この記事を読んでわかること
・多発性脳梗塞とは?
・ラクナ梗塞を発症させる最も重要な危険因子は
・多発性脳梗塞のリハビリ
多発性脳梗塞という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
聞いたことがあったとしても、具体的にどのような特徴があるのかまでは、よく知らないという方がおられるかもしれません。
特に自覚症状がないのに、いつの間にか多くの脳梗塞が起こっているのが多発性脳梗塞ですので、自分には関係がないと思っている人にも、いつの間にか起こっている可能性があります。
そこで今回の記事では、多発性脳梗塞とはどのような状態なのか、多発性脳梗塞を起こしやすい原因、また対処法などについてご説明します。
多発性脳梗塞とは
多発性脳梗塞とは、文字通り脳梗塞が多く発生することですが、いくつかの特徴があります。
その特徴を3つご紹介します。
ラクナ梗塞であること
多発性脳梗塞では、ラクナ梗塞(lacunar infarction)と呼ばれるタイプの脳梗塞が多数できます。
ラクナ梗塞は、ひとつの梗塞巣が1〜1.5cm程度と小さいこと、また両側の大脳の深いところにできやすいことが特徴です。
ゆっくりと進行すること
それぞれの梗塞巣が小さいこともあり、いわゆる小梗塞とも言われ、一気に症状が進行することがありません。
階段状と呼ばれることもありますが、少しずつ、そして段階的に症状が進みます。
症状がなかなか出てこないことから、無症候性脳梗塞と呼ばれることもあります。
ラクナ梗塞の別名・同義語
- 小梗塞(しょうこうそく)
- 文字通り「小さな梗塞」で、ラクナ梗塞の特徴である直径15mm未満の病変を指す総称として用いられることがあります。
- 穿通枝梗塞(せんつうしこうそく)
- ラクナ梗塞の原因となる、深部にある穿通動脈(細い血管)が閉塞して起こることからこの名称が用いられます。
- 脳深部小梗塞(のうしんぶしょうこうそく)
- 脳の深部構造(視床、内包、基底核、脳幹など)に小さく起こる梗塞という意味です。
特徴的な症状があること
できる場所に特徴がありますので、その症状にも特徴があります。
詳細は後でご紹介しますが、大脳基底核や放線冠と呼ばれる部位にできることが多く、左右対象に梗塞が多発しています。
その結果、パーキンソン病にみられる症状や認知症の症状などがみられることが特徴です。
多発性脳梗塞の原因
多発性脳梗塞はラクナ梗塞が多数できている状態ですので、ラクナ梗塞ができる原因についてご説明します。
ラクナ梗塞は、脳の深い部位につながる細い動脈の血流不足によって起こります。
ラクナ梗塞を発症させる最も重要な危険因子は、慢性的な高血圧です。
高血圧は動脈を狭くする原因となります。
これにより、コレステロールの塊や血栓が脳深部組織への血流を阻害しやすくなります。
ラクナ梗塞のリスクは、年齢とともに増加します。
リスクのある人は、慢性的な高血圧の他、心臓疾患、または糖尿病のある人です。
また脳卒中の家族歴がある人は、他のグループに比べてリスクが高いと言われています。
その他、ラクナ梗塞を起こす可能性のある要因は以下の通りです。
- 喫煙または副流煙への暴露
- アルコール摂取
- 座りがちなライフスタイル(運動不足)
- 食生活の乱れ
- 高コレステロール血症
- 糖尿病
- 閉塞性睡眠時無呼吸症候群
多発性脳梗塞の症状
一般的な脳梗塞では、突然手足が動かなくなる、感覚がわからなくなるなど、はっきりとした症状が出ます。
しかしラクナ梗塞が多発する多発性脳梗塞には、目立った症状がなかなか表れないという特徴があります。
また症状にも以下のような特徴があります。
- 認知症
- 一気に認知症の症状が出るのではなく、徐々に進行する特徴があります。
- 言語障害
- はっきりと言葉が話せなくなります。
- 歩行障害
- 小刻みに歩くという特徴があります。
- 嚥下障害
- ものを飲み込みにくくなります。
なおラクナ梗塞は、安静時、特に眠っている間に起こる特徴があります。
段階的に症状が悪化して行きますが、特に朝起きると症状が進行しているという特徴もあわせ持ちます。
