この記事を読んでわかること
・脊髄損傷の治療
・脊髄損傷の治療目標とリハビリテーション
・脊髄損傷に対する再生医療
脊髄損傷は脊椎や脊髄に交通事故や転落など強い力がかかることで、神経が障害される怪我です。
1992年の調査では人口100万人あたり40人程度の発生頻度であり、活動性の高い20歳代とやや年齢を重ねた60歳代に発生のピークがありました。
安全対策などにより若年での発生は減少しているものの、近年では70歳以降の高齢者に発生するケースが増加しているという問題があります。
脊髄損傷の治療に決め手はなく、障害の程度に応じてどのように日常生活や社会生活への復帰を達成していくかという点が重要になります。
この記事では脊髄損傷の治療において重要な位置を占めるリハビリテーションについて解説します。
脊髄損傷の治療
脊髄損傷は神経の束である脊髄が損傷される怪我ですが、神経そのものを治療する方法はありません。
急性期は神経の障害が拡大しないようにするための治療が行われます。
損傷した部分では体のその他の部分と同じように出血します。
怪我をした直後に体を動かしたり、脊髄に力がかかったりすると出血が多くなり神経の障害を拡大させてしまうことがあります。
そのため、受傷直後は絶対安静が必要です。
状況により出血や腫れを抑えるための薬剤が使用されることがあります。
ところで、脊髄は脊椎という骨の中を通っています。
脊髄損傷が起きた場合、脊椎にも損傷が及んでいる場合があり脊椎が不安定になっていると脊髄の損傷が拡大する恐れがあります。
そのため脊椎の損傷が重い場合には、金属で脊椎を固定する手術を行うことがあります。
また、脊髄損傷を受傷した方は元々脊髄を圧迫する病変(加齢による骨の変形や椎間板ヘルニアなど)を持っていることが多く、圧迫を解除するための手術が行われることもあります。
脊髄損傷の治療目標とリハビリテーション
急性期の治療が一段落すると、残された機能を維持し可能な限り生活能力を獲得するためのリハビリテーションが実施されます。
脊髄損傷では損傷高位により到達可能な生活レベルがある程度決まります。
高位というのは損傷した場所を表す言葉で、脳に近い方が高いという表現です。
脳に近い頚髄は高位が高く、腰髄は低いということになります。
頚髄の中でもより高い場所での損傷の場合、両側の手足が麻痺するため生活のほぼ全てに介助が必要になります。
頚髄の中で比較的低い場所の損傷である場合、手の動きが部分的に残ることがあり、その場合車いすでの生活ができる可能性があります。
腰髄の損傷では杖や装具を使用して歩行が可能になる見込みがあります。
これらを目安として到達目標が設定され、リハビリテーションが実施されます。
脊髄損傷に対する最新ロボットリハビリ
脊髄損傷に対するリハビリテーションは、前項で説明した通り「残された機能を使用して生活する」ための治療でした。
しかし近年になり、神経そのものの機能を改善しようとする試みが広まっています。
その一つがロボットを使用したリハビリです。
複数のロボットがリハビリに使用されるようになっていますが、代表的なものにHAL®があります。
HAL®は国内で開発された機器で、2016年にロボットリハビリとして国内で初めて保険適用となりました。
脊髄損傷では麻痺した場所を動かそうとしても、筋肉が動いてくれることはありません。
しかし、体内では神経の信号が伝わりわずかな電流が起きています。
HAL®はこのわずかな電流を感知して、動作を補助します。
すると「歩こう」「曲げよう」「伸ばそう」といった自分の意思に応じて体が動くということになります。
その現象を繰り返し経験することで、神経が動作を再学習し神経の機能が改善するのです。
HAL®は世界的にその効果が注目され、世界各国で治療が行われています。
脊髄損傷に対する再生医療
神経の障害そのものを治療しようとする試みに、再生医療があります。
再生医療では神経の元になる「幹細胞」を使用します。
体内に移植された幹細胞は神経に対して保護的な作用を示す物質を分泌するとともに、自分自身が神経に成長して機能するようになることが期待されています。
ニューロテックメディカル株式会社では、「ニューロテック®」として脳卒中・脊髄損傷・神経障害などに対する幹細胞治療の基盤特許を取得しており、再生医療の効果を高める取り組みを行っています。
脊髄損傷に対しては、再生医療と最先端のリハビリテーションを組み合わせることで最大限の機能回復を達成できると考えています。
脊髄損傷の症状にお悩みの患者さんやご家族の方は、ぜひご相談ください。
まとめ
脊髄損傷のリハビリテーションについて解説しました。
依然として患者さんの数が多い怪我であり、高齢の方では他の障害が合併していることも多くリハビリテーションの重要性がより高くなっていると言えます。
ロボットリハビリや再生医療など新たな治療の効果が期待されています。
よくあるご質問
脊髄損傷のリハビリ方法は?
脊髄損傷のリハビリ方法は、運動療法・電気刺激療法・日常生活訓練を中心に行います。
運動療法は筋力増強訓練や歩行訓練を行い、身体機能改善を目的に行います。
電気刺激療法は神経や筋肉に直接電気刺激を与える方法で、電刺激療法を与えながら筋力訓練や歩行訓練を行うことで効果が得られやすいです。
日常生活訓練は食事や更衣、トイレ動作といった日常生活で必要な動作練習を行います。
福祉用具や環境調整など症状に合わせて訓練していきます。
脊髄損傷のリハビリ期間は?
脊髄損傷の後に神経の回復が見込めるのは約6ヶ月までと考えられています。そのため受傷後6ヶ月までは回復期と位置づけられ集中的にリハビリが行われます。その後はリハビリの頻度は減るものの、生活能力を維持するためには訓練が必要となるため、リハビリの終わりはないと言えます。
<参照元>
・「脊髄損傷」リハビリナース14(3), 2021
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