この記事を読んでわかること
・高次機能障害とは
・記憶障害への対応
・遂行機能障害への対応
高次脳機能障害の主な4症状である記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害について対応の仕方を解説します。
高次脳機能障害にはさまざまな症状があり、それぞれに対応した治療や訓練が必要です。
障害者手帳の取得が本人や周囲の負担を減らす一助になるかもしれません。
高次脳機能障害の定義と種類、障害者手帳の取得
高次脳機能障害とは、脳の損傷や障害により認知の機能が障害されることを指します。
病態としてはもちろん世界的に認識されているものの、「高次脳機能障害」という言葉は日本特有のものです。
英語では「Higher brain dysfunction(ハイアー・ブレイン・ディスファンクション)」と呼ばれます。
半身麻痺などわかりやすい障害と異なり、高次脳機能障害を持っている方は見た目ではわからないことも少なくありません。
しかし実際には一般社会での生活が困難となる重い症状であり、過去には介護をする家族が困り果てて市役所を訪ねても「利用できるサービスがない」という状況がありました。
そこで、2006年厚生労働省は医療福祉に関するサービスを利用できるようにするため、障害者手帳を取得するための条件を整備し、「高次脳機能障害」診断基準として公表したのです。
診断基準を要約すると、
- 後天性の器質的脳損傷に基づく症状である
- 「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会的行動障害」などの認知障害がある
- それらの症状が主な要因となり日常生活、社会生活への適応が困難
以上を満たす方を、高次脳機能障害者とする。
となっています。
高次脳機能障害が発症する頻度は思ったよりも高く、脳卒中の患者さんの約4割に残ると言われています。
脳梗塞から一命をとりとめ麻痺など強い症状が残らずにすんだものの、性格が変化してしまい社会生活に適応できない、というケースが少なくありません。
医療機関によっては十分な説明を受けることができず、家族が戸惑い困ってしまうということもあるようです。
障害を持つ方の介護は想像以上に大変ですから、自分たちだけで抱え込む必要はありません。
脳梗塞による高次脳機能障害への対応として、まず障害者手帳の取得を検討されるといいかもしれません。
記憶障害への対応
記憶障害とは、言葉の通り覚えることの障害です。
記憶には、大きく分けて陳述記憶と非陳述記憶があります。
陳述記憶は自分が経験した出来事に関する記憶(エピソード記憶といいます)や、学習することで覚えた知識に関する記憶です。
非陳述記憶は、作業や技能について体を使って覚えた知識(自転車に乗るなど)のことです。
脳梗塞などの脳の損傷では、主に陳述記憶の中のエピソード記憶に障害が起こりやすくなります。
エピソード記憶は脳の海馬が主に担う機能ですが、海馬は血流の減少に弱く、損傷されやすいためです。
そのため物の置き場所を忘れてしまったり、新しいできごとを覚えることができなくなったりしまいます。
何度でも同じことを質問してしまう、自分が食事したことも忘れてしまう、などの症状がでます。
できるだけ記憶の機能を維持するためには、机上で学習プリント等の教材を使用して記憶の訓練を行うことが重要です。
物忘れ防止や、脳トレなどの教材が一般に広まっており、有効である可能性があります。
ただし記憶障害を持つ方は同時に注意障害(集中力が続かないなど)を有していることが多く、長時間学習を続けることは簡単ではありません。
メモ帳や張り紙を利用する、など代替手段が必要となるケースが多くなります。
注意障害への対応
注意障害という言葉には複数の意味が込められているのですが、大きく分けて次の4つの側面があり、それぞれ障害されると出現する症状を列挙します。
- 複数の物事から一つを抽出する能力の障害(雑踏の中で特定の人と話ができない)
- 一定時間物事に集中する能力の障害(飽きやすい、長く仕事をするとミスがでる)
- 複数の刺激に同時に注意を向ける能力の障害(グループでの話し合いができない)
- 他の物事に注意を切り替える能力の障害(話題が変わるとついていけない)
これらの症状を見ると、逆に生活に必要な注意力がどのようなものなのか分かります。
日常生活に直結する障害であることがわかると思います。
注意障害に対するドリル学習やコンピューター機器を使用した訓練を実施した研究があるものの、必ずしも機能の改善が得られるわけではありません。
むしろ、どのような代替手段を身につけることができるかといった点のほうが、日常生活への復帰には重要と考えられています。
注意障害を持つ方が生活を送るのに重要なのは「時間を十分に確保すること」です。
そのために、
- 自分は上手に物事を処理するには時間がかかることを自覚する
- 作業をするときには時間が必要であると周囲の人に伝える
- この2点を日常生活に適応できるよう練習する
ことが重要であると考えられています。
遂行機能障害への対応
遂行機能障害とは、「目標を設定し、そこまでの過程を計画・段取りして、達成するための方法を選択し、実際に行動し確認する」という一連の動作を行う能力が障害されることです。
計画的な行動ができないため、衝動的な行動を取る、または行動を開始することができず無関心や無気力に見える、他人の指示を待つだけになる、などの症状となります。
作業をするには集中力が必要になり、手順を覚える記憶力が必要になるため、遂行機能の障害は記憶障害や注意障害の影響を受けます。
そのため対応としては遂行機能のみにとらわれるのではなく、記憶や注意力にも配慮していく必要があります。
遂行機能の訓練には、自分の能力を自覚した上で動作を選択する訓練(Metacognitive strategy training)や、ゴールを設定しそのための計画を構造化する訓練(Goal management training)などがあります。
料理や洗濯、掃除、買い物など日常生活を行うことが訓練になるものの障害の程度によっては難しく、動作のゴール設定、自分がどれくらいできるかを予測する、必要な介助を依頼する、そして一連の動作を確認、反省するという練習を行うためには、第三者の介入が必要になります。
社会的行動障害への対応
社会的行動障害とは、その場の状況に合わせて行動や言動、感情などをコントロールすることが難しくなり、社会的な生活が困難になることを指します。
社会と関わり生活していくためには、さまざまな状況に合わせて柔軟に対処する能力が必要となりますが、その障害のため種々の困難を生じるようになります。
社会的な生活に支障をきたす行動、言動、感情の障害は次に挙げるようにさまざまなものがあり、これらを総称して社会的行動障害と呼んでいます。
- 意欲、発動性の低下(自ら行動することができず無気力のように見える)
- 情動コントロールの障害(怒りや悲しみのコントロールができずに急に怒ったり泣き出したりしてしまう)
- 対人関係の障害(人と良好な関係を築くことができない)
- 依存的行動(すぐに人に頼るなど)
- 固執(同じことをいつまでも続ける、こだわりが強く人の意見を聞かない)
- 抑うつ
- 引きこもり
- 被害妄想
- 徘徊(目的もなくうろうろと歩き回る)
以上のように症状が非常に多彩であるため、対応もケースバイケースであると言わざるをえません。
基本となるのは一日の予定や週間予定など、生活リズムを確立することです。
安定したリズムで日々を送ることで徐々に生活に順応していくことができるようになります。
症状が強くでるのは何かしらの刺激や場面がきっかけになることが多く「症状を誘発するような状況を避ける」ということも重要です。
その上で、それぞれの患者さんに合った対応方法、治療方法を考えていくことになります。
まとめ
高次脳機能障害の主な4症状、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害への対応について解説しました。
他人からすると分かりづらい症状であるため病気だと認識されていないケースも多く、本人周囲ともつらい思いをされていることが少なくありません。
まずは病気であるという認識を持ち、周囲が受容的な態度で接することで治療を開始していきましょう。
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