この記事を読んでわかること
・神経鞘腫(シュワン細胞腫)の疫学がわかる
・神経鞘腫(シュワン細胞腫)の症状がわかる
・神経鞘腫(シュワン細胞腫)の治療法がわかる
神経鞘腫(シュワン細胞腫)とは、末梢神経の神経鞘と呼ばれる部位が腫瘍化する病気です。
聴神経や三叉神経などの脳神経に発症することが多く、発症部位によってさまざまな症状をきたす病気です。
発見や対応が遅れれば後遺症を残す可能性も高まるため、注意が必要です。
この記事では、神経鞘腫の疫学や症状、診断方法や治療について解説します。
神経鞘腫(シュワン細胞腫)とは?
神経鞘腫(シュワン細胞腫)とは、その名の通り神経を包む鞘のような構造物、いわゆる髄鞘を形成するシュワン細胞が腫瘍化し、包まれている神経の機能が障害される病気です。
脳や脊髄などの中枢神経系ではなく、脳から分岐する脳神経や脊髄から分岐する末梢神経の神経鞘が腫瘍化します。
神経鞘の機能は主に下記の2つです。
- 神経が剥き出しにならないように保護
- 伝導速度の向上
神経鞘は絶縁体のような役割を持ち、神経内の電気信号が神経鞘をスキップして伝導(これを跳躍伝導と呼ぶ)していくため、神経鞘がある神経は伝導速度が早くなるわけです。
しかし、神経鞘腫ができると伝導速度は遅延し、内部の神経が障害されることでさまざまな神経症状が出現します。
好発部位は頭頸部や四肢末梢で、他にも胸壁、椎体周囲の後縦隔、後腹膜、消化管周囲などです。
腫瘍と聞くと怖いイメージを持たれる方も多いと思いますが、神経鞘種の場合はほとんどが良性疾患であり、周囲に転移や播種することなく、ただ肥大化していくだけです。
主に脳外科領域では、脳から分岐する12の脳神経における神経鞘種が問題となります。
特に発症しやすい脳神経は聴神経(前庭神経+蝸牛神経)で、脳神経から発生する神経鞘腫の90%以上は聴神経、特に前庭神経鞘腫が多いです。
次いで三叉神経・顔面神経・舌咽神経や迷走神経・動眼神経などが好発部位です。
では、具体的にどのような症状をきたすのでしょうか??
神経鞘腫の主な症状
神経鞘腫の主な症状は、どの神経が障害されるかによって異なります。
- 前庭神経:耳鳴り・めまい・難聴
- 三叉神経:顔の痛みやしびれ
- 顔面神経:表情筋の麻痺
- 舌咽神経:飲み込みが悪くなる嚥下障害・上手く話せなくなる構音障害
- 迷走神経:嗄声
- 動眼神経:複視
これらの他にも、巨大化した腫瘍が脳を圧迫すると頭痛・嘔気・めまいやふらつき・認知機能低下・麻痺やしびれなどの症状が出現し、さらに進行すれば意識障害や呼吸停止など命に関わるような症状をきたすため、注意が必要です。
悪性腫瘍ではないため腫瘍の成長スピードは緩徐であり、数年の経過で徐々に進行していきます。
神経鞘腫の診断と治療
なんらかの症状が出現し医療機関に受診すれば、まずは身体診察・問診などを行い、その後は頭部の画像検査を行うことになるでしょう。
特に診断に役立つのは頭部CT検査・頭部MRI検査です。
最近では飛躍的に画像検査の質が向上しているため、より早期に腫瘍を発見できるようになりました。
画像検査で腫瘍の形や場所、性質などを把握し、その上で治療は下記の2つが選択肢です。
- 手術療法
- 放射線療法
2つの治療はどちらも「局所に発生した腫瘍を完全に除去すること」を目的とした治療法です。
頭蓋骨を開けて、直視下で腫瘍を切除する手術療法は最も標準的な治療法ですが、高い技術が必要となります。
一方で、放射線療法は体の外からガンマ線を照射し、身体にメスを入れることなく腫瘍の成長を抑制したり、ある程度小さくすることができます。
しかし、3cm以上の大きな腫瘍は放射線療法では難しく、手術療法が選択されることが多いです。
神経鞘腫はほとんどの場合良性腫瘍であるため、発生した腫瘍さえ取りきってしまえば、再発することもなく完治できます。
しかし、頭蓋内の神経鞘腫は周囲に重要な組織があり、脳神経や血管を巻き込むように成長してしまうと、完全な摘出は困難となり、根治することができなくなります。
仮に手術で腫瘍の大半を切除したとしても、腫瘍は残存し再び成長してしまうためです。
また非常に稀ですが、悪性の神経鞘種も存在し、進行すれば手術療法や放射線療法だけでは身体から除去できなくなります。
そのため、良性・悪性いずれにしても、早期発見・早期治療が非常に重要です。
まとめ
今回の記事では、神経鞘腫(シュワン細胞腫)の基礎知識と主な症状について詳しく解説しました。
神経鞘腫(シュワン細胞腫)は主に前庭神経鞘種として発症することが多く、めまいや耳鳴りを初期症状として発見される方が多いです。
多くの場合、良性疾患であるため放射線療法や手術療法によって治療可能ですが、これらの治療によって周囲の正常な神経を損傷すれば神経学的後遺症を残す可能性があります。
また悪性腫瘍の場合は周辺の脳や神経を侵食して増大していくため、神経学的予後は悪いです。
これらの神経学的後遺症に対しては現状リハビリテーションが唯一の治療法ですが、最近ではニューロテックメディカルでは、「ニューロテック®」と呼ばれる『神経障害は治るを当たり前にする取り組み』も盛んです。
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また、神経機能の再生を促す再生医療と、デバイスを用いたリハビリによる同時治療「同時刺激×神経再生医療Ⓡ」によって、神経鞘種に伴う神経学的後遺症の改善が期待できます。
よくあるご質問
- 神経鞘腫はなぜできるのですか?
- 神経鞘腫は、末梢神経の軸索を周囲から包む髄鞘を形成するシュワン細胞が増殖することで発症します。
なぜシュワン細胞が増殖してしまうのかの原因については解明されていませんが、一部では遺伝的要因も示唆されています。 - 神経鞘腫が悪性化する確率は?
- 悪性の神経鞘種は神経鞘種全体の約1%と非常に稀ですが、その悪性度は高く、生命予後は不良であることが知られています。
悪性の神経鞘種は小児ではまず発症することはなく、成人以降で発症することが多いです。
<参照元>
・慶應義塾大学病院:https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000309.html
・日本神経病理学会:https://www.jsnp.jp/shikkan/cerebral_7.htm
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