、インフルエンザ・肺炎が多いとわかりました。
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