多発性脳梗塞の小刻み歩行
多発性脳梗塞の症状のひとつに、「小刻み歩行」というものがあります。
この特徴的な歩き方は歩幅が非常に小さく、膝をあげることなく歩きます。
また多くの場合、前傾姿勢となり手をあまり振らないで歩きます。
小刻み歩行は、多発性脳梗塞に伴って認めることがあります。
その他、パーキンソン病や水頭症でも起こることが知られています。
多発性脳梗塞の小刻み歩行の原因
多発性脳梗塞で特徴的な歩き方である小刻み歩行がみられるのは、脳梗塞が発生する場所と関係があります。
ラクナ梗塞は、大脳の深い位置にある大脳基底核に発生しやすいことがわかっていますが、この「大脳基底核」は、大脳が司る運動の機能を調節する働きがあります。
例えばスムーズに歩くためには、両方の足をそれぞれタイミングよく、適切な歩幅で動かす必要がありますが、大脳基底核が障害されていると、どのタイミングでどの程度動かせばよいのかといった細い調節や体重の移動などをうまく制御することができなくなります。
したがって、大脳基底核が障害されていると、そのような調節をする必要がない、小さい歩幅で前のめりになって歩く小刻み歩行となってしまうのです。
なお大脳基底核が障害されると、歩き始めるといった運動の開始が困難になったり、思ったところで立ち止まったりするなどの調整も難しくなってしまいます。
多発性脳梗塞の小刻み歩行のリハビリ
多発性脳梗塞の原因となっているラクナ梗塞は、薬を用いた治療やリハビリをすることで劇的な改善が望めるものではありません。
小刻み歩行に対しても同様で、リハビリをすることでスムーズに歩くレベルまで改善することは困難かもしれません。
そのため歩行器を使ったリハビリに取り組むこともあります。
なお同じく小刻み歩行の症状が出るパーキンソン病の患者さんに対し、リラクゼーションと1〜2Hzの音刺激に合わせて足踏みを繰り返し、その後歩行する訓練を繰り返すと、体重移動が上手にできるようになり、小刻み歩行が改善したとの報告はあります。
(出典:外山治人ら. すくみ足・小刻み歩行を呈するパーキンソン病患者に対する歩行訓練について. 理学療法学. 1991;18:521-7)
まとめ
多発性脳梗塞について、その特徴や症状について解説しました。
気付いた時にはすでに多発しており、またなかなか治療も難しい脳梗塞ですので予防することが大切です。
現在の医療では、壊死した神経を再生することは難しいのが現状です。
そのため、新たな治療として再生治療への関心が高まっています。
再生医療の実際例として、「神経障害は治るを当たり前にする取り組み」を、ニューロテック®と定義しています。
また、脳卒中や脊髄損傷、神経障害の患者さんに対する『狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療』を、リニューロ®と定義しました。
具体的に、リニューロ®とは、同時刺激×神経再生医療Ⓡにて『狙った脳・脊髄損傷部の治癒力を高める治療』です。
また、その治療効果を高めるために骨髄由来間葉系幹細胞、神経再生リハビリ®の併用をお勧めしています。
高血圧をはじめとするラクナ梗塞の危険因子がある場合は、危険性を少しでも減らすことができるよう、ライフスタイルの見直しや薬によるコントロールを心がけましょう。
よくあるご質問
- 多発性脳梗塞とは?
- 自覚症状がないのに、いつの間にか多くの脳梗塞が起こっているのが多発性脳梗塞です。
多発性脳梗塞では、ラクナ梗塞と呼ばれるタイプの脳梗塞が多数できます。
パーキンソン病にみられる症状や認知症の症状などがみられることが特徴です。 - 脳梗塞とラクナ梗塞の違いは何ですか?
- 脳梗塞は脳の血管が詰まり、血流が途絶えて脳細胞が損傷する状態です。
ラクナ梗塞はその中でも、特に細い血管(穿通枝)が詰まって小さな梗塞を起こすタイプで、高血圧が主な原因です。
症状は軽いことが多いですが、複数回起こると認知機能に影響することもあります。
